パッと見、大差ない教育政策を読み解くために――5つのテーマ・3つのキーワード

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3.「幼児教育の無償化」をどう見るか?――貧困・格差問題との関係

 

後の人生まで効いてくる幼児教育

 

今回の選挙で、奨学金と並んでもう1つ目立つ政策が、幼児教育関係である。

 

自民党、民進党、公明党、おおさか維新などが、就学前教育・幼児教育の無償化をかかげている。やや慎重な共産党も幼児教育の負担軽減をすすめると言っている。この背景は少なくとも二つあるだろう。

 

一つは、保育園の待機児童や保育士への待遇の悪さが注目され、それを何とかしなくてはということが争点となっていることだ。「幼児期」自体が注目され、「より質の高い幼児期を!」という流れが出てきている。

 

もう一つは、もう少し学問的な理由だ。それは幼児教育の「投資」としての効果が最近注目されているということである。

 

いろいろな調査や実験によって、幼少期の教育が、その後の発達によい影響を与えることが明らかになってきた。特に、そこで育まれる誠実さや社交性などコミュニケーションに関わるスキル(これを非認知的スキルと呼ぶ)が、その後の学力や大人になった時の収入、犯罪率の低さなどに、プラスの効果を与えることが注目されている(注9)。

 

(注9)ジェームズ・ヘックマン2015『幼児教育の経済学』東洋経済新報社

 

例えば、ノーベル経済学賞を取ったジェームズ・ヘックマンは、教育の収益率は、小さい頃の方が高いことを主張している。つまり、中学校より小学校の教育が、小学校より就学前の教育が、投資としての効果が高いというわけである(注10)。

 

(注10)中室牧子2015『「学力」の経済学』ディスカバリー21

 

言いかえると、少ない財源で大きな効果を生む。そこから、幼児教育は、効率的だから推進すべき、という声が高まり、各政党がそれを取り入れたということもありそうだ。

 

経済学以外にも、福祉研究が別の角度から同じようなことを指摘している。幼少期の貧困は子どもの発達に悪影響を与え、学校に入っても悪い成績の原因となり、成人した時の低い収入につながる。貧困が、次の世代でまた繰り返されることになる(注11)。だから、小さい時の発達の保障は、人生を通じて大切なことなのである。

 

(注11)山野良一2008『子どもの最貧国・日本』光文社新書

 

それでは、似かよった各政党の政策を評価するには、どうしたら良いだろうか。

 

 

複線化と機会の不平等

 

ここでは次の二つのポイントに注目したい。

 

一つは、何のための幼児教育なのかということである。優秀なエリートを育てるためなのか、機会の平等を実現するためなのか。普通に考えると、幼児教育の無償化は、全ての子どもが幼児教育を受けられることを保障するものだから、機会の平等につながっているはずである。

 

でも、幼児教育以外の教育政策を読むと、本気で「機会の平等」をめざすのか分からない政党も見られる。

 

例えば自民党は、「結果の平等」からの転換をめざし、「複線化」を図るといっている。「複線化」というのは、みんなが大学を目指すという「単線」をやめ、就きたい職業によって高校を選び専門学校までつなげていく制度にするというものだ。職業教育の充実を目指そうとする意欲はよいと思う。

 

だが、同時に進めると言っている小中一貫教育と合わせて考えると、恐ろしいリスクも見えてくる。それは、大学進学コースと職業コースとが、入った小学校によって実質的に決まっていくような分断教育だ。専門的な言葉で「トラッキング」というメカニズムである。

 

小さい頃の学校選択には、特に親の階層の影響が大きいことが知られている。機会の不平等は悪化する可能性が高い。

 

また、就きたい職業がそんなに早く決まるのか、変えたくなった時どうするのか、という疑問もある。ヨーロッパでは、職業教育トラックは、実は職につけない行き止まりも作り出している。うまくいくポイントはいくつかあるのだが、その一つは、大学進学コースとの移動可能性を高めることで、ガッチリした「複線化」ではない(注12)。

 

(注12)Busemeyer, Marius R., 2014, Skills and Inequality: Partisan Politics and the Political Economy of Education Reforms in Western Welfare States. Cambridge University Press.

