なぜ今、夜間中学の拡充が求められるのか

義務教育を修了できなかった高齢者や外国人が通う「夜間中学」。戦争、貧困、不登校など、様々な理由で卒業できなかった人たちは全国に百数十万人いるとされているが、現在公立の夜間中学は8つの都府県に31校しかない。こうした中、全ての都道府県での夜間中学の設立を目指し、超党派の議員連盟が法案の検討を重ねている。なぜ今、夜間中学が必要とされているのか語り合う。2015年6月18日放送TBSラジオ荻上チキ・Session-22「なぜ今、夜間中学の拡充が求められるのか?」より抄録。(構成/大谷佳名)

 

荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら → http://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

夜間中学校の現状と支援の課題

 

荻上 ゲストを紹介します。まずは夜間中学等義務教育拡充議員連盟会長で、今回の立法チームの座長でもある、自民党の馳浩衆議院議員です。馳さんは、夜間中学の支援にいつから取り組んでいるのでしょうか。

 

 もう5年以上になります。夜間中学校の存在を知り、実際に近所の三宿中学校にも伺いました。そこには、埼玉から通ってらっしゃる方、外国籍の方、不登校だった方など様々な方がいます。1クラス8人くらいで、先生方が一生懸命面倒を見ておられました。

 

いまは、8つの都府県にしかないですが、どう考えても、全都道府県の県庁所在地に1校ずつあったほうがいいに決まっています。よりいっそうの学習支援と経済的支援が必要ではないかということで、夜間中学校の問題に詳しい方々と協力して、立法するならどういう内容がいいのか勉強してきました。

 

荻上 今日は、馳さんが見た現状の話と、どういった政治的課題があってどう解決していくかという話もお伺いしたいと思います。

 

そして、夜間中学の元教師で、現在は夜間中学の卒業生を中心とした学びの場「えんぴつの会」の学習支援ボランティアを務めていらっしゃる、関本保孝さんです。

 

関本 よろしくお願いします。

 

荻上 関本さんは36年間、都内の夜間中学で勤めていたとのことですが、その中で変化を感じましたか。

 

関本 私が最初に教師になったころは、日本人の中高年の方、中国残留孤児の方の比重が今よりも多かったですね。今は、新渡日外国人、つまり、仕事のために日本来たり、国際結婚をした方々や、その家族の方々の比率が多くなってきました。

 

荻上 夜間中学はどのような目的で作られたのでしょう 。

 

関本 戦後新しい六三制ができたのが昭和22年(1947年)で、その時から経済的に非常に貧しいため昼間に仕事をしなければならない子供たちがたくさんいました。そのため大阪では1947年から、東京では足立四中(足立区立第四中学校)が1951年から、子どもたちの学びの場を作ろうと教育委員会に働きかけたのが始まりです。

 

このころ、非常に多くの生徒が昼間の仕事のために長期欠席しており、足立区の場合は1000名以上もいました。もともと、二部授業は戦後、教室も先生も足りないので、午前1部と午後2部のということで設けられていましたが、昼仕事をする子どもの学びの場を作るため、「たまたま午後の部が夕方までずれ込んだ」として、教育委員会を説得し、東京都教育委員会もそれに応じて夜間中学(中学校夜間学級)がスタートしました。

 

そのことから文部省では児童労働を助長するのではないかという反対の意見ありましたが、実態としては非常に困った状況だったので、設置者は市区町村、認可者は都道府県という形でスタートしました。

 

馳 そのような形で現場が努力をして設置してきたものを、文部科学省としては「法的な根拠はないが二部授業はいけないわけではない」という、曖昧な形で見て見ぬふりをしてきたのです。良識のある文部科学省の官僚のみなさんは、なんとかしなければと思っているでしょう。

 

荻上 止めはしないけれども応援はしないという状況だったのでしょうか。

 

関本 厳密にいうと、教員の給与は3分の1は国庫が負担し、3分の2は都道府県という形で国は財政支援をしていますので、全く支援がないと言うと語弊があります。

 

 財政支援や教材の支援等もしておりますが、正式に夜間中学校として認めているわけではなくて、中学校の二部制といった形のままなのです。

 

荻上 まだまだ支援の課題が残されたままだということですね。

 

 

川口自主夜間中学の様子

川口自主夜間中学の様子

 

 

義務教育未修了者の実態

 

荻上 現在、夜間中学に通う義務教育未修了者の数はどれくらいなのでしょうか。

 

関本 1985年に中曽根元首相が国会の答弁書で約70万人ということを打ち出しているのですが、その根拠はかなり不明です。

 

全国夜間中学校研究会の推定では百数十万人と考えられます。1947年以降に小学校一年生になった入学者の数と、9年後の卒業者の数の落差、つまり中学校未修了者を出してずっと足していくと、85万人になりました。それに、戦前の方で義務教育を得てなかった方その他を足すと、百数十万人ほどになりますが、かなり不確定な推測です。

 

今でも国勢調査では学歴がゼロの未就学者の方の人数は分かるのですが、小卒の方の人数は調査されていません。できれば国勢調査の項目を改善してもらえればと思っています。

 

荻上 2006年にも日弁連が実態を把握しようと要望も出しましたし、他の方も意見を述べてきましたよね。

 

関本 日本弁護士連合会の意見書は、2003年に全国夜間中学校研究会で人権救済申し立てをした際の資料をもとにしています。

 

今回、文部科学省は日弁連の申し立てに応じ、去年の9月から全国の1700以上の市区町村都道府県を含めて全部を網羅するような調査を初めてやりました。これを現場の夜間中学の教師達は評価しております。

