2016.06.02

困難を抱えた生徒と向き合う――埼玉県定時制高校生自立支援プログラムにおけるスクールソーシャルワーカーの実践

瀧澤雪子 埼玉県教育局スクールソーシャルワーカー、社会福祉士、精神保健福祉士

教育 #子どもの貧困#スクールソーシャルワーカー#定時制高校

はじめに

筆者は1977年明治大学法学部法律学科を卒業。教職に就いた経験はない。福祉の世界との関わりは、2002年に東京弁護士会「子どもの人権と少年法に関する特別委員会」の弁護士、児童福祉関係者、虐待問題に思いを寄せる一般市民らとともに被虐待児や非行少年のための民間シェルター設立準備会に加わったことに始まる。

2004年「NPO法人カリヨン子どもセンター」設立後は理事として、また被虐待児シェルター「子どもの家」開設当初はワーカーとして、入所児の相談援助や生活支援も行った。2008年、当法人が社会福祉法人となってから今日まで男女別「子どもシェルター」、男女別「自立援助ホーム」など5つの事業の運営に理事として関わっている。

2011年に社会福祉士、2012年に精神保健福祉士の資格を取得し、2012年、埼玉県のスクールソーシャルワーカーに採用されて、県西部の夜間定時制高校と単位制定時制高校の相談員を兼務した。また、ひきこもりの若者の自立を支援する「若者サポートステーション」では「心の相談員」として15歳から39歳までの不登校や引きこもり経験から就労につまずいた人たちの相談業務に関わった経験もある。

「カリヨン子どもセンター」の子どもシェルターで支援した子どもたちの年齢は15歳から20歳、みな養育環境にさまざまな問題を抱えていた。(注1)

(注1) 社会福祉法人カリヨン子どもセンター子どもシェルター利用者の実態調査報告書2012年12頁

夜間定時制高校は高度経済成長時代には勤労青年のためのものであったが、現在はさまざまな困難を抱えた生徒の集う場所になっている。子どもシェルターで支援した子どもたちの抱える問題と定時制高校に集う生徒たちの抱える問題は共通する部分が多くあった。

本稿では、夜間定時制高校に配置されたスクールソーシャルワーカーという福祉専門職の目から見えてきた「困難を抱えた生徒の支援のありかた」について考察し、あわせて「権利擁護」に視点を置いた生徒支援の実践について事例を通して考察する。

※本稿は、「明治大学教育会紀要 第7号(2014年度)」より転載いたしました。

スクールソーシャルワーカー活用事業について

文部科学省は平成20年度から、「いじめ、不登校、暴力行為、児童虐待など生徒指導の課題に対応するため、教育分野に関する知識に加えて、社会福祉等の専門的な知識・技術を用いて、児童生徒の置かれた様々な環境に働き掛けて支援を行う、スクールソーシャルワーカーを配置し、教育相談体制を整備する。」として、スクールソーシャルワーカー活用事業を開始した。

本事業の実施要領によれば、スクールソーシャルワーカーとして選考する者について、社会福祉士や精神保健福祉士等の福祉に関する専門的な資格を有する者が望ましいが、地域や学校の実情に応じて、福祉や教育の分野において、専門的な知識・技術を有する者又は活動経験の実績等がある者のうち、次の職務内容を適切に遂行できる者とする。

(1)課題を抱える児童・生徒が置かれた環境への働きかけ

(2)関係機関とのネットワーク構築

(3)学校内におけるチーム体制の構築・支援

(4)保護者・教職員に対する支援・相談・情報提供

(5)教職員等への研修活動


としている。(注2)

(注2)平成25年度文部科学省スクールソーシャルワーカー活用事業実施要領等142-144頁

埼玉県は、平成21年度に同事業を受託して、当初8市町に21名のスクールソーシャルワーカーを配置したのを皮切りに毎年増員を図り、平成26年度には44市町に48名を配置している。平成24年度の配置人数、資格、勤務形態、研修体制は、次表の通りである。(注3)

(注3)平成24年度スクールソーシャルワーカー実践活動事例集:文部科学省12頁

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文部科学省が、スクールソーシャルワーカーとして職務内容を適切に遂行できる者としている上記(1)から(5)までの職務を遂行するための専門性が、埼玉県に配置されたスクールソーシャルワーカーに担保されているか、またそのための研修体制が適切かどうか、この表を見る限り疑問が多い。