 

いくら幼児教育の無償化を目指しても、自民党の教育政策は、先進国最悪レベルの格差をさらに広げてしまう恐れがある。エリートが育てばそれでいいと考えているのか、その辺を知りたい。

 

一方で共産党は、教育予算をつけて全体の底上げを目指していこうとしている。個人的に重要なポイントだと思う。だが、幼児教育については無償化ではなく負担軽減にとどめている理由は、もう少し知りたいところだ。また教育と職業・経済とをどうつなげていこうとしているのか、経済や社会を引っ張っていく人材を育てるという発想をどう考えているのかといった点も気になる。

 

 

教育と福祉の連携

 

もう一つは、教育における機会の不平等は、教育だけでは解決せず、福祉や雇用の問題と一緒に考えないといけないという点である。

 

勉強に集中するためにも、家庭環境が安定していることが大切だ。栄養のあるご飯を十分に食べられない、家庭が複雑でいつもギスギスしているという状況では、いくら幼児教育をしても限界がある。

 

実際には、小さい子のいる若い親の中には、しんどい状況にある人も多い。企業が正社員を雇うのを避けてきたので、非正規の仕事につかなくてはならない人が多くなり、その数は増えている。特に、若い親の世代に非正規労働者は多い。

 

この問題を解決しないまま、子どもの学力を論じてもむなしい。社会保障の実証研究によると、学力が高い国というのは、幼少期の貧困が少ない国でもある(注13)。教育と福祉は深く結びついている(注14)。

 

(注13)Iversen, Torben & John D. Stephens, 2008, “Partisan Politics, the Welfare State, and Three Worlds of Human Capital Formation”. Comparative Political Studies 41(4/5) 600-637.

 

(注14)Esping-Andersen, Gøsta, eds., Why We Need a New Welfare State. Oxford University Press.

 

つまり、幼児期の子どもの発達を保障したいとするなら、教育だけでなく、福祉の充実を目指している政党を選ぶことが合理的である。ちゃんと非正規雇用の問題に取り組んでいるのか、福祉制度を使いやすくしようとしているのか。

 

といっても、日本には「福祉削減します」と正面からかかげる政党はない。表面的には子どもの貧困を無くすとか、みんないいことを書いている。だが、細かく読むと本音は見えてくる。ここでは福祉政策の専門的な話は避けるが、判断する手がかりはいくらでもある。

 

福祉削減を進めてきただけでなく、データを見ると実際にはとても少ない生活保護の不正受給を強調して、本当に必要な人も福祉を受けにくくしてきた政党。労働時間の規制を緩めることを掲げて、働く環境をさらに悪化させそうな政党――。

 

そういう政策を政党がかかげる「幼児教育の無償化」は、政策効率という点で矛盾を抱えているし、その矛盾にも気付かず(気にせず?)受けそうだから書いているという点で知性の面でも心配である。

 

このように、一見同じ教育政策を評価する一つのポイントは、関係する他の分野の政策との整合性(相性)を見ることで、本気度や政策効率、理念の一貫性を判断することである。

 

 

4.多様性をめぐって――いじめ・不登校・道徳教育/政治教育

 

いじめと同調圧力

 

だいぶ長くなってしまったが、もう一つ触れておきたい論点がある。日本の学校の大きな問題点として、同調圧力(みんなに合わせないといけないという目に見えない力)がよく指摘される。その圧力をどう解除しようとしているのかについても見ておきたい。

 

同調圧力が生み出す最大の問題の一つが「いじめ」である。自民党は、いじめる側の出席停止や警察への通報など、厳しい対応をかかげている。民進党も同じように警察との連携をかかげている。犯罪のような激しいいじめに対しては即効性の高い政策といえる。

 

ただし今のいじめは、いじめ/いじめられる関係が簡単にひっくり返り、犯罪にあたらないボーダーの行為も含まれるので、厳罰化でなくせるわけではない。むしろ丁寧に対応すれば解決するような場合でも、どんどん学校から締め出す方向で使われるなら、副作用の方が大きくなる。

 

これに対して、公明党、共産党は、別の方向でいじめへの対応を考えているようだ。

 

その方向の一つとして、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーを増やすということがある。その点については自民・民進・公明・共産などが約束しており、足並みはそろっている(ただし民進党はスクールソーシャルワーカーの記述はない『民進党政策集2016』。また教育政策が比較的少ないおおさか維新の会はどちらの記述もない)。

 

 

少人数学級

 

