おカネの視点から復興への経済政策を考える

過去20年間、政府は自らのおカネを使って元気をなくした国民を助けようとしたが、国民は元気にならなかった。政府は元気のない国民から税としておカネを取ろうとしてもうまくいかず、国債を発行して国民からおカネを借りつづけることで糊口をしのいでいた。それが震災前のわが国の姿であった。

 

 

震災に伴って深刻化するジレンマ

 

このようななか、直接被害が16兆円から25兆円、間接的な被害を含めるとそれ以上になると見込まれる東日本大震災が生じ、国民のもっていた資産が失われ、多数の生命が奪われるという不幸な事態が生じた。

 

原田泰氏が指摘するように、震災により資産が失われても負債が減ることはなく、債務負担は増加する。震災は、国民の元気をさらに失わせる由々しき事態だ。国民の元気がさらに失われれば、政府は税としてこれまで得ていたおカネを得ることすら難しくなってしまう。

 

そして現在の国民の元気は国民の将来にもいくばくか影響する。現在の国民の元気がさらに失われれば、国民からおカネを借りるのも難しくなる。結局、政府がおカネを得ることがより難しくなる。復旧・復興するにもおカネがなければ、被災した人々の手助けをすることもできない。どうしたら良いのだろうか?

 

 

増税という調達方法

 

考えられるひとつ目の方法は、増税によって国民からさらにおカネを取ることで、震災から復旧・復興するための費用を捻出することだ。

 

しかし、余程余裕のある国民なら兎も角として、増税をすれば国民全体の元気はさらに失われるだろう。所得税や法人税の増税ならば、震災により直接被害を受けた人々には増税の影響はないのかもしれない。だが被災地以外の地域の人々に増税の影響は及ぶ。消費税の増税ならば、被災地以外の人々のみならず、被災地への人々にも増税の影響が及ぶことになるだろう。

 

過去20年間を通じて国民は元気を失い、さらに震災が追い討ちをかけているのが現状である。もしかすると増税を行ったとしても、政府はこれまで得ていたおカネすら得ることができない可能性もある。

 

かつて1997年に消費税を3%から5%に引き上げた際、おそらく政府は国民からさらにおカネを取ることが可能だと見込んだのだろう。ただし、消費税から得られる税収は当初増えたものの、全体の税収は増えず、他の要因も作用して景気は落ち込んでしまい、当時の政府の目論見はうまくいかなかった。

 

たしかに政府があいだに立って、余裕のある国民から、すべてを失った国民におカネを渡してあげることも可能だ。ただし、これではすべてを失った国民の資産を回復させることはできたとしても、余裕のある国民の資産は減ってしまう。国民全体の視点でみれば、災害によって失われた富は戻ってこないのだ。

 

 

支出の組み換えという調達方法

 

ふたつ目の方法は、政府のおカネの使い道を見直して震災の復旧・復興に充てるというものだ。だが、政府が明らかに必要でないものにおカネを費やしていたとは考えにくいし、実際無駄な使い道かそうでないかを決めるのも難しい。無駄な支出か必要な支出かを仕分けして、無駄な支出を財源とすることがどれだけ難しいのかは、われわれが事業仕分けの経験から学んだことだ。

 

注意すべきは、政府が元気をなくした国民を助けようとするために使うおカネの総量が変わるわけではないことだ。言い方を変えれば、おカネの使い道を見直して震災の復旧・復興に充てるというのは、その裏側に、震災以外の問題で困っている人を手当てすることができなくなる可能性も含んでいるのだ。

 

 

国債発行という調達方法

 

三つめの方法は、政府が国債を発行しておカネを借り、一定期間を経た未来に金利をつけて借りたおカネを返済するというものだ。

 

ただし、国民からおカネを借りるといっても限度があるかもしれない。すでにわが国はたくさんのおカネを国民から借りている。国民は応じてくれるのだろうか?応じてくれないとしたら政府はおカネを借りることができない。

 

さて困った。おカネを借りることができなければ、震災で国民の元気がさらになくなっても助けることができず、助けることができなければ結局、政府はこれまで国民から税として得ていたおカネを得ることができなくなるかもしれない。

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.2019.4.15 

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