資格のうち、教員免許状とあるのは定年退職者(主に管理職経験者)の再任用である場合が多い。長年にわたる学校現場での生徒指導の経験は、「不登校支援」をスクールソーシャルワーカー配置の主たる目的としている義務教育においては、生徒の学習指導などで力を発揮することが出来るし、学校との連携を図りやすい利点がある。しかし、(1)の「課題を抱える児童・生徒の置かれた環境への働きかけ」という「指導」ではなく「支援」のための相談援助技術の専門性は不十分であると言える。

一方、福祉の専門職にあっても社会福祉士や精神保健福祉士は国家資格ではあるものの、スクールソーシャルワーカー養成課程を持つ大学や専門学校が少ない現在、高度の専門性や児童・生徒への支援経験を持つ者が多いとは言えない。

研修体制については、年3回の連絡協議会で講演、実践発表、グループ討議等が行われているが、不充分であると言わざるを得ない。基本的な相談援助技術や福祉の価値と倫理についての研修は、福祉専門職資格の有無を問わず着任前に行うべきであると思う。そのためには、専任のスーパーバイザーが必要であることはいうまでもない。

定時制高校生自立支援プログラム

埼玉県は、平成24年度、これまでの文部科学省「スクールソーシャルワーカー活用事業」による小中学校へのスクールソーシャルワーカー(以下SSWと略記)の派遣に加えて、県独自の事業として「定時制高校生自立支援プログラム事業」を開始し、事業の一環として県内の定時制高校2校に週3日、年間135日勤務のSSWを配置した。

初年度は、2010年度に中途退学者、不登校が多かった2校をモデル校として実施され、筆者は県西部地区の夜間定時制高校に配置となり、要請によって西部地区の定時制高校すべてに派遣されることとなった。(拠点校配置派遣型)

筆者の勤務校での定時制高校生自立支援プログラムの実施要綱によれば、その目的と内容は次の通りである。(注4)

(注4)平成24年度埼玉県定時制高校生自立支援プログラム事業実践報告書1頁

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定時制高校、とりわけ夜間定時制高校は、高度経済成長期においては中卒の勤労青年のための教育の受け皿としての役目を果たしていた。学校が「荒れる教室」と呼ばれた1970年代後半からは、非行系、特に暴走族のたまり場というイメージになっていったが、90年代から2000年代になると非行系の生徒と不登校経験者などの生徒が混在する時代になる。

現在、夜間定時制に入学してくる生徒の中にも非行系の生徒は少数いるが、家庭的にも経済的にもさまざまな問題を抱え、中学では不登校やいじめの被害者だった者などが多い。全日制高校に行きたくても、学業成績が極端に悪かったり、不登校で欠席日数が3桁を越えていたりすると受け入れてくれる学校は少ない。経済的にゆとりがあれば、私立のいわゆる「サポート校」と呼ばれる不登校専門の学校もあり、また単位制、通信制、多部制の昼間の定時制などもあるので、夜間定時制に望んで入学してくる生徒はほとんどいないのが現実である。経済的困窮度が高い生徒のほかに外国籍の生徒も増えている。このように現在の定時制高校にはさまざまな社会的弱者が集まっていると言える。

明確な目的を持たずに入学してくる生徒には中途退学者が多い。これまでも県は相談員を配置したり、学習支援員、外国籍生徒の日本語指導のための多文化共生推進員、スクールカウンセラーなどを配置して手厚い支援体制を敷いてきたが、それでもなお中途退学率は下がらなかった。

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これは、朝日新聞埼玉版に掲載された本プログラムに関する記事の一部である。この記事から、全日制高校の中退者が減少傾向にあるなかで、定時制においては中退者、中退率ともに上昇していることが分かる。(注5)

(注5)朝日新聞埼玉版2013年4月6日http://www.asahi.com/edu/articles/TKY201304060092.html

全国的にも珍しいSSWの高校配置の根底には定時制高校における中途退学者が全日制高校に比べて極めて高く、中途退学率も全国平均を大きく上回っている状態を改善したいという埼玉県教委の危機感が伺える。当初の目的はどうあれ、様々な課題を抱える生徒の集まる定時制高校にSSWが配置されたことには大きな意義があると思う。なお、本事業は平成26年度から「課題を抱える生徒の自立を支援する共助プラン」と事業名を変え、県内の全定時制高校24校をカバーするため、社会福祉士、精神保健福祉士の資格を持つSSWが8名配置された。

