中国経済の「不確実性」とどう向き合うか

地方政府債務の拡大

 

さて、「影の銀行」問題が注目を浴びた背景として、地方政府によるダミー会社を通じた借り入れの仕組み、いわゆる「融資プラットフォーム」への融資が拡大していることが、その懸念の対象となっている。それでは、中国でもギリシャなどいくつかのEU加盟国のように、あるいは日本の夕張市のように、今後財政危機が表面化する可能性があるのだろうか?

 

まず数字を押さえておこう。今年3月中国財政省は、2013年の国家歳出が13兆8200億元(約200兆円)、財政赤字は対GDP比で約2.0%となる見通しを示した。また、2012年末の政府の債務残高は12兆2940億元であり、対GDP比は20%を割っている。政府の債務残高が対GDP比で200%を軽く超える日本からみれば、うらやましいほど健全な数字のように思える。

 

ただ、これはあくまでも、予算内の財政資金の話である。中国の地方財政には正規の税収などからなる予算内財政資金のほかに、さまざまな予算外、もしくは制度外の収入が存在する。

 

さらに、このような地方政府による地方政府主導による実質的な隠れ債務拡大の温床として問題になっているのが、「融資プラットフォーム(以下、「プラットフォーム」)」といわれる資金調達の仕組みである。

 

その具体的な方法としては、例えば政府が出資者となって「都市建設投資集団」といった名義の「プラットフォーム」を設立し、その企業が発行した社債を地元の銀行支店に引き受けさせて都市開発の資金を捻出する。あるいは、証券会社などに、プラットフォームの株式を対象とした投資信託を発売させ、一般投資家から資金を集める、などのやり方がある。

 

このような地方政府による「錬金術」が盛んに行われる背景には、リーマンショック後の4兆元規模の景気刺激策を実行するため、地方政府も資金の負担が求められた一方で、地方政府の正規ルートでの資金調達には、厳しい制限が課せられているという状況がある。

 

例えば、現状では地方債は中央政府が代行して発行することになっており、地方政府が自由に市中消化することはできない。しかし、上記のような政府が投資主体となった「プラットフォーム」の仕組みを使えば、そのような規制をかいくぐって実際の地方開発に必要な資金を捻出することができるというわけである。

 

それでは、このようなプラットフォームを通じた地方政府の実質的な債務残高は全体でどの程度の規模に達するのか。

 

2011年6月に、政府審計局(会計検査院に相当)は地方政府の実質的な債務の規模を確定するための大規模な調査を行い、地方の実質的な債務残高は約10.7兆元と発表した。これはGDPの約27%に当たる数字である。そのうち、6,500社あまり融資プラットフォーム企業を通じた債務は4.97兆元となり、全体の債務の46.4%に達するとされた。しかし、融資プラットフォーム企業の数は、実際にはそれよりも多く、2011年9月末の時点で約1万500社、借入残高は9.1兆元に達していたという報道もある。

 

このような融資プラットフォーム企業について、国務院は早くから問題視し、その整理・縮小を狙った政策を打ち出してきている。

 

例えば、2012年3月には、全国銀行監督委員会が、「地方政府融資プラットフォーム貸出のリスク管理に関する指導意見」を公表した。これは、プラットフォーム企業の債務を状態に応じて分類して整理するとともに、新規の銀行融資を厳格に規制する内容である。このような厳しい処置によって、地方政府の債務問題は解決に向かうかと思われた。

 

しかし、その一方で中央政府は、2012年に計画総額18兆元規模とも言える「地方版4兆元投資計画」を発動、景気刺激策のために地方政府の資金需要の拡大を助長するというちぐはぐな姿勢を見せる。

 

今年6月に全国36の主要都市を対象として行われた審計局の調査によれば、未償還の債務残高は2010年に比べ12.9%増加しており、大都市の中には債務残高のGDP比率が200%を越す都市もあることが明らかになった。IMFの調査によれば、こういった融資プラットフォームを通じたものを含めた中国政府の債務残高は2012年末の段階で対GDP比46%に上っているという。

 

そこで浮上してきたのが、上述のような「影の銀行」を通じた資金調達の増加である。上述のように、中央政府プラットフォーム企業に対する新規の銀行融資を厳しく規制してきた。

 

しかし、このような当局の規制の強化は、皮肉なことに「影の銀行」からの資金調達を増加させる結果をもたらした。当然ながらこれは、通常の銀行ローンに比べ高金利を課すものであり、その分貸し手・借り手双方のリスクも大きくなる。2012年12月には、国務院財務部は「地方政府の違法、違反融資行為の禁止に関する通知」を出し、これを警戒する姿勢を明らかにしたが、実質的な効果には乏しく、「影の銀行」を通じた融資の残高は拡大の一途を辿ってきたのは、すでにみた通りだ。

 

さて、このような地方政府の債務問題が、どこかで限界に達し、なんらかの「破綻」をもたらす可能性は、これまではそれほど高いものではなかった。

 

その一つの根拠は、経済学において「ドーマー条件」と呼ばれている、財政赤字の持続可能性の条件が、高成長を続ける現在の中国では満たされていると考えられる点にある。一般に、経済成長率が政府債務の金利を上回っているような状況の下では、政府は現在の債務を次世代に順次繰り延べすることが可能になり、財政赤字を少しくらい膨らませても財政破綻に陥る可能性は少ないからである。

 

もちろん、これは裏返せば、なんらかの原因で経済成長が減速すれば、このような楽観的な見通しは成り立たなくなるということでもある。前節でも論じたように、中国経済ではこれまでの過剰資本蓄積により資本収益率の低下が続いているが、これは多額の借入れを抱えたプラットフォーム企業の経営を直接圧迫することになるだろう。

 

むしろ現在の中国の地方財政が抱えている最大の問題点とは、その実質的な債務の拡大が正規のルートを通じない「制度外」で生じており、そこで何が起きようとも、正規の国家財政自体は決して「破綻」しない仕組みになっているところにある。

 

そのため、いわば中国経済全体にリスクをもたらす「信用危機」の引き金が、そのことによって自分たちが直接痛手を被るわけではない地方の役人たちの手に委ねられてしまっているのである。

 

そこにあるのは、リスクと責任の分担とが必ずしも対応していないことに起因する典型的なモラルハザードの構図であり、このため地方政府の実質的な債務の拡大に歯止めがかからない、という事態が生じていると考えられる。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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