中国経済の「不確実性」とどう向き合うか

2012年秋の反日デモによる日系企業や店舗の打ち壊しから早くも一年近くが過ぎたが、その間に中国でのビジネスはすっかり「高リスク」の代名詞になってしまった。とくに日本企業にとって中国でのビジネスはかつてない不安定さ、不確実性を抱え込んでいるといってよいだろう。

 

また、今年の6月には銀行間市場における資金の逼迫を背景として短期金利が急上昇し、その後株価が急落するなど、金融システムにおける脆弱性が、中国経済が抱えるさしあたっての「リスク」として問題視されている。

 

もちろん、ビジネスに不確実性やリスクはつきものである。ただ、中国でのビジネスに関するリスクの特徴は、そこに中国の経済システムに特有の問題がからんでいる点にあるだろう。それは日本の経済システムとはかなり異質なものを含んでいるため、システムの構造自体を理解しなければ、そこに具体的に生じているリスクがどの程度のものなのか、客観的な評価自体が困難になる。

 

シカゴ派の経済学の創始者ともいわれるフランク・ナイトは、例えば自動車事故のように生じる確率が客観的に判断可能であり、それゆえ保険によってカバーできる「リスク」に対して、そのような客観的な確率の計算が不可能であり、文字通り何が起こるかわからないような状況のことを「不確実性」と呼び、明確な区別を行った。

 

昨今の日中関係の悪化を背景に、日本では中国との経済関係、ひいては中国経済そのものがフランク・ナイトの言う「真の不確実性」に近いイメージで捉えられるようになった、と言えるのではないだろうか。

 

本稿は、最近になって中国経済のリスク要因として注目が集まるようになった「影の銀行」に代表される金融システムの問題と、「融資プラットフォーム」を通じた地方政府の債務問題に焦点をあてながら、そのような中国経済にまつわる「不確実性」の構造を、少しでも客観的かつ論理的にとらえることを目指したい。

 

 

中国版「影の銀行」拡大の背景とそのリスク

 

中国経済の抱えるリスクを象徴する存在として、まず「影の銀行」についてとりあげよう。

 

今年に入って中国経済がその減速傾向を露わにする中、それと並行して「バブル崩壊」「信用危機の発生」が喧伝されるようになっている。とくに今年の6月に「6月危機」とも呼ばれる金融市場における資金逼迫が中国経済を襲って以降、にわかに注目を集めるようになったのが、中国版「影の銀行(シャドーバンキング)」の存在である。

 

もともと米国の量的金融緩和が終了間近だという予測が広がり、ホットマネーの逆流が生じていたほか、理財商品(銀行の簿外取引を通じた資金調達手段である高利回りの金融商品)の返還期限が6月末に集中していたことから、短期金融市場は流動性不足ぎみに推移していた。

 

その中で、中央銀行である中国人民銀行は、あえて市場から資金を吸収する行動に出た。このため6月20日の銀行間市場における資金は逼迫し、SHIBOR(上海銀行間金利)のオーバーナイト金利は13.44%を記録した。短期金利の上昇は株式市場にも影響を与え、6月24日に上海株式指標は前日から5.39%下落した。

 

人民銀行がこのような行動に出た背景には、不動産や地方の開発プロジェクトへの「影の銀行」を通じた過剰な融資を警戒し、何らかの懲罰的措置を行う必要がある、という政府の判断があると言われている。

 

では、この中国版「影の銀行」とは、どのような性質を持つものであり、その規模はどの程度なのだろうか、また、実際に今後の中国経済にとって、どの程度のリスク要因になり得るのだろうか。

 

「影の銀行」について、ここでは従来型の銀行のように当局の規制を受けないものの、一定の金融仲介機能を果たすシステム全般のことを指す、としておく。

 

欧米先進国、とくに米国では、投資銀行を中心に非常に洗練された金融仲介の手法が発達し、FRBの規制の及ばないところでレバレッジと流動性リスクを急激に増加させてきた。これが数年前に生じたサブプライムローン危機やリーマンショックの背景となったことはよく知られている。

 

欧米の「影の銀行」の特徴は、投資銀行がCP(コマーシャルペーパー)の提供によって市場から短期資金を大量に借り入れ、CDO(債務担保証券)など仕組み債の取引を通じて、レバレッジを高めた高リスクの運用を行うところにある。

 

しかし、中国版「影の銀行」はこのような高度な金融商品の取引を前提としたものではない。その形態は大きく二つに分類され、一つはいわゆる「民間金融」と呼ばれる、インフォーマルな金融業者による短期融資である。この中には年間40-60%の高金利でリスクの高い貸出を行う日本のヤミ金に近い業者も存在する。もう一つのものが、商業銀行の簿外取引を通じたものであり、政府がその拡大を懸念し、6月の流動性危機の要因となったのは、こちらの方である。

 

「6月危機」の後、尚福林銀行監督委員会主席は、「影の銀行」の主要な資金調達手段であるとされる理財商品の残高を総額8.2兆元(約130兆元)とする推計を公表した。一方、「影の銀行」全体の資産残高について、欧米の各付け会社などの中には数字にして30兆元、対GDP比で5割を超えるという試算をおこなっているものもある。しかし、さまざまな形態の「影の銀行」には互いに重複しているものも多く、その真の規模は神のみぞ知る、といったところだろうか。

 

では、そのような「影の銀行」のリスクは、実際のところ、どの程度あるのだろうか。

 

 

 

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