定時制高校における生徒の主な課題

前項でさまざまな社会的弱者が集まる時代と述べたが、生徒の抱える問題は、不登校、いじめの体験、貧困、不適切な養育環境、虐待、学力の不足、気づかれない、あるいは受容されない知的障害・発達障害等の障害、これらによる二次的障害(抑うつ、統合失調症の発症が疑われるもの、社会恐怖症、強迫神経症、境界性人格障害など)様々な要素が複雑に絡み合っている。

生徒一人ひとりと面談していると、よくここまで頑張って生きてきたな、と思わされることがある。ひとり親家庭、生活保護受給世帯、ステップファミリー、いわゆるワーキングプアと言われる経済的困窮世帯、保護者の疾病や障害、生徒自身の疾病や障害、外国籍などなど支援を必要としている生徒が多く在学している。

中学校時代は不登校でほとんど学校に通えなかった生徒が、入学後は休まず登校して学業に励み、文化祭や体育祭などの行事、生徒会での友人との繋がりを通して自己肯定感を高めていくことがある。就労体験、アルバイト支援などで職業意識が醸成され、希望の進路実現を図ることが出来た生徒もいた。本プログラム事業によるSSWの配置によって、チーム体制での生徒支援が可能となり、自立に繋げられたことはひとつの成果だといえる。

学校内で管理職、プログラム事業担当教員、一般教員、養護教諭、SSW、スクールカウンセラーなどがチーム体制を組み、教育的側面、保健的側面、心理的側面、福祉的側面などそれぞれの専門分野を持ち寄ることで、これまで個人的な問題として俎上に載らなかったケースを拾い上げることが出来る。そして、必要ならば外部機関に繋げることも出来る。生徒支援のチーム体制の要としての役割を果たすために、定時制高校におけるSSWの配置は「困難を抱えた生徒の支援」にとって効果があると思う。

学校内におけるチーム体制構築の取り組み

1.教員との連携の難しさ

初めてSSWの配置を受け入れた学校内にはどのような課題があったであろうか。

(1)教員は生徒に関わる際にチームで仕事をする機会が少なく、教員以外の専門職が入ったとしても組織は変わりにくい。

学校には独特の文化があり、組織が閉鎖的であることは巷間喧伝されるところであり、いじめ問題の対応などで子どもを中心とした支援より学校の組織防衛が優先され、子どもの権利が侵害される事例なども散見される。

(2)SSWの認知度が低い。

SSWの認知度が低いことは否定できないし、校務分掌などの学校の組織運営体制について筆者に基本的知識が足りなかったことも連携の難しさの要因であったと思う。

(3)プログラム事業の受託を含め、教員が望んでカウンセラーやSSWが配置されたわけではない。この点がもっとも難しい課題であった。

2.チーム体制構築の取り組み

(1)そこで、SSWからの着任後いろいろな機会を捉えて情報発信を行った。まず、自己紹介のプリントを作成し全職員に配布、入学式後の保護者説明会でもSSWの役割などについて話をする機会を作って頂いた。

(2)支援を必要としている生徒の問題を把握するためにまずは「養護教諭・SSW・SC」の三者で頻繁に情報交換を行った。カウンセラーの勤務日にはプログラム事業担当教員も加えて四者で情報交換会を行った。情報交換会は主に相談室で行ったが、職員室内で椅子を寄せあっただけの時もあればソファに座って行う時もあった。

(3)職員室で情報交換をしていると、自然に担任や教科担任が加わってくることもあり、管理職も加わった「ケース会議」へと発展させていくプロセスが生まれていった。

学校内における生徒支援のための取り組みを図にすると下のようになる。

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生徒の出身校や教育センターへの訪問はSSWだけでは行えないので、同行させてもらう形で、生徒の置かれた環境について、「福祉的視点」で質問をし、支援に繋がる情報収集をおこなった。教員対象の研修会は、『生活保護制度』『少年法と更生保護制度』『金銭基礎教育について』という演題で行った。教員が直面している問題の理解のためにプログラム事業担当教員が演題を決める形で行われた。教員からは、「制度理解が生徒理解に通じることが分かり、生徒支援に直接役立った」という評価を得た。

