OECD諸国との教育支出の比較から見る日本の教育課題

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教育段階別にみる日本の公教育支出の特徴と課題

 

a. 就学前教育(ISCED0

 

 

(図4)

(図4)

 

 

上の図4は就学前教育に対するGDP比の公支出・私支出を示したものであるが、就学前教育は国によって年数の差が大きいので、就学前教育の年数も記した。児童一人当たりのGDP比公教育支出はデータがなかった。日本の就学前教育に対するGDP比の公支出はOECD諸国の中でも群を抜いて少ない。具体的には、GDPの0.2%、つまり1兆円ほど就学前教育への公支出を増やしたとしても、日本の就学前教育に対するGDP比の公支出は同じ就学前年数を取っている国の中でも最低レベルであるぐらいに、日本の就学前教育に対する公教育支出は少ない。さらに、日本は就学前教育に対する極めて少ないGDP比の公支出を補うような形で、GDP比の私支出の割合が極めて高いが、それでもOECD諸国の就学前教育に対するGDP比の総支出には及ばず、極めて少ない公支出を私支出がカバーしきれていないのが現状である。では、OECD諸国と比較して日本の就学前教育の質と量はどのような状況であろうか?

 

 

(図5)

(図5)

 

 

就学前教育の量の比較を上の図5に示した。日本の就学前教育の量は一見するとOECD諸国と比較して見劣りしない。しかし、日本はOECD諸国の多数の国と異なり厳格な入学年齢を敷き就学前教育における留年が殆ど存在しないにも拘らず、租就学率が100%を下回っている。つまり、OECD諸国と比較してまだ就学前教育が働きかけられていない児童が多く存在している事が示唆され、教育の量の観点から見ても就学前教育段階での改善の余地は残されている事が伺える。

 

国際学力調査が存在しない就学前教育の質を国際比較するのは難しいが、今回は教員一人当たり児童数を用いる事とする。これまでの研究結果から一概に教員一人当たりの生徒数が増加すると教育の質が低下するとは言えない。しかし、テネシー州で行われたSTAR Projectという少人数学級の効果を測定するために適した環境を用意した研究によると、特に低学年・低学力の児童の間では教員一人当たりの生徒数が増加すると学力が下がるという結論が導かれている。そこで、教育の質に関連があり、かつ国際比較が可能な指標として教員一人当たり児童数を使用する。

 

 

(図6)

(図6)

 

 

上の図6で示したように、日本の就学前教育における教員一人当たり児童数は、OECD諸国の中でも群を抜いて多く、就学前教育の質にかなり問題を抱えている事が読み取れる。従って、日本の就学前教育は質・量ともに問題を抱えているにも拘らず現状の教育支出額であることから、日本の就学前教育に対する公支出は全然足りていない事が分かる。

 

 

b.初等教育(ISCED1

 

 

(図7)

(図7)

 

上の図7は、初等教育に対するGDP比の公・私教育支出と児童一人当たりのGDP比公教育支出を示したものである。日本の初等教育に対するGDP比の公教育支出も小学生一人当たりのGDP比公教育支出も、どちらの値もOECD平均と同水準程度である事が読み取れ、初等教育段階については決して政府の支出が他のOECD諸国と比較して少ないわけではない事が分かる。また、初等教育に関しては、公支出が充分である事もあり、私支出の割合は多くはない。

 

OECD諸国は義務教育の修了率がほぼ100%の国ばかりなので、教育の量を比較する意味はそれほどない。教育の質については、国際比較が可能な指標として、OECD諸国の参加率がやや低いものの4年時のTIMSS(国際数学・理科教育調査)の数学の成績を用いる事とする。下記の図8が示すように日本の初等教育の質は悪くないどころか世界でもトップレベルにある事が分かる。

 

 

(図8)

(図8)

 

