困難を抱えた生徒と向き合う――埼玉県定時制高校生自立支援プログラムにおけるスクールソーシャルワーカーの実践

権利擁護に視点を置いた支援事例

 

1.スクールソーシャルワークの役割と機能

 

スクールソーシャルワーの役割と機能には次のようなものがある。(注6)

(1)相談(counseling)(2)代弁(advocacy)(3)情報提供(information)

(4)調整(coordination)(5)仲介(mediation)(6)家庭訪問(visitinghome)

(7)連携・協働(cooperation/collaboration)

 

(注6)NPO法人日本スクールソーシャルワーク協会HP「スクールソーシャルワーカーの役割」

http://www.sswaj.org/w_ssw.html

 

この7つの機能について事例に沿って順に述べたいと思う。

 

 

2.無戸籍の生徒の就籍許可審判の支援

 

ケースの概要:

(※本事例の投稿については当事者及び代理人弁護士、所属長の許可を得ている)

・出生届未提出により無戸籍の生徒二名が就籍を望んでいる。

・身分を証明するものが学生証のみで、卒業後は身分を証明するものが無くなる。

・無戸籍のままでは、就職、免許取得、選挙、結婚その他すべての法律行為が出来ない。

・これまで戸籍作成のためにいろいろな相談機関に足を運んだが手続きの煩雑さと弁護士費用の捻出が難しく断念していた。

・生徒二名は生活保護受給世帯員であるが、無戸籍のため世帯分離して自立出来ない。

 

相談:

・管理職及び担任から生徒二名の戸籍作成の支援が出来ないか相談を受ける。

・担任からこれまでの生徒二名(以下生徒らと略記)の状況を聞き取り、生徒らと面談。

・担任とともに生徒らからこれまでの状況を聞き取る。

・保護者(父親)と面談し、無戸籍に至った経緯等を聞き取る。保護者との面談を踏まえて再び生徒らと面談。

 

代弁:

・管理職、担任、生徒、保護者からの情報をSSWが精査し、「民法772条による無戸籍児家族の会」に生徒の代弁者として相談。

・市内の司法書士に法テラス利用の手続きについて生徒の代弁者として相談。

・東京弁護士会所属の弁護士に生徒らの代弁者として相談。

・家庭裁判所調査官の調査に同行し、生徒らの代弁者としてこれまでの経緯を説明。

 

「代弁機能(アドボカシー)」とは権利擁護ともいわれ、当事者の権利が侵害されている状態にあるが、認知機能が衰えていたり、何らかの障害があったりして当事者自身で権利を護ることが出来ない場合に弁護士や社会福祉士などが代弁者となって権利を護る事を言う。生徒らは重大な権利侵害状態にあるが、専門知識もなく経済力もないため「戸籍」を持つという最も大切な権利を回復することが出来ない。

 

そのためSSW、担任、弁護士が連携して生徒らの代弁者として権利回復を支援した。

 

情報提供:

・各種相談機関から集めた情報を、生徒ら、保護者に提供。

・弁護士費用の捻出については、法テラス利用の手続きについて情報提供。

・弁護士から得た就籍に必要な手続きについての情報を、生徒らに提供。

・市内在住の弁護士選任のために、市内の司法書士から得た情報を生徒らに提供。


 

調整:

・市内在住の司法書士(法テラス審査員)から同じく法テラス審査員で市内在住の弁護士の紹介を受け、生徒らとともに依頼に出向く。

・長期入院中の母親について診断書取得のため病院のMSW、医師との調整を行う。

 

仲介:

・生徒らが在学していた小中学校から指導要録の提供についての仲介を行う。

・市役所保育課から生徒らの保育記録の提供についての仲介を行う。

・生徒らの生活記録として、東京都内、埼玉県内の4市区町から生活保護受給記録の提供についての仲介を行う。

 

家庭訪問:

・保護者から審判に必要な情報を得るため、担任とともに家庭に出向き、生徒らの出生からの生活歴について聴き取りを行い、出生証明書や幼少期の写真などを収集した。

 

