日本の強みを活かした教員マネージメントとは?――国際教員指導環境調査の結果から

2. 日本の教員の職能成長を支える他者からのフィードバックとそれを阻害する多忙さ

 

日本のメディアは、TALISの結果が公表されたとき、一斉に日本の教員の多忙さを報道した。ここでは日本の教員がどれぐらい多忙なのか、その原因はなにかを示すTALISのデータを紹介する。そして、教員が多忙であることの何が問題であるのか、日本についてのカントリーノートで触れられたフィードバックに焦点を当てながら考察することとしたい。

 

 

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図7は、1週間当たりの教員の勤務時間と授業時間を示したものである。このデータが正にメディアが「教員の多忙化」と一斉に報じたデータであるが、確かに日本の教員の労働時間は2位以下を引き離して参加国中トップである。しかし、さらに注目する必要があるのは、日本の教員の授業時間はむしろ参加国の平均よりも少ないという点だろう。授業時間は多くないのになぜ日本の教員は多忙なのだろうか?

 

 

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表2は、教員の労働時間を項目別に示し、日本の教員と参加国の平均及び両者の差を示したものである。日本の教員の授業時間数は平均よりも少ないにもかかわらず、授業準備には平均よりも多くの時間が使っており、日本の授業の質の高さの一つの理由が垣間見える。話を教員の多忙さに戻すと、部活動を中心とした課外活動、事務仕事、学校運営に関する業務、他の教員との会議の4つの業務だけで、日本の中学校教員の週当たりの労働時間が、TALIS参加国平均よりも10時間以上長くなっている。いかにこの4種類の業務量を減らせるかが教員の多忙さの解消の鍵であることが分かる。

 

この結果は、ベネッセ教育総合研究所が、小中の教員の労働時間を調査した平成18年度の「教員勤務実態調査」の結果とも整合的である。この調査によると、中学校教員が残業時間や持ち帰り仕事時間に何をしているかというと、他を大きく引き離して「部活動」が一位に来ている他、授業準備・成績処理・その他校務・事務/報告書作成などが上位に来ており、中学校教員の多忙さは主に部活動・授業準備・事務関連の業務によるものだということが分かる。

 

教員が多忙であることは、労働基準法違反という法的な問題もあるだろうし、現在は低い教員の離職率も労働環境の悪化によって高くなり、間接的に教員の質が低下する可能性も無いわけではない。しかし、教員が多忙であることの一番の問題は、専門職であるはずの教員から職能成長のための時間を奪い去り、直接的に教員の質、ひいては教育の質を低下させる点であろう。

 

表3は、教員が職能開発を行う上で障壁となっていると答えた要因の一覧を、日本の結果と参加国平均の結果を示している。真っ先に目につくのが、スケジュールの都合が合わないことが職能開発の障壁となっていると答えている日本の教員の割合の高さである。確かに職能開発の費用が高いというのもあるが、参加国平均と比べたときに、学校からのサポートが無い(勤務時間のアレンジが十分でない)・家族の都合・スケジュールが合わないことが職能開発の障壁となっていると言及した日本の教員の多さは、忙しすぎて自分の職能開発に割ける時間が無い日本の教員の姿を浮き彫りにしている。

 

 

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最後に、この章のまとめとして、TALISの日本カントリーノートで日本の教員の職能成長とフィードバックが言及された点についても触れておく。

 

 

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表4は、フィードバックを受けたことにより改善することができたと答えた教員の割合を項目別に示したものである。教科の知識で参加国平均を大きく引き離しているのを筆頭に、日本の教員達は仕事上の責任・学級運営・教育実践・成績評価といった子どもの学習成果に直接影響を与えると考えられる項目に言及している。さらに、教師としての自信・仕事への満足感ややりがいといった教員の離職率に影響を与えそうな要因についても、日本の教員達はフィードバックを受けたことが役に立ったと考えている。

 

この結果に基づくと、日本の教員の資質向上を考える際に、教員達が他者からフィードバックを受けられる環境の確保が、一つの重要な教員政策のテーマとなってくることが分かる。事実、政府が行うような上からの官制研修は、確かにカリキュラムの変更などを効率よく伝えることには適しているが、教員個々人のニーズに応えることには適していない。その代わりに、いま欲しい助言を手軽に得ることが出来る場として日本の教員達は自主研修というお互いにフィードバックを与え合う環境を持っていた。しかし、近年の多忙さが一因となってこのような活動が減少傾向にあると考えられている。つまり、多忙さを解消し、自主研修の場・時間を確保してあげることこそが日本の教員・教育の質向上にとって重要なことだと考えられる。

 

しかし、教育関係者以外には日本の教員がフィードバックを与え合う場の確保、と言われても具体的にどういったことなのかイメージし難いと思われる。そこで、次章ではTALISの結果から少し離れて、対面・オンラインでのこのような場について簡単に紹介してみようと思う。

 

 

 

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