日本は初等教育に対してOECD諸国並みにGDP比の公支出を行っている。その一方でOECD諸国の中でも極めて高い初等教育の質を維持していることから、日本の初等教育に対する公支出は充分であるし、極めて効率的に支出を行っている事が分かる。

 

 

c.中等教育(ISCED2・3

 

 

(図9)

(図9)

 

上の図9は、中等教育に対するGDP比の公・私教育支出と児童一人当たりのGDP比公教育支出を示したものである。日本の中等教育に対するGDP比の公教育支出はOECD諸国と比較して少ない。

 

残念ながら前期中等教育(中学校)と後期中等教育(高校)が分かれたデータがないのだが、恐らく日本がOECD諸国と比較して中等教育への公支出が少ないのは、主に後期中等教育への支出の少なさによるものだと考えられる。

 

理由は3つ考えられる。まず、普通教育と職業教育では後者の方がコストはかかるが、日本は後期中等教育における実業科の割合がOECD諸国の中で最も低い国の一つである。次に、前回論じたように留年制度はコストが高い政策であるが、留年制度を後期中等教育段階で使用する事で租就学率が100%を大幅に超え、コスト高になってしまっている国が存在している事も見逃せない。そして最後に、日本の教員政策は他国と比較して相対的に初等教育に力を入れているために、日本の後期中等教育段階での教員給与は相対的に低く抑えられている。

 

前期中等教育は義務教育であり、後期中等教育も日本の租就学率は100%付近である事から、OECD諸国と比べて日本の中等教育段階での教育の量の問題は比較的少ないものであると考えられる。教育の質の面に関しては、後期中等教育段階に関しては国際的に比較可能な指標がそれほど整備されていないが、前期中等教育段階に関してはPISA(生徒の学習到達度調査)で国際比較が可能なので、最新のPISAの数学の成績を用いて日本の前期中等教育の質の問題を考察する。下の図10から見てとれるように、PISAにおける日本の成績はOECD諸国の中でもトップクラスであり、日本の前期中等教育の質は、初等教育同様決して低くはない事が分かる。

 

 

(図10)

(図10)

 

 

日本は中等教育に対してOECD諸国より少ない公支出を行っている。しかし、前期中等教育の質はOECD諸国の中でも極めて高く、前期中等教育に関しては極めて効率的に教育支出が行われている事が伺える。後期中等教育に関しては、教育の量はOECD諸国の中でも問題が少なく、この点に関しては効率的に教育支出が行われている。後期中等教育の質に関しては、国際比較が難しいうえに、日本の後期中等教育が抱える質の問題はやや複雑であるため、字数の都合上本記事では割愛し、また別の機会にでも論じる事とする。

 

 

d.高等教育(ISCED5・6

 

 

(図11)

(図11)

 

最後に高等教育について概観する。上の図から分かるように、日本の高等教育に対する総支出はOECD諸国の中でも多い方に分類される。これは、OECD諸国の中で最低レベルの公教育支出を、最高レベルの私教育支出が補っている賜物であり、やはり学生一人当たりのGDP比公教育支出を見るとOECD諸国の中でも極めて少ないものとなっている。高等教育の便益は、その他の教育段階と比較して、教育を受けた個人への帰着割合が多い傾向がある上に、高等教育へ進学するのは比較的社会経済的に恵まれた家庭出身の生徒が多いため、政府の高等教育への支出が少ないからといって、直ちにこれを問題視するのは誤りである。よって、他の教育段階と同様に教育の量・質との比較から支出額を考える必要がある。

 

 

(図12)

(図12)

 

上の図12は高等教育の租就学率を比較した図である。この図から判断すると、日本の高等教育の租就学率はOECD諸国の中でも下位に位置づけられる事が分かる。この事実を踏まえると、やはり日本の高等教育に対する公支出の少なさは問題をはらんでいると言わざるを得ない。高等教育の質に関しては、後期中等教育と同じく国際比較が難しいのと字数の都合上、本稿では触れないものとする。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.264 

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