連携・協働:

・家庭裁判所調査官から、生徒らの出生時からこれまでの生活歴の提出を依頼されたため、教育委員会、福祉事務所、病院などと連携して就籍許可申立審判に必要な資料を作成し提出した。

・家庭裁判所調査官の調査には、当事者3名(生徒二名・保護者)、代理人弁護士二名、担任、SSWが同行し資料を裏付ける情報を調査官の質問に応じて提供した。

・SSW、担任、弁護士、司法書士、民間の相談機関、市区町村の福祉事務所、教育委員会などの多機関連携により25年4月、生徒二名は就籍許可により無戸籍が解消された。戸籍を取得したことにより、彼らは世帯分離して生活保護の世帯員から外れ、就労自立を図ることが出来た。

 

 

3.本事例から見えてきたもの

 

着任早々、辞令交付のすぐ後で管理職と担任からSSWが配置されたらまず初めに取り組んでほしいケースがあると言われた。生徒の担任は公民科の教員で、これまでいろいろな支援機関に生徒と一緒に足を運んで戸籍を得る道がないか探ってきたが、なにより保護者の理解が得られず何度も途中で断念したとのことだった。

 

生徒らは戸籍がなければ将来の展望がないということは分かっていても、そのために何をすべきかが分からない。このことこそが代弁機能が大切な理由である。生徒らや保護者から聞き取った出生から現在までの長い生活歴についての情報を、就籍審判に必要な情報へと翻訳(変換)して弁護士や調査官に伝えていく作業には膨大な時間と労力を費やした。

 

何故SSWや担任が、生徒らの記録を裁判所からの依頼に応じて作成したのか不思議に思う方もいるかもしれない。普通は裁判や審判に必要な資料は本人と代理人弁護士が作成するものである。しかし、戸籍のない彼らはこれまで保育園、学校という保育や教育の場でだけ存在していたのである。彼らの学籍を辿ることは学校に籍を置く教員やSSWにとっては容易なものであった。

 

また、出生当初から一貫して生活保護受給世帯員だったことが皮肉にも彼らの存在を裏付けるものとなったのであるが、本来ならば福祉事務所が作成すべき審判に必要な生活歴を、SSWと担任が、膨大な生活保護受給記録の中から必要事項を探し出して作成し裁判所に提出した。これは裁判所調査官からの依頼でもあった。裁判所も学校関係者も彼ら自身も卒業を控えて一日も早い審判終結を望んでいたからである。

 

 

そのほかの主な支援事例

 

・児童養護施設入所歴のある生徒の個別支援

・18歳以上の被虐待ケースについて民間シェルター入所支援

・非行歴(保護観察中も含める)のある生徒の見守り支援

・障害者支援施設に通う生徒の見守り支援

・生活保護受給家庭の生徒の自立のための世帯分離支援

・ひとり親家庭、ステップファミリーの生徒の見守り支援

・自立援助ホームからの通う生徒についてホームとの連携支援

・被虐待で里親宅から通う生徒について児相、里親との連携支援

・児童自立支援施設入所歴のある生徒の見守り支援

・外国籍生徒の就労支援および家庭関係調整の個別支援

 

 

連携した主な機関

 

・福祉事務所(生活保護受給世帯生徒の支援)

・教育センター(不登校経験の生徒の情報共有)

・児童童相談所(被虐待ケース支援、児童養護施設、里親などの措置児の支援)

・民法772条による無戸籍児家族の会(就籍許可審判支援)

・司法書士事務所(就籍審判のための法テラス利用に関する無料相談)

・弁護士(被虐待ケース支援・就籍許可審判代理人)


・東京弁護士会子どもの人権110番(被虐待ケース支援)

・社会福祉法人カリヨン子どもセンター(被虐待児シェルター利用)

・生活保護受給者チャレンジ支援事業「アスポート」(利用生徒の支援)

・自立援助ホーム(入所生徒の支援計画)

