なぜ今、夜間中学の拡充が求められるのか

▶シノドスの電子メールマガジン「αシノドス」

https://synodos.jp/a-synodos

▶真の教養を身に着ける「シノドス・サークル」

https://synodos.jp/article/20937

夜間中学に入れないから、自主夜間中学に

 

荻上 夜間中学が8都府県に31校しかない中で、ボランティアの方が運営する自主夜間中学もあると伺いました。両者の違いはどういったものなのでしょうか。

 

関本 基本的には、夜間中学は区立、ないし市立です。中学校の中に夜間学級という形なので、中学校卒業証書が貰えます。一方、自主夜間中学はボランティア団体ですので、基本的に中学校卒業証書はもらえません。

 

また、自主夜間中学は週に1回または2回のペースになることもあります。多くのボランティアの方が仕事を持ちながら教えています。その上で、行政に対しても夜間中学の設置を訴えて要請行動や署名行動をしたり集会を開いたりしているのですから、大変なことですよね。

 

荻上 カリキュラムや給食なども含めた設備の差も出てくるでしょう。自主夜間中学に対しても支援が必要だと考えていますか。

 

 一定の支援は必要だと思います。我が国には学校教育法に基づいて保護者が保護する子女を学校に行かせる義務がある。そのことを考えると、特例措置として、夜間中学校に通っている方々に義務教育を受ける機会を確保するべきだという根拠法は必要でしょう。

 

荻上 夜間中学に入れないから自主夜間中学に、という方もいるのでしょうか。

 

関本 今の公立夜間中学は、中学校卒業証書をもらってしまった方は入れないのです。一方、自主夜間中学は規制がないので、卒業証書を持っているが不登校だったという方も受け入れているようです。

 

荻上 だからこそ、自主夜間中学ならではの役割があるんですね。

 

 

関本氏

関本氏

 

 

共存していくための学びの場

 

荻上 リスナーからのメールを紹介します。

 

『なぜ外国人の方の教育をするのに夜間中学が必要なのでしょうか。外国人の教育を充実するような政策が必要だと思う一方、なぜ外国人の教育を日本が背負わなければいけないのかという疑問もわいてきます。』

 

 共に日本で生活をしていることをまず考えていただきたいと思います。もし外国人の方々が言葉も十分に話せず、仕事にもつけず、しかし定住外国人の家族として日本に在籍をし続けているとしたら、どんな思いをされるか。当然、外国の方でも、義務教育を学ぶ場を提供すべきでしょう。

 

これはある一面で言えば、所得格差は貧困の格差と教育の格差の連鎖につながる問題でもあります。ここに目を向けるということは日本社会を成熟させていく上で極めて重要な問題だと思っております。

 

荻上 また、地域の学校とつながると、人間関係も出来てきたりして地域活動の中でもお互いが見えてくるという面もありますよね。

 

 それはそうですよ。災害があった時、非常事態があった時に、地域の人々がお互いに顔を知り合っていて、コミュニケーションができて支えあっていくということは、まさしく地域コミュニティーの在り方ですからね。

 

 

 年齢・国籍に関わらず学ぶ権利を

 

荻上 議員連盟で作られた根拠法となる法案(「多様な教育機会確保法(仮称)」)の中身はどういったものになるのですか。

 

 基本理念を据えて、それに基づいてフリースクールや夜間中学校における義務教育段階の普通教育を受ける機会を確保しましょう、という考え方です。

 

夜間中学校に絞って考えると、そもそも義務教育学校の設置者は市区町村ですが、単独で設置するとなると、財政的な負担、教員人事の配置など、負担は大きいです。

 

したがって、都道府県にある全ての教育委員会と市町村教育委員会とで協議会を作り、ニーズを掘り起こして、公立の夜間中学校を設置しましょう、という根拠法になるわけです。当然、他にも例えば学校保健法などもありますし、万が一のことがあったときの学校安全配慮義務といったこともありますから、そういった付随することに関しては法律の整合性を今協議しているところです。

 

荻上 なるほど。この法案の文章の基本理念のところには、

 

