第二次安倍政権の経済政策を振り返る

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昨年の12月26日に第二次安倍政権が成立して1年が経過した。以下では安倍政権の経済政策を振り返りつつ、今後を展望したい。

 

 

アベノミクスの進捗動向

 

アベノミクスは「大胆な」金融政策、「機動的な」財政政策、「民間投資を喚起する」成長戦略の3つからなる政策パッケージである。

 

金融政策と財政政策は、景気変動の波を安定化させ、ケインズの言う「準好況状態」を維持し続けるための「経済安定化政策」に位置付けられる。成長戦略は、生産のために必要な資源をより効率的で無駄のない形で使用できるようにし、生産性の底上げを図るための「成長政策」である。経済政策には経済安定化政策、成長政策以外にも税や社会保障といった手段を通じて社会の公平度を高める「所得再分配政策」があるが、アベノミクスは経済安定化政策と成長政策の二つを駆使することでデフレと経済停滞から脱すことを意図した経済成長に特化した政策パッケージであるともいえる。

 

アベノミクスの進捗動向を確認すると、第一の矢については、昨年11月14日の野田首相(当時)と安倍総裁の党首討論で衆院解散が決まり、安倍総裁は誰もが想像すらしなかった「デフレ脱却のための金融政策」を最大の争点として衆院選を戦った。こうした動きが将来の大胆な金融緩和策の実現を予感させ、「2%の物価安定目標」を含む政府・日銀の共同声明(1月22日)、デフレ脱却に積極的な日銀新体制の成立・始動(3月21日)、新体制の下での量的・質的緩和策の公表・実行(4月4日)という形で具体化していった。

 

第二の矢については2012年度補正予算として「日本経済再生に向けた緊急経済対策」(2月26日成立)、2013年度予算(5月15日成立)が決まり、第三の矢については日本経済再生本部や産業競争力会議で議論が進められて、新たな成長戦略「日本再興戦略」が閣議決定(6月14日)され、秋の臨時国会で関連法案の一部が成立した。今後成長戦略の具体化と追加的な成長戦略の策定が行われる見込みである。

 

 

的を射た第一の矢

 

アベノミクス三本の矢の中で政策が十分な形で実行され、成果が出ているのは第一の矢たる「大胆な」金融政策である。4月4日に公表・実行された量的・質的緩和策では、消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭においてできるだけ早期に実現すべく、長期国債、ETF、J-REIT、CP・社債等の買取りを通じてマネタリーベース(2012年末実績138兆円)を2013年末に200兆円、2014年末に270兆円まで拡大するとしている。

 

量的・質的緩和策公表時のマネタリーベースやバランスシートの見通しと実施動向を比較すると、日銀が当初見通したとおりの緩和がなされている。今年も日銀の想定通りの経済動向が続くのであれば、見通し通りに緩和が行われるはずだ。

 

第一の矢は予想インフレ率を引き上げ、円安・株高をもたらした。昨年11月14日の野田前首相の解散発言から11月14日における日経平均株価・ドル/円レートの動きを比較すると、株価は72%上昇し、ドル/円レートは25%の円安となった。

 

4月時点では、大胆な金融政策を行っても株高や円安といった資産市場の好転しか生じず、実体経済には影響しないという指摘もなされたが、第二の矢の効果も相まって、実質GDP成長率(前期比年率)は、2012年10-12月期の0.6%から2013年1-3月期には4.5%と大きく上昇し、その後2013年4-6月期3.6%、7-9月期1.1%と回復が進んだ。

 

実質GDPが回復することで2012年10-12月期に17兆円であったデフレギャップは、2013年7-9月期には8兆円まで減少した。そして完全失業率は昨年12月から11月までに0.3ポイント(4.3%→4.0%)、有効求人倍率は同じ期間に0.17ポイント(0.83倍→1.00倍)回復しており、マクロでみた雇用も改善が進んだ。企業利益も輸出企業を中心に大幅に改善している。

 