もう一つの、いじめに対する対応として注目されているのが、少人数学級である。先生の目が届きやすくなるからだ。

 

民進党と共産党は、35人以下の学級をめざすと言っている。公明党も、人数については書いてないが、少人数学級を定着させると言ってある。欧米の学校は30人以下が多いので、世界のトレンドに合っている。また日本は子どもの数が減っているのだから、少人数学級は比較的お金をかけずにすむ政策である。

 

しかし、自民党とおおさか維新の会は、少人数学級をめざしていない。実は教育予算を少しでも減らしたい財務省も、少人数学級には反対である。研究者の中にも、少人数学級は学力の上昇につながらないという理由で反対する人はいる(中室、前掲書)。

 

いじめは、何を「いじめ」と定義するのかが難しいため、なかなか数字のデータに基づいた政策をしにくい。この点は、研究者よりも、若い人の方がリアリティをつかみやすいかもしれない。少人数学級は、いじめなどの学校問題を減らすことに効果がないのだろうか。ぜひ考えてみてほしい。

 

 

不登校とフリースクール

 

不登校に関しては、大事な政策が検討されている。それは、フリースクールに対する支援である。

 

いじめなどで学校に通えなくなった時、社会に居場所がなければつらい。そのためのフリースクールは、社会の多様性を守る上でとても大事だ。しかしフリースクールは、これまで政府からの支援はなく、公的な教育機関としても認められていなかった。

 

この状況のなかで、自民党・民進党・公明党・共産党は、公約の中にフリースクールの支援を掲げている。それだけ足並みがそろうなら、すぐに実現しそうなものである。実はこれまでも、この問題に関心を持つ議員たちが、政党の壁を超えて、フリースクールを支援する法律(多様な教育機会確保法)づくりをめざしてきた。しかし、いろいろな反対にあい、実現していない。

 

自民党の中でも保守的な議員から、自由で多様なフリースクールに政府がお墨付きを与えると、国としての統一がなくなるという批判がおきた。この保守派の声に押されて、この法律案は、フリースクールの多様性をあまり認めない方向に向かってしまった。そのため、フリースクールが、支援と引きかえに国にコントロールされるようになるのではないかと、心配の声が上がるようになった。

 

これをうけて、共産党をはじめとする革新の人たちも、「そんな法律になるならいらない」といって、法案に対する反対に回ることになり、法律はまだ成立していない。

 

このように、理念としてはどの政党もフリースクールを支援すると言いながら、具体的な法律は決まらないということが起きている。

 

フリースクールやオルタナティブスクールに関心ある人にとっては、歯がゆいことかもしれない。一つの方法として、政党ではなく、この問題に取り組んでいる候補者に投票するという手がある。今回の参議院比例代表選挙の場合、全国の候補者に投票できる。これはいいなと思うフリースクールの支援策をかかげている候補者がいる場合、応援するといいだろう。

 

 

道徳教育/政治教育

 

最後に教育の目的、どんな人間像をめざしているか、に注目してみよう。一つの対立軸は、人の多様性をどこまで大切にしているかというものである。

 

保守的な人間像がめだつのは自民党だ。念のために言うなら、個人としてみた時、自民党の中にはいろんな議員がおり保守的な人ばかりではない。しかし、教育政策については保守派の声が強いようだ。

 

自民党の特徴は、道徳教育の重視ということにある。道徳教育をとおして規範意識や社会のルール、マナーを学ぶことや、公共心や社会性を養うために、ボランティア活動や自然体験活動、長期宿泊体験学習の推進がかかげられている。グローバル人材の育成という項目にすら日本の伝統や文化の尊重という話がトップに出てくる。

 

今回の選挙ではないが、かつての首相官邸が開いた「教育改革国民会議」の議事録には、次のことが書かれている。

 

「子どもを厳しく「飼い馴らす」必要があることを国民にアピールして覚悟してもらう」

「団地、マンション等に「床の間」を作る」

「遠足でバスを使わせない、お寺で3~5時間座らせる等の「我慢の教育」をする」

「学校に畳の部屋を作る」

「簡素な宿舎で約2週間共同生活を行い肉体労働をする」

「満18歳で全ての国民に1年ないし2年間の奉仕活動を義務づける」

(平成12年7月7日(金)教育改革国民会議第1分科会(第4回)資料)

 