『多様な教育機会確保のための施策は、教育基本法に精神に則り、様々な事情により義務教育小学校で普通教育を十分に受けていない子供や、学齢超過後に就学を希望する者が、年齢または国籍に関わらず教育を受けられるようにする。』

 

という話になっています。ということは、より広く教育の権利をしっかり進めていくというための掘り起こしを、まずは自治体が連携してやる必要があるのですね。

 

 素直に憲法を読めば、国民は等しく能力に応じて教育を受ける権利を有するわけです。一人一人の学習権、義務教育段階における普通教育という表現で教育基本法にも記載されておりますから、その場を確保しましょうということなんですね。

 

荻上 憲法に書かれていることをよりしっかりやっていこう、ということになるわけですね。関本さんから見てこの法案はどのように評価していますか。あるいはどういったことをよりやって欲しいとお感じになっていますか。

 

関本 夜間中学の現場関係者の評価は全体的にかなり高いです。もちろん細かい部分での調整は必要だとは思いますが、年齢または国籍に関わらず義務教育未修了者のために教育の場を確保していく、これは行政の義務だという方針で基本理念をしっかり打ち出しているということで、評価している方が多いです。

 

加えて、運営の段階になれば法律だけでは対応できない部分もあるでしょうし、都道府県内に協議会を作ると同時に国にもしっかりと組織を作っていただいて、その中で全国夜間中学校研究会や自主夜間中学校の代表の方も含めて取り組んでいただきたいと思っています。

 

 

教員と学力のレベルを底上げする

 

 教育審議会に特別部会を置いて、現場の方に入っていただくのがより相応しいだろうなと考えております。とは言いつつも、原則は、学齢期に義務教育の諸学校に保護者は子どもを行かせなければならない。

 

同時に、税金を経済的支援として使う以上は、それに相応しい場所でなければいけない。学力のレベルや教える人のレベルも、教育委員会を通じて確保しなければいけないこともご理解頂きたいと思います。何でもいいですよ、というわけにはいきません。

 

フリースクールも含めて多様な教育機会確保法としており、就学支援委員会といった審査の場を各市町村に置くことになっています。基本的には教員免許取得者が教えることが必要だと私は思っておりますが、自主夜間中学で教える人に関しても、 教育委員会で審査して把握しておかなければいけません。そういった仕組みの中において、税金を使うに相応しい一定の基準というものはクリアしていただく必要があると思っております。

 

荻上 関本さんはこういう議論をよりしてほしいとか、こういった部分に注目してほしいなどの希望はいかがですか。

 

関本 生徒の中には、教師より生活経験が豊富な方もたくさんいらっしゃいます。そういう方に教える場合には、昼とは違った基準が必要だと思います。

 

例えば、東京の夜間中学では生活基本漢字381字という、回覧板や給料明細を読んだり、役所の言葉を覚えたりとか、そういったことを通して国語の教材を作りました。このように、学ぶ人が実際に使える知識なども十分に踏まえながら、教え方や教材なども考えていかなければいけませんよね。

 

文科省も都道府県もリーダーシップを取って頂きながら、拡充に相応しいような研修や教材作りをやっていくのが重要な仕事になるんじゃないでしょうか。

 

 教員研修というのは都道府県の教育委員会の仕事で、基本的には全体の教員の底上げをするのは都道府県の教育委員会ですし、義務教育の設置は市区町村であります。

 

したがって、連携の教育委員会を設置した上で、都道府県の教育委員会と市町村の教育委員会が役割を分担しながらニーズの掘り起こしをしたり、調査や研究をしてエビデンスを重ねたりしながら、改善していく必要があるでしょう。

 

 

Session-22banner

 

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.267 

・堅田香緒里「ベーシック・インカムとジェンダー」
・有馬斉「安楽死と尊厳死」

・山本章子「誤解だらけの日米地位協定」
・桜井啓太「こうすれば日本の貧困対策はよくなる――貧困を測定して公表する」
・福原正人「ウォルツァー政治理論の全体像――価値多元論を手がかりとして」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(11)――シンクタンク人生から思うこと」
・杉原里美「掃除で、美しい日本人の心を育てる?」