・地元市役所の保健センター、子ども支援課、子ども相談センター

・さいたま家庭裁判所川越支部調査官(就籍許可審判支援)

・NPO法人ほっとプラス(生活保護受給世帯の生徒支援に関するコンサルテーション)

・福祉のまちづくりコーディネーター(民間、地域の社会資源の紹介)

 

外部機関との連携は、高校は義務教育と違って地域行政とのつながりが薄いため、当初は困難を極めた。しかし、個人的なつながりやSNSなどのツールも連携先の開拓に役立った。紹介した事例解決のきっかけを作って下さった司法書士は偶然にも明治大学法学部のOBであった。NPOなどの地域の社会資源はその気になって探さないと見つからない。ソーシャルワーカーはジェネラリストだと言われるが、多分野にわたり広範な知識が必要となるケースワークを一人で背負うことはできない。常にアンテナを四方に張り巡らしていることは、ソーシャルワーカーにとって欠かせない条件だと思う。

 

 

結びに

 

以上述べてきたこれまでの実践から、学校内においては、教育職だけではなく、心理、福祉などの専門職とチーム体制を組むことで、不登校要因などの課題を解決することが可能となり、中途退学の防止により、生徒の希望する進路実現が図れることは明らかである。

 

この3年間、埼高教養護教諭研修会、全教公開学習会、東京学芸大学自主ゼミ、他校の教職員研修会、矢吹町要対協研修会、栃木県社会福祉士会SSW研修会、一橋大学「教職実践演習」の授業などにお呼び頂き、さまざまな立場の方々にSSWについてお話する機会を持つことが出来た。SSWの認知度を高める一助になったとすれば幸いである。

 

明治大学の高野和子教授には「教職入門」の授業で、「学校に福祉の目を」と題する特別講義の機会を頂戴した。教職課程の導入段階で、他の専門職との連携が生徒支援に繋がるということをについて、学生に伝える機会を与えて頂いたことを感謝申し上げたい。

 

昨年8月、「子どもの貧困対策大綱」が閣議決定された。これを受けて、文部科学省は「学校を子どもの貧困対策のプラットフォームとして位置づける」として、SSWを現在の約1500人から五年間で1万人に増員するという目標を掲げて予算要求を行うとしている。喜ぶべきことではあるが、「誰が」「どこで」「どのように」行うか、課題は山積している。

 

筆者は、学校は困難を抱えた多くの生徒のための「足場」だと考えている。足場を支えるチームには教職員のほかに学習支援員や多文化共生推進員、カウンセラーやSSWなど多職種のメンバーがいるが、転落しないように両足で踏ん張っているのは生徒自身である。

 

困難な課題を抱えながらも、生徒一人ひとりが学校という空間で、いろいろな立場の人に見守られて成長していくのを見ることが出来るのは筆者にとって大きな喜びである。中にはどうしても上手くいかずに学校を去っていく生徒もいるが、学校で多くの人に支えられた数年間の経験は、彼らの将来に必ず役立ってくれるものと信じている。

 

生徒にとって学校は仲間とつながり、未来へつなげる大切な場所である。学校は小さな社会であり、生きる力をつけるために必要な教育を行う場所であると思う。

ソーシャルワークの価値は「繋ぎ」「支え」「護る」ことにあると言われるが、生徒のニーズを知って必要な機関に繋げること、一緒に考える人が居ることが支えになること、そしてなにより子どもの最善の利益を護ることを使命と考え、これからも困難を抱えた生徒と向き合っていきたいと思う。

 

最後になったが、今回、明治大学教育会研究大会において発表の機会を頂戴し、紀要に拙稿を掲載させて戴けたことは、一介のSSWにとって大きな喜びである。ご尽力くださった関係者のみなさまに紙面をお借りして感謝の意を表したいと思う。

 

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.279 

・川口俊明「全国学力テストの失敗は日本社会の縮図である――専門性軽視が生み出した学力調査の問題点」
・神代健彦「道徳、この教育し難きもの」
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