中国経済の「不確実性」とどう向き合うか

中国版「影の銀行」で圧倒的なシェアを占める商業銀行の簿外取引には、いくつかのパターンがある。一つは、銀行が資産を帳簿から切り離し、信託会社などと協力してスキームを作り、不動産などに投資を行うというもので、一般に「銀信合作」と呼ばれている。

 

そもそも、中国の商業銀行法11条および43条により、商業銀行と証券・保険業務の相互乗り入れには厳格な規制が設けられている。このため、銀行は資産のプールをいったん別のスキームに移し、それを小口の金融資産(「理財商品」)にした上で、銀行の窓口を通じて代理販売する、という手の込んだ方法を採っているのである。

 

もう一つのパターンは「委託貸付」といわれる中国独特の制度である。これは、金融機関以外の企業が手元にある余剰資金を銀行に委託し、資金が不足している中小企業などに通常の貸出金利を上回る金利で貸出し、銀行が手数料を得るというものである。大手国有銀行から低利の金利で資金を借りている国有企業が、このような委託貸付の資金供給者となって利ざやを稼いでいることも指摘されている。

 

このような銀行による簿外取引は、商業銀行と証券業務の乗り入れが禁止されている状況下で、銀行による間接金融を補完し、証券業務との仲介的役割を果たすというポジティブな側面もある(李、2012)。

 

一方で、商業銀行のような厳格な規制・監督を受けないにも関わらず、短期の資金を調達して長期で運用するという「期間のミスマッチ」を生じるものが多いため、金融システムにとって一定のリスクをもたらしているのも事実である。

 

そんな中で、7月19日に中国人民銀行によって貸出金利の自由化が発表された。一方、預金金利については、「まだ自由化の条件は成熟していない」として自由化が見送られたほか、銀行に課せられた預貸比率(貸出額を預金の75%までに規制)による規制も継続されることが決まった。

 

中国は預金金利、貸出金利にそれぞれ基準金利を設定しているが、すでに2004年に貸出金利の上限および預金金利の下限規制は撤廃されている。一方、これまで預金金利の上限については基準金利の1.1倍、貸出金利の下限については基準金利の0.7倍という規制が続いており、銀行部門に一定の利ざや、すなわち規制によるレントが保証されていた。

 

このような大手国有商業銀行と、そこから低利の融資を受ける国有企業の既得権益を保護してきた強力な規制の存在こそが、これまで「影の銀行」が拡大する温床になってきた。実質金利がしばしば負になる状況のもとで、家計や企業などによる資金供給が、フォーマルな銀行預金ではなく、理財商品の購入などに向かってきたからだ。

 

注意しなければならないのは、このような銀行部門が享受するレントは、預金金利が低めに規制されることによって発生するものだ、ということだ。預金金利が競争均衡水準よりも低い水準に固定されれば、資金供給量は低下し、貸出金利は上昇する。このとき、銀行部門には利鞘に貸出量を乗じた分だけレントが発生するからである。したがって、今回行われた貸出金利の下限規制撤廃は、それだけでは金融市場のゆがみを基本的に変えるものではない、という見方が大勢を占めている。

 

だが、中国経済はこのまま金融市場の改革をいつまでも先延ばしできるような状況にはなさそうだ。

 

金融改革が喫緊の課題であることの最大の理由として、近年の過剰資本蓄積による資本収益率の低下、という現象が指摘できよう。昨年まで中国人民銀行の政策委員を務めていた中国社会科学院金融研究所所長の夏斌氏によれば、リーマンショック以降、マクロでみた資本収益率は確実に低下してきており、最近では実質金利を下回る水準にまでなっている(夏、2013)。

 

現在の中国経済が抱える深刻な問題の一つに、金融市場のゆがみによって、各企業がプロジェクトの収益性にかかわらず、「大手国有企業」と「中小の民間企業」といった、いわば「身分」によって不平等な金利負担を強いられていることがあげられる。

 

このような状況の中で全体の資本収益率の低下が進んでいけば、現在「影の銀行」などを通じて高金利での資金調達を行っている中小企業や後述する「融資プラットフォーム」企業、およびそこに資金を供給している中堅の金融機関に、いずれ大規模な経営破綻が生じても不思議ではない。

 

すでに述べたように、「影の銀行」それ自体には、硬直的な銀行中心の間接金融システムを補完し、証券業務との橋渡しを行う機能を持つ。ただ、金融自由化に不可欠な預金保険機構などのセーフティーネットが整備されないままの状況で、当局の管理が及ばない「影の銀行」による資金調達が増加していることは、中国経済にとって潜在的なリスクを拡大させてきたこともまた確かだ、と言わざるを得ない。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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