日本の強みを活かした教員マネージメントとは?――国際教員指導環境調査の結果から

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3. 自主的にフィードバックを与え合う日本の教員達

 

日本では明治10年頃には既に教員同士で研修を行う自主研修のような活動が確認でき、特に明治30年代以降その活動が広がっていく。その後紆余曲折を経て、近年では減少傾向にあるものの、小学校について言えば20%程度の教員がこのような活動を行っていると考えられている[*5]。

 

[*5]  この辺りの詳しい歴史に関する先行研究はシャキャ(2011)に纏められている

 

このような活動の内容は多岐にわたる上、活動の仕方も多種多様なので、典型的な活動を紹介することは難しい。ここでは、筆者もその活動にお邪魔させて頂いたことがある「神戸おもちゃばこ」という教員サークルの活動、そしてオンライン空間で教員がフィードバックを与え合うSNSについて紹介したい。

 

 

3.1.   対面でのフィードバック:神戸おもちゃばこのケース

 

「神戸おもちゃばこ」は30年以上の歴史を持つサークルで、月に一度例会を実施している。例会には15人程度の教員が集まり、教育実践について話し合っている。例会は、参加者がレポートを持ち寄って報告し合い、それに対して他の参加者からフィードバックを得るという形式で行われる。レポートの内容も具体的な教材の検討から障がい児教育についてと幅広く、教員同士で新たな知見を得たり、悩み相談をしたり、といった場になっている。ここのサークルの特徴はSNSを活用している点にあり、mixi時代からオフラインでのフィードバックの延長線上にオンライン上でのフィードバックの与え合いが存在している。

 

さらに、このサークルの活動はフィードバックを与え合うだけの関係に留まらず、教育に関する研究を行ったり、サークルメンバー共同で教育実践に関する本を執筆したり、セミナーの開催も行ったりしている。その他に家族行事も実施しており、その活動は多岐にわたる民間教育団体や「神戸おもちゃばこ」のような教員の自主研修サークルは全国に存在しており、教員の資質向上や離職率の低下に一役買っていると考えられる。

 

 

3.2.   オンライン空間でのフィードバック:SENSEI NOTEのケース

 

日本の教員は、EDUPEDIATOSSランドといったオンライン空間でもお互いにフィードバックを与え合っている。ここでは、具体例として今年開設されたSENSEI NOTEというオンライン空間での教員のフィードバックのやり取りを紹介しようと思う。

 

SENSEI NOTEは教員が繋がるという、正に教員間のフィードバックに着目したSNSで、教員志望者と教員のみが登録できるので、センシティブな問題についてもフィードバックのやり取りが出来るのが大きな特徴である。現在の登録者数は6000人を超えた所で、教員の業務形態を反映して、週末の日中にアクテビティがかなり活発になり、週末でも活発に教員同士で学び合っている様子が見て取れる。

 

 

シノドス写真

 

 

サイト上で教員がフィードバックを受けられる仕組みはいくつか用意されている。まず、特定の先生からのフィードバックを外部に見られない形で受けたい場合はfacebookと同様に「メッセージ」で質問のやり取りをする事ができる。次に、サイト登録者全員が見ることができる「質問板」を利用してフィードバックを受けたい内容を書き込むと、多数の教員から公開でフィードバックを受けることができる。実際に一つの書き込みに対して平均して5件程度の返信があり、多いものになると50件近くの回答が付く事もある。さらに「ひきだし」を使ってファイルのやり取りも可能なので、教案や独自教材に対してフィードバックを受けることも可能である。

 

SENSEI NOTEに登録している40%の教員が週に一度はサイトにログインしており、日本の教員がオンライン上でもフィードバックのやり取りを求めている姿が見て取れる。

 

 

4. まとめ

 

筆者の父親も中学校の教員であった。生徒指導や部活動に忙しく、遅くに帰ってきてからも学級通信などを書いていたし、3年生の担任をやっている時などは進路指導や修学旅行の準備などで多忙を極めいつか倒れるのではないかと心配する程であった(案の定倒れた事もあったが)。そのような父の背中を見て育ち、大学と院で教員政策を研究し、なぜか日本を遠く離れた地ではあるが教育官僚をやっているので、日本の教員の多忙さというのは実感として筆者も良く理解している。

 

前述のように、教員の多忙さは、教員の職能成長を阻害し、教員の質ひいては教育の質を低下させることが問題のひとつである。日本の教員の職能成長にとってフィードバックが果たす役割は大きいと考えられ、事実3章で紹介したように日本の教員達は自主的にフィードバックを与え合っている。このような活動を促進するためにも教員の多忙さを解消する必要があり、そのためには2章で言及したように部活動・事務・学校運営に関する業務負担の軽減を図る必要がある。この業務負担軽減の方法として部活動の外部化、学級事務職の導入、学校内業務見直しのためのマネージャーとしての校長の役割の強化の3点が必要だと考えられる。

 

さらに、日本は汚職が少ない形での教員の広域人事システムを採れている数少ない国の一つである。しかし、残念な事に1章で説明したようにTALISの教員配置のデータ[*6]に基づくと、その強みを活かしきれているとは言えない。また、近年非常勤講師の採用が増加したが、この採用形態の教員の半数近くが導入研修(恐らく初任者研修を指すものと考えられる)を受けていない状況は、長期的な教員の質の低下という代償を支払わされる可能性が高い。「教育政策のかなめ教員政策を考える―限られた予算で高い教育効果をあげるために」でも紹介したが、教員の職能成長は最初の数年に集中する傾向が見られるので、この最初の数年をいかにサポートできるかに留意した教員マネージメントシステムを構築・修正していく必要がある。

 

[*6] 本文からは割愛したが、日本の若手教員が意図的に都市部に配置されているという傾向は認められない(Table 2.13)。若手教員はフィードバックが受けやすい環境に置くことを狙って都市部に配置されるべきであるが、この点からも日本は広域の教員人事制度を活かしきれていない。

 

国際学力調査の結果を見ると日本の子どもたちの学力はかなり高いと言える。しかし、前回の記事と今回の記事で考察したように、教員政策の改善を通じてさらに子どもたちの学習成果を高められる余地はまだ残っている。TALISの結果について様々な報道がなされているが、この調査のデータをよく分析し、日本の教育政策や教員の特徴を活かしたより良い教員政策を設計することが必要である。

 

(本記事は「サルタック・ジャパン」の理事として執筆したもので、筆者が勤務する国連児童基金の見解を代表するものでも、関連するものでもありません。また、立場上筆者個人はいかなる謝金も受け取っておりません。また、団体への謝金相当額の寄付をお願いしていますが、筆者は無給で理事を務めているので筆者に金銭的な見返りが入ることはありません)

 

サムネイル「旧佐久間小学校 黒板」Kennosuke Yamaguchi

https://flic.kr/p/8c51Mk

 

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.267 

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