今年度、生徒対象に行った「金銭基礎教育」と「社会的自立とは何か」と題した講話は生徒との交流に大いに役立った。管理職、プログラム事業担当教員、担任、その他の教員、養護教諭との連携、定期面談、生徒との交流により、生徒の小さな変化を見逃さないことが可能となり、迅速に生徒支援に繋げることができたと思っている。

権利擁護に視点を置いた支援事例

1.スクールソーシャルワークの役割と機能

スクールソーシャルワーの役割と機能には次のようなものがある。(注6)

(1)相談(counseling)(2)代弁(advocacy)(3)情報提供(information)

(4)調整(coordination)(5)仲介(mediation)(6)家庭訪問(visitinghome)

(7)連携・協働(cooperation/collaboration)

(注6)NPO法人日本スクールソーシャルワーク協会HP「スクールソーシャルワーカーの役割」

http://www.sswaj.org/w_ssw.html

この7つの機能について事例に沿って順に述べたいと思う。

2.無戸籍の生徒の就籍許可審判の支援

ケースの概要:

(※本事例の投稿については当事者及び代理人弁護士、所属長の許可を得ている)

・出生届未提出により無戸籍の生徒二名が就籍を望んでいる。

・身分を証明するものが学生証のみで、卒業後は身分を証明するものが無くなる。

・無戸籍のままでは、就職、免許取得、選挙、結婚その他すべての法律行為が出来ない。

・これまで戸籍作成のためにいろいろな相談機関に足を運んだが手続きの煩雑さと弁護士費用の捻出が難しく断念していた。

・生徒二名は生活保護受給世帯員であるが、無戸籍のため世帯分離して自立出来ない。

相談:

・管理職及び担任から生徒二名の戸籍作成の支援が出来ないか相談を受ける。

・担任からこれまでの生徒二名(以下生徒らと略記)の状況を聞き取り、生徒らと面談。

・担任とともに生徒らからこれまでの状況を聞き取る。

・保護者(父親)と面談し、無戸籍に至った経緯等を聞き取る。保護者との面談を踏まえて再び生徒らと面談。

代弁:

・管理職、担任、生徒、保護者からの情報をSSWが精査し、「民法772条による無戸籍児家族の会」に生徒の代弁者として相談。

・市内の司法書士に法テラス利用の手続きについて生徒の代弁者として相談。

・東京弁護士会所属の弁護士に生徒らの代弁者として相談。

・家庭裁判所調査官の調査に同行し、生徒らの代弁者としてこれまでの経緯を説明。

「代弁機能(アドボカシー)」とは権利擁護ともいわれ、当事者の権利が侵害されている状態にあるが、認知機能が衰えていたり、何らかの障害があったりして当事者自身で権利を護ることが出来ない場合に弁護士や社会福祉士などが代弁者となって権利を護る事を言う。生徒らは重大な権利侵害状態にあるが、専門知識もなく経済力もないため「戸籍」を持つという最も大切な権利を回復することが出来ない。

そのためSSW、担任、弁護士が連携して生徒らの代弁者として権利回復を支援した。

情報提供:

・各種相談機関から集めた情報を、生徒ら、保護者に提供。

・弁護士費用の捻出については、法テラス利用の手続きについて情報提供。

・弁護士から得た就籍に必要な手続きについての情報を、生徒らに提供。

・市内在住の弁護士選任のために、市内の司法書士から得た情報を生徒らに提供。


調整:

・市内在住の司法書士(法テラス審査員)から同じく法テラス審査員で市内在住の弁護士の紹介を受け、生徒らとともに依頼に出向く。

・長期入院中の母親について診断書取得のため病院のMSW、医師との調整を行う。

仲介:

・生徒らが在学していた小中学校から指導要録の提供についての仲介を行う。

・市役所保育課から生徒らの保育記録の提供についての仲介を行う。

・生徒らの生活記録として、東京都内、埼玉県内の4市区町から生活保護受給記録の提供についての仲介を行う。

家庭訪問:

・保護者から審判に必要な情報を得るため、担任とともに家庭に出向き、生徒らの出生からの生活歴について聴き取りを行い、出生証明書や幼少期の写真などを収集した。

連携・協働:

