いろいろ変わっちゃったから、もう一度本当の経済の話をしよう――『本当の経済の話をしよう』刊行一周年記念

宮崎駿の経済学

 

若田部 アニメといえば、今、映画『風立ちぬ』が話題ですよね。宮崎駿の発言を見ていると、アベノミクスに対する反発の典型的な例だと思うんです。ここでは、(『熱風』2013年7月号、スタジオジブリ出版部)での特集「憲法改正」(http://www.ghibli.jp/docs/0718kenpo.pdfでの発言を取り上げてみたいと思います。宮崎さんは経済学の素人なんで、素人に因縁をつけるのはよくないと思うんですが(笑)。

 

栗原 宮崎さんは由緒正しき素朴な心情左翼なんですよ(笑)。

 

若田部 宮崎さんは、「グローバル化」とか「市場」が嫌いなんですよね。あれだけグローバル市場で成功している人はそうそういないはずなんですが(笑)。

 

ですが、彼が懐かしがる日本の光景というのはテクノロジーの結晶なんですよね。蒸気機関車が走るというのもその当時からしてみればハイテクノロジーなわけです。先人が築き上げてきた経済成長や発展の成果なんです。

 

『風立ちぬ』でも、主人公は視力が悪いため、パイロットになれません。だから飛行機の設計技師になったという話です。しかし、マーケットが開かれていないと、そもそもそのような選択は出来ないんです。

 

同時に、宮崎駿がアニメで世界的な権威であるというのは、マーケットがあるから成り立っているわけで、まさにアニメの分野で比較優位を持っているから彼は成功を収めているんです。彼の成功は経済学通りに説明出来る。だから経済学が勝利していると思います(笑)。

 

栗原 ドイツへ飛行機の視察に行った主人公たちが、ドイツのあまりの先進ぶりに驚いて、日本の貧しさを思い知るというシーンには、何かネジくれた違和感を覚えました。

 

若田部 日本もそれなりに発展していましたからね。とはいえ、堀越二郎が零戦をつくったというのはすごいことだったんだと思います。パールハーバーの時に、零戦を積んだ空母艦隊が奇襲攻撃しましたよね。その時、アメリカの人達は日本のような国が高度なテクノロジーを作れたことに驚いたようです。「実はドイツ兵が日の丸をつけて攻撃していた」という都市伝説が流れたほどだと言います。

 

なぜ、そんなことが出来たのか。戦前の日本が破格のサクセスストーリーで、経済成長をどんどんしていたからです。だから堀越二郎が生まれたと。

 

栗原 映画では堀越二郎が天才だったから、ということになっていました。

 

若田部 もちろん、天才だったんでしょうけど、それを支えるためのインフラがないと天才であることは生かせないんです。

 

おもしろいのは、映画にはカステラに羊羹を挟んだようなお菓子「シベリア」が出て来ますよね。あの映画には当時のモダニズムの象徴がいくつも描かれています。主人公はそれに対して良い感情を持っていません。しかし、日本の近代化こそが堀越二郎を支えていたと言えます。

 

栗原 映画評論家の柳下毅一郎さんが『風立ちぬ』の評(「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」7月22日 http://www.targma.jp/yanashita/?p=1645)を書いていたんですが、宮崎駿は「矛盾の塊」であると。「ロリコンなのにマザコン」「資本家なのに真っ赤っか」で、なかでも最大の矛盾は「ミリオタなのに戦争反対」(笑)。

 

宮崎さんって、最初から非常にプライベートなものを作っていた人じゃないですか。にもかかわらず国民的アニメ監督になってしまった。好きなものは変わらず、少女と飛行機と世界が終わった後に来るユートピアのままで世界的作家になってしまったわけです。村上春樹にもそういうところがあって、別に本人にはそんな野望はなくて、非常に卑近なことを掘り下げていたのに、国民的、世界的な作家になってしまった人達という気がするんですよね……

 

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(鬼子母神通りみちくさ市(http://kmstreet.exblog.jp/)トークイベント「いろいろと変わっちゃったから、もういちど本当の経済の話をしよう」より一部抄録)

 

 

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