 

荻上 こういった調査の実態について馳さんはどうお感じになっていますか。

 

 調査などがはじまり、議論も盛り上がりを見せています。国会の文部科学委員会に20年間在籍してきましたが、ここ1年でも我が党でいえば下村博文さん、民主党でいえば笠浩史さん、郡和子さん、維新の党でも牧義夫さん、共産党では宮本岳志さん等、各政党のみなさんが、夜間中学校にフォーカスをあてて質問しておられます。

 

そもそも議員連盟ができて現場を視察させていただいて、これはやっぱり法的な根拠の下にテコ入れをすべきだと感じました。通信教育などもありますが、まずはスクーリング、つまり学校に行って、先生や友達がいて、給食もあって、という学びの場を提供していくべきではないかと考えます。

 

 

馳氏

馳氏

 

 

多様なニーズの受け皿

 

荻上 現在夜間中学校で生徒はどういった内容の学習をされているのですか。

 

関本 学校によっても生徒層が違いますが、私はずっと日本語を教えてきました。日本語が不自由な方を受け入れる日本語学級がない学校でも外国人の方が多いため、若者の場合ですと1年くらいかけて日常会話ができるようになり、2年目には9教科勉強して卒業して、多くの方は高校に進学します。

 

また、夜間小学校はないので、小学校に相当する学習を用意するクラスもあったり、小中含めた教育活動をされている夜間中学校が多くあります。

 

荻上 通っている層が時代によって変化したという話が先程ありました。今はどんな年齢層のどんな方が多いのでしょうか。

 

関本 全国夜間中学校研究会の調査ですと、約5割は新渡日外国人の方です。残り半分は、日本人のかつて勉強できなかった中高年の方、元不登校者、引きこもりの若者も一部にはいますし、それから在日韓国・朝鮮人の方であるとか、中国残留孤児の方やその家族の方々もまだいらっしゃいます。また、アジアやアフリカなどのミャンマー難民ですとかアフガン難民、スーダン難民の方々もいらっしゃいますし、脱北者もいます。

 

あとは東京を中心に、家庭の事情で出生届が出せなかった無戸籍者の方も入ってくるようになりました。あるいは居所不明という場合もあります。

 

荻上 多様なニーズの受け皿の一つとして、この夜間中学が存在しているわけですね。これから47都道府県全てで夜間中学の設置を目指すということですが、現状はまだまだ少ないのでしょうか。

 

関本 8都府県に31校しかないです。東京に8校、千葉に1校、神奈川・川崎・横浜に1校ずつ、京都に1校、奈良3校、兵庫3校、大阪11校、広島2校。つまり39道県には1校もないです。ですから東北地方や九州から転居してくる方や、片道2時間以上かけて通学される方もいらっしゃいます。しかし、そういったことができる方々も限られていますよね。

 

荻上 特に都市部に集中して地方にはほとんどないのですね。

 

関本 東京に夜間学校ができたのはほとんど1950年代のことで、それが残っています。

 

 当時は時代のニーズとして東京や大阪が多かったということですが、地方においてもニーズが無いわけではありません。

 

荻上 今通っている生徒の数は把握できているのでしょうか。

 

関本 文部科学省もこの前発表しましたし、全国夜間中学校研究大会でも毎年集約しております。昨年の9月現在で生徒数は1951名というデータです。

 

荻上 もともとの義務教育未修了者の方々が100万人前後いらっしゃるということであれば、ほかにもフリースクールなどの選択肢があるとはいえ、まだまだすくい上げる必要がありますよね。

 

関本 夜間中学では学齢超過者を受け入れて学びの場を提供しているということで、フリースクールの場合は主に学齢の若者で学校にいけない方の居場所を提供しているわけで、そこは違いがあります。

 

 学校教育法では学齢というのは6歳~15歳になっていますが、超過者が中学校に行ってはいけないという法律はないのです。とは言うものの、中高年の方が中学校に来るというのは現実的ではありませんよね。したがって夜間中学のニーズは一定程度あるでしょう。

 

荻上 日本人の方の中で、夜間中学はどれほど認知されているのですか。

 

関本 文科省の調査でも生徒の8割は外国人という話がありましたが、外国人の方々のコミュニティーでは口コミが非常に発達しているので、すぐに夜間中学の情報が行き渡るようです。ところが日本人の方は、義務教育未修了者のためのコミュニティーがあるわけではないので、知らない人が多いでしょう。

 

文科省も今回、PRに力を入れるという方針を出しました。例えばある区で大規模なチラシ撒きを都営住宅でやった場合、日本人の方が非常に増えたという事例があります。

 

 私たちの議員立法でも、まずはニーズの掘り起こしから始める必要があると意識しています。【次のページに続く】

 

 

 

シノドスのコンテンツ

 

●ファンクラブ「SYNODOS SOCIAL」

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

 

●電子メールマガジン「αシノドス」

⇒ https://synodos.jp/a-synodos

 

●少人数制セミナー「シノドス・サークル」

⇒ https://synodos.jp/article/20937

 

 

 

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.263 

・武井彩佳「ホロコーストを学びなおすための5冊」
・児玉聡「ピーター・シンガーの援助義務論」

・穂鷹知美「「どこから来ましたか」という質問はだめ?――ヨーロッパから学ぶ異文化間コミュニケーション」
・岩永理恵「生活保護と貧困」
・迫田さやか「挨拶をしよう」
・山口浩「自粛反対論と「戦士」の黄昏」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(7)――「シンクタンク2005年・日本」立ち上げ期」