経常収支黒字減少のなにが問題なのか?

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じわじわと増加していく輸出金額

 

現在の経常収支赤字の要因は貿易赤字の拡大であることは言うまでもない。当然だが、貿易収支は、輸出金額と輸入金額の差で示されるのでそれぞれの動向をみてみよう。

 

まず、輸出金額だが、最近のメディアの報道等では、日本の製造業が、民主党政権時代の円高等によって、生産拠点を海外に移転したり、また、他国(例えば韓国企業)のライバル企業の追い上げにあったりすることによる「競争力の喪失」によって、円安にも関わらず、輸出金額の増加ペースが緩やかである点が指摘されている。

 

確かに、日本の製造業の多くが生産拠点を海外に分散化させているのは事実である。また、輸出入の決済に用いる通貨の分散化等もあり、従来よりも輸出金額の為替感応度が低下している可能性は否定できない。一昨年の11月以降、「アベノミクス」による政策転換期待から為替市場では対ドルで30%以上の円安となっている。円安の進行速度が速かったこともあり、それに比べれば輸出金額の増加ペースが緩やかであるという側面もあり、円安の進行ペース並みの輸出金額増を期待した人々にとっては輸出の現状は不満であるということだろう。ただし、最近行われたいくつかの実証分析では、「この数年間で急激に輸出金額の為替感応度が低下した」という結果は得られていない。

 

為替レート変動と輸出金額の関係を考える場合に重要な概念として「Jカーブ効果」というものがある。「Jカーブ効果」とは、為替レートが切り下がると最初は貿易収支が悪化する(黒字の縮小、または赤字の拡大)する、時間の経過にともなって貿易収支が改善する(黒字の拡大、赤字の縮小)現象を指す。

 

ただし、ここで言及したのはあくまでも「One-Shot(一時的)」の円安を指している点に注意する必要がある。円安が数か月間連続して進行する場合は、「Jカーブ効果」も連続して働くため、全体でみれば「Jカーブ効果が累積する」ことになる。その場合、円安による貿易収支の改善効果が発現するのは短期的な円安の場合よりも遅れることになる。今回も、ドル円レートが円高のピークをつけた2012年9月から2013年5月まで8か月連続で円安が進行した。よって、輸出の為替感応度がそれほど低下していないとしても、Jカーブ効果の初期は輸出の増加は緩やかである可能性がある。もし、そうだとすれば、今後、輸出金額の増加ペースはじりじりと上昇していくことになろう。

 

また、グローバル競争がし烈になるに従い、労働者の賃金が相対的に高い日本のような先進国は、価格競争よりも製品の高付加価値化によって輸出を拡大させてきた可能性がある。その場合は、為替レート変動による影響はそれほど大きくなく、輸出金額、及び輸出数量が日本を除く世界全体の需要に左右される可能性が高まる。

 

そこで、日本を除く世界の生産指数と日本の輸出金額の関係をみると、両者の関係は直線関係にあることがわかる(図2、説明力は86%強)。

 

 

graph2

 

 

これは、日本の輸出金額の拡大ペースはほぼ日本を除く世界の生産の拡大ペースによって決められていることになる。2013年における日本を除く世界の生産指数の上昇率は9月あたりから加速し始めたとはいえ、それ以前は年率で5%を下回っていた。また、それだけではない。その上昇率は、鈍化していた(例えば、2012年は平均して6%を超える伸び率であった)。このように、日本の輸出金額がアベノミクスによる円安転換のスピードに比べると緩慢にみえるのは、世界的な需要(とくに製造業の生産活動)の拡大ペースがいまだに緩やかであるためであると考えることも可能であろう。【次ページにつづく】

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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