「日銀が市場にいくらお金を供給しても、マネーストックや貸出が増えないために量的・質的緩和は無駄に終わる」との指摘もあった。しかしマネーストック(M3)、広義流動性の前年比伸び率は、昨年以降伸び率を高め、M3の伸び率は3.4%と2002年以来の高さ、広義流動性の伸び率は4.2%と1997年以来の高さ、銀行貸出の伸び率は2.2%と2009年7月以来の高さである。また銀行貸出は大企業向け、中小企業向け、中堅企業向けと時間の経過とともに裾野を広げている。このようにマネーも着実に動き出している。

 

2014年の「大胆な」金融政策のゆくえを展望すると、消費税増税のショックにどう対処していくのかをにらみながら、さらなる政策の強化を図ることが必要となるだろう。

 

日本経済研究センター「ESPフォーキャスト調査」(2013年12月6日公表)によると、今年度の民間エコノミストの実質GDP成長率の見通しは0.8%、とくに消費税増税が始まる2014年4-6月期の実質GDP成長率はマイナス4.6%と急落の見込みである。しかし円安や株高の進行、景気の改善、そして想定通りの物価の動きが進むという現状からは、「消費税引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、基調的には緩やかな改善を続ける」という日銀の見通しが変更される材料は、少なくとも消費税増税前までは乏しいのではないか。

 

黒田総裁は12月20日の金融政策決定会合後の記者会見で消費税増税の影響について問われた際に、消費税増税に伴う駆け込みと反動減の動向は注視する必要があるものの、駆け込みと反動減は相殺されるため、むしろ重要なのは消費税負担が増えたことによる(実質所得減少を通じた)個人消費への影響がどの程度あるかだとし、さらに多くの既存研究では実質所得減少を通じた個人消費への悪影響はそれほど大きくないと述べた。他方、毎月開催される金融政策決定会合において上下双方向のリスクを点検し、必要に応じて調整を行うことを改めて強調している。

 

以上の黒田総裁の発言を考慮すると、追加緩和を行うのは消費税増税を行った後のタイミングで、かつ日銀が想定する潜在成長率を上回る成長が続き、デフレギャップが次第に縮小するという現在のシナリオが崩れたと判断した場合ということになるのではないか。一方で日銀が現在描いているシナリオが崩れ、景気の腰折れが鮮明だという判断が早期になされるのであれば、追加緩和の決断は早いと考えられる。

 

金融政策が実体経済に十分な効果を及ぼすまでには1年から1年半のタイムラグがあるため、追加緩和に個人消費や住宅投資の落ち込みをピンポイントで抑制する効果を期待するのは難しい。他方で予想インフレ率や株価・為替レートの悪化への対抗策としては意味がある。その場合には単に緩和額を増やすのではなく、人々の予想に働きかけるための新たな工夫が必要となる。

 

そのための工夫として筆者が提案したいのが、次のような強化策の実行である。

 

この強化策には政府のリーダーシップが不可欠だ。安倍首相は政権発足から1年が経過した12月26日に黒田総裁と会談したとのことだが、こうした動きを具体策につなげていくことである。まず1月22日の共同声明1周年のタイミングを捉えて、これまでの成果や課題を踏まえて共同声明の内容に修正を加えるべきである。具体的には、政府が近い将来(2年程度)に日銀法改正を行うことを明記した上で雇用の最大化を日銀の政策目標として新たに追加すること、共同声明は日銀法改正のタイミングで政策協定(アコード)とし、日銀法に紐付けされた法的根拠を持つものとすることといった修正が考えられる。

 

これらの方策は政府と日銀との政策枠組み強化を通じて物価安定目標への信認を高めることに寄与するだろう。来年4月30日には展望レポートの公表も控えている。「量的・質的緩和策」で公表している2014年末以降のマネタリーベースの見通しや経済・物価情勢の展望を明確化して、政策意図のさらなる浸透を図ることも必要だろう。【次ページにつづく】

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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