世界的な株安がつづいている。主要国の株式市場の動向をみると(図表1)、8月に入り各国の株価は低下しつづけ、現時点においても低迷がつづいている。そしてわが国においては、19日のニューヨーク市場で円相場が5ヶ月ぶりに戦後最高値を更新し、75円95銭をつけたが、現時点においても76円台を推移しており、予断を許さない状況にある。以下では世界的な株安と円高に影響を与えていると考えられる要素について整理しつつ、その背景についてみていくことにしたい。
各国株式市場の動向から浮かび上がる2つの事実
まず各国株式市場の動向を確認しておこう。図表1は、新興国・アジアと日本、米国、欧州の株価の推移を、緊急欧州首脳会議でギリシャへの第二次支援策が合意された7月21日を100とした場合の指数のかたちでみたものだ。この図表からは大きく2つの事実がわかるだろう。
1つ目の事実は株価の下落幅は各国で差が生じているということだ。たとえば新興国・アジア諸国の株価は7月21日を100とした場合、9%から15%程度下落しており、日本(日経225)は14%の下落となっている。英国および米国の株価は8月22日時点で7月21日時点から15%程度の下落、そして欧州はドイツおよびイタリアが25%、フランスが20%、スペインが17%程度の下落となっており、株価の下落幅という意味では、新興国・アジア・日本、英国および米国、欧州というかたちで深刻さが増している。
2つ目の事実は、株価の下落幅には差があるものの、株価が大きく下落したタイミング、そして持ち直したタイミングが共通していることだ。この傾向は8月1日以降で顕著となっている。以上の事実は、世界経済はデカップリングでなく、相互依存的な関係にあることを改めて示唆している。
世界的な株価の下落については、欧州については欧州債務危機と欧州経済の減速が、米国については米国債務上限引き上げ問題、米国債格下げ、米国経済の減速といった要素が挙げられている。株価の下落率という視点からこれらの要素のインパクトの大きさを検討すると、世界的な株安の進行の中では、欧州債務危機問題と欧州経済の減速のインパクトが大きいことが図表1からわかるだろう。次に米国経済の減速のインパクトが大きい。そして我が国及びアジア・新興国の株価下落は、貿易相手国としての欧米経済の変調からの影響を受けていると考えられる。
十分な沈静化には至っていない欧州債務危機
欧州債務危機についてまずあげられるのは、財政悪化に伴う国債金利の上昇である。図表2はドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ポルトガル、スペインの10年物国債の利回りの推移をみている。
これをみると、7月21日の緊急首脳会議においてギリシャへの第2次支援策が決定されるまでは、デフォルトが懸念されるギリシャの国債利回りは18%まで拡大していたが、第2次支援策後の国債利回りは15%程度まで減少したことがわかる。そして緊急首脳会議では、アイルランド、ポルトガルが資金調達を再開できるまで支援を行うことが表明された。これにより、アイルランド、ポルトガルの国債利回りも低下している。
しかしながら、ギリシャの国債利回りは8月に入りふたたび上昇に転じている。これは第2次支援策を行ったとしてもギリシャのデフォルトが依然として懸念されていることを示している。そしてアイルランドやポルトガルの国債利回りも減少したとはいえ、まだ2011年初の水準を下回ってはいない。なお、ギリシャ、アイルランド、ポルトガルの債務不安を受けて、イタリアおよびスペインにも影響が飛び火するのではないかといわれているが、7月に入り両国の利回りは上昇したとはいえ6%を下回る水準である。そして、8月8日の週に行ったECBの国債買い入れの影響もあって、利回りは一旦低下している。
以上、国債利回りの動向からは、7月21日の緊急首脳会議に伴うギリシャ、アイルランド、ポルトガルへの支援策、更に8月8の週(8日~12日)のECBの国債買い入れが利回りの抑制に効果を上げているものの、沈静化には至っていないのが現状であると言える。
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