・家庭裁判所調査官から、生徒らの出生時からこれまでの生活歴の提出を依頼されたため、教育委員会、福祉事務所、病院などと連携して就籍許可申立審判に必要な資料を作成し提出した。

・家庭裁判所調査官の調査には、当事者3名(生徒二名・保護者)、代理人弁護士二名、担任、SSWが同行し資料を裏付ける情報を調査官の質問に応じて提供した。

・SSW、担任、弁護士、司法書士、民間の相談機関、市区町村の福祉事務所、教育委員会などの多機関連携により25年4月、生徒二名は就籍許可により無戸籍が解消された。戸籍を取得したことにより、彼らは世帯分離して生活保護の世帯員から外れ、就労自立を図ることが出来た。

3.本事例から見えてきたもの

着任早々、辞令交付のすぐ後で管理職と担任からSSWが配置されたらまず初めに取り組んでほしいケースがあると言われた。生徒の担任は公民科の教員で、これまでいろいろな支援機関に生徒と一緒に足を運んで戸籍を得る道がないか探ってきたが、なにより保護者の理解が得られず何度も途中で断念したとのことだった。

生徒らは戸籍がなければ将来の展望がないということは分かっていても、そのために何をすべきかが分からない。このことこそが代弁機能が大切な理由である。生徒らや保護者から聞き取った出生から現在までの長い生活歴についての情報を、就籍審判に必要な情報へと翻訳(変換)して弁護士や調査官に伝えていく作業には膨大な時間と労力を費やした。

何故SSWや担任が、生徒らの記録を裁判所からの依頼に応じて作成したのか不思議に思う方もいるかもしれない。普通は裁判や審判に必要な資料は本人と代理人弁護士が作成するものである。しかし、戸籍のない彼らはこれまで保育園、学校という保育や教育の場でだけ存在していたのである。彼らの学籍を辿ることは学校に籍を置く教員やSSWにとっては容易なものであった。

また、出生当初から一貫して生活保護受給世帯員だったことが皮肉にも彼らの存在を裏付けるものとなったのであるが、本来ならば福祉事務所が作成すべき審判に必要な生活歴を、SSWと担任が、膨大な生活保護受給記録の中から必要事項を探し出して作成し裁判所に提出した。これは裁判所調査官からの依頼でもあった。裁判所も学校関係者も彼ら自身も卒業を控えて一日も早い審判終結を望んでいたからである。

そのほかの主な支援事例

・児童養護施設入所歴のある生徒の個別支援

・18歳以上の被虐待ケースについて民間シェルター入所支援

・非行歴(保護観察中も含める)のある生徒の見守り支援

・障害者支援施設に通う生徒の見守り支援

・生活保護受給家庭の生徒の自立のための世帯分離支援

・ひとり親家庭、ステップファミリーの生徒の見守り支援

・自立援助ホームからの通う生徒についてホームとの連携支援

・被虐待で里親宅から通う生徒について児相、里親との連携支援

・児童自立支援施設入所歴のある生徒の見守り支援

・外国籍生徒の就労支援および家庭関係調整の個別支援

連携した主な機関

・福祉事務所(生活保護受給世帯生徒の支援)

・教育センター(不登校経験の生徒の情報共有)

・児童童相談所(被虐待ケース支援、児童養護施設、里親などの措置児の支援)

・民法772条による無戸籍児家族の会(就籍許可審判支援)

・司法書士事務所(就籍審判のための法テラス利用に関する無料相談)

・弁護士(被虐待ケース支援・就籍許可審判代理人)


・東京弁護士会子どもの人権110番(被虐待ケース支援)

・社会福祉法人カリヨン子どもセンター(被虐待児シェルター利用)

・生活保護受給者チャレンジ支援事業「アスポート」(利用生徒の支援)

・自立援助ホーム(入所生徒の支援計画)

・地元市役所の保健センター、子ども支援課、子ども相談センター

・さいたま家庭裁判所川越支部調査官(就籍許可審判支援)

・NPO法人ほっとプラス(生活保護受給世帯の生徒支援に関するコンサルテーション)

・福祉のまちづくりコーディネーター(民間、地域の社会資源の紹介)