ここまでくると、むしろすがすがしい。でもさすがに批判を受け、最終提言書ではもっと落ち着いたものになった。でもそれが、今回の自民党の道徳教育などに関する記述ととても似ている。

 

これらの政策(?)は、子どもや若者の規範意識の低下や凶悪犯罪化が問題だと思っている人にとっては、頼もしく見えるだろう。

 

しかし、かつてに比べて、子どもや若者の規範意識が低下したとか凶悪化したという実証的な研究はない(注15)。

 

(注15)犯罪については次の本を参考のこと。岡邉健編2014『犯罪・非行の社会学―常識をとらえなおす視座』有斐閣ブックス

 

皮肉なことにデータを見ると、「今の子どもの規範意識が足りん」と言っている年配の政治家が子どもだった時の方が、凶悪犯罪をよく起こしていた。今も中高年の犯罪率は相対的に高い。規範意識が必要なのは、どちらなのか分からない。

 

社会のルールやマナーを守ることは重要だが、そればかり学校で強調されるようになると、周りに合わせることばかりが重視される恐れがある。スクールカーストやいじめの背景にあるのは、規範意識の低下ではなく、「周りに合わせられない人は許せない!」という同調圧力だからだ。保守的な教育政策のやり過ぎは、社会を守るつもりで、逆に社会の息苦しさを高めるだろう。

 

保守的な教育政策は、国を強くするというイメージもある。だが、世界的な流れを考えると微妙である。国際機関のOECDは、個人と社会を強じんにする「キー・コンピテンシー」を捉えることに取り組んできたが、その中心にあるのは「社会的に異質な人たちと交流する能力」や「自律的に生きる能力」である(注16)。

 

(注16)ドミニク・ライチェン、ローラ・サルガニク編2006『キー・コンピテンシー―国際標準の学力を目指して』明石書店

 

保守がめざす同調性や従順さは、この異質性や自律性を重視する世界の動きと大きく異なっている。若者がみんな従順になったらおじさん的には癒やされていいだろうが、いろいろ大丈夫なのだろうか?

 

さて、ここまで自民党の政策を例にあげてきたが、同調圧力は、政治的立場を問わず起こりうる。学校でも「正しいとされたことをみんなでやる」という状況では生まれやすい。だから、人と違ってもいいという多様性や、状況を批判的に捉えるスキルや、個をつぶさないことを保障することが、学校を安全にする。

 

このことに関連することとして、政治教育と人権教育についての各政党の記述を簡単に見ておく。選挙権年齢が18歳以下に引き下げられたことに伴い、学校での政治教育も認められるようになった。これも各政党で立場が異なる。

 

自民党は、規制の強化という点に特徴がある。「間違っても学校教育に政治的なイデオロギーが持ち込まれることがないよう」にするために、それを違反する先生を罰するということが書いてある(注6)。

 

公明党は政治教育については特に記述が見られない。おおさか維新の会は小中学校で「ディベート」を必修科目にするというのがそれにあたるのか。

 

一方で、民進党、共産党は、政治的中立性を重視するとしつつ、主権者としての主体形成に力点がある。

 

具体的には「現実にある課題や争点について学び、自ら考えて判断し行動する能力を身に付けるための主権者教育」(注17)とか、「『個人の尊厳』や基本的人権の重要性を学び、主権者として批判的に政治や社会の問題を考え、みずから行動してよりよい社会をつくる主権者に成長することが大切」(注18)といった記述から、めざす方向を知ることができるだろう。

 

(注17)民進党『参院選2016 国民との約束』

 

(注18)共産党「2016参議院議員選挙/各分野の政策 35、教育」

 

いずれもキー・コンピテンシーで想定されているものや、欧米のシティズンシップ教育の流れとも合っている印象である(注19)。

 

(注19)小玉重男2003『シティズンシップの教育思想』白澤社

 

また、教育における人権保障や人権教育の推進については、民進党、公明党、共産党が明記している。自民党の教育政策には人権への言及はないようだ。

 

 

おわりに

 

このように、各党の教育政策には表面上大きな違いはないものの、細かく読むと、根本的な部分でいろいろな違いが見えてくる。

 

教育に関する語りはどうしても熱くなりがちだが、そういう時はデータを踏まえながら、どういう価値基準に立った時、どういう点で社会と子ども・若者にとって「理にかなっているのか」という視点を大切にしながら考えるとよいだろう。

 

 

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