外部機関との連携は、高校は義務教育と違って地域行政とのつながりが薄いため、当初は困難を極めた。しかし、個人的なつながりやSNSなどのツールも連携先の開拓に役立った。紹介した事例解決のきっかけを作って下さった司法書士は偶然にも明治大学法学部のOBであった。NPOなどの地域の社会資源はその気になって探さないと見つからない。ソーシャルワーカーはジェネラリストだと言われるが、多分野にわたり広範な知識が必要となるケースワークを一人で背負うことはできない。常にアンテナを四方に張り巡らしていることは、ソーシャルワーカーにとって欠かせない条件だと思う。

結びに

以上述べてきたこれまでの実践から、学校内においては、教育職だけではなく、心理、福祉などの専門職とチーム体制を組むことで、不登校要因などの課題を解決することが可能となり、中途退学の防止により、生徒の希望する進路実現が図れることは明らかである。

この3年間、埼高教養護教諭研修会、全教公開学習会、東京学芸大学自主ゼミ、他校の教職員研修会、矢吹町要対協研修会、栃木県社会福祉士会SSW研修会、一橋大学「教職実践演習」の授業などにお呼び頂き、さまざまな立場の方々にSSWについてお話する機会を持つことが出来た。SSWの認知度を高める一助になったとすれば幸いである。

明治大学の高野和子教授には「教職入門」の授業で、「学校に福祉の目を」と題する特別講義の機会を頂戴した。教職課程の導入段階で、他の専門職との連携が生徒支援に繋がるということをについて、学生に伝える機会を与えて頂いたことを感謝申し上げたい。

昨年8月、「子どもの貧困対策大綱」が閣議決定された。これを受けて、文部科学省は「学校を子どもの貧困対策のプラットフォームとして位置づける」として、SSWを現在の約1500人から五年間で1万人に増員するという目標を掲げて予算要求を行うとしている。喜ぶべきことではあるが、「誰が」「どこで」「どのように」行うか、課題は山積している。

筆者は、学校は困難を抱えた多くの生徒のための「足場」だと考えている。足場を支えるチームには教職員のほかに学習支援員や多文化共生推進員、カウンセラーやSSWなど多職種のメンバーがいるが、転落しないように両足で踏ん張っているのは生徒自身である。

困難な課題を抱えながらも、生徒一人ひとりが学校という空間で、いろいろな立場の人に見守られて成長していくのを見ることが出来るのは筆者にとって大きな喜びである。中にはどうしても上手くいかずに学校を去っていく生徒もいるが、学校で多くの人に支えられた数年間の経験は、彼らの将来に必ず役立ってくれるものと信じている。

生徒にとって学校は仲間とつながり、未来へつなげる大切な場所である。学校は小さな社会であり、生きる力をつけるために必要な教育を行う場所であると思う。

ソーシャルワークの価値は「繋ぎ」「支え」「護る」ことにあると言われるが、生徒のニーズを知って必要な機関に繋げること、一緒に考える人が居ることが支えになること、そしてなにより子どもの最善の利益を護ることを使命と考え、これからも困難を抱えた生徒と向き合っていきたいと思う。

最後になったが、今回、明治大学教育会研究大会において発表の機会を頂戴し、紀要に拙稿を掲載させて戴けたことは、一介のSSWにとって大きな喜びである。ご尽力くださった関係者のみなさまに紙面をお借りして感謝の意を表したいと思う。

プロフィール

瀧澤雪子埼玉県教育局スクールソーシャルワーカー、社会福祉士、精神保健福祉士

明治大学法学部法律学科卒。社会福祉法人カリヨン子どもセンター理事。一橋大学「教職実践演習」、明治大学「教職入門」、日本社会事業大学「SSW論」、東洋大学是枝ゼミ、東京学芸大学馬場ゼミなどで特別講義。福島県矢吹町子ども虐待防止ネットワークシンポジウム、 宇都宮市SSW研修講座、埼玉県非行防止連携充実会議、全教高校教育研究委員会公開学習会その他で講演。『「困難を抱えた子どもと向き合う-埼玉県定時制高校生自立支援プログラムにおけるスクールソーシャルワーカーの実践」(2015年明治大学教育会紀要第7号)。『「子どもの貧困」と向き合う-夜間定時制高校スクールソーシャルワークの現場から-』(子どもの本棚2016年2月号)。

(写真:「朝日新聞埼玉版2013.4.6」より)

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