「給付型奨学金」設立、これからの奨学金制度はどうあるべきなのか?

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社会が教育を支える仕組みづくりを

 

荻上 奨学金を返済しているリスナーからです。

 

「公立中学に勤務しています。生徒を見る中で、奨学金制度は大学進学以前でも重要だと感じます。特にひとり親の世帯など、家庭ごとの教育費格差が大きいです。奨学金に限らず教育環境の整備全般に投資が必要だと思います」

 

高校進学の奨学金問題もあるんですね。

 

小林 高校生の奨学金は、旧日本育英会から日本学生支援機構に変わるとき、地方行政に委託され、今は都道府県が行っています。したがって、地域格差もあります。

 

荻上 岩重さんの所には高校の奨学金問題で相談に来られる方もいるのでしょうか。

 

岩重 はい。この問題は都道府県により制度が違うのでケースごとに対応しなければならない。やはり格差の問題はあります。

 

荻上 奨学金だけでなく教育環境全体の問題という話もありました。

 

小林 日本の場合、教育に対する国の投資が少ないのが最大の問題です。欧州では大学の授業料は無償という場合が多いですが、日本では教育は親の責任という考えが非常に強い。それで個人が無理をしてしまう。同時に、そうした認識のせいで、教育を税金で運営していくという発想も生まれにくいのです。皮肉なことですが、親が教育に投資すればするほど、税金でやる発想がなくなってしまう。

 

荻上 「親が頑張るのが当然」という認識になると、社会で教育を支える再分配の意識が薄れていってしまい、結果として各家庭の格差を増長させてしまうわけですね。岩重さん、いかがお考えですか。

 

岩重 深刻な問題ですね。高校で奨学金を申し込む際、先生や事務員が手続きを行っています。ものすごい事務手数料なわけですが、先生方は生徒のためだと思って無償でやっている。同時に、生徒を債務者として卒業させることに複雑な感情を持たれる先生方も多いです。そうした背景もあり、学校の先生方からも奨学金制度改革の必要性の声は上がっています。

 

荻上 申請作業は先生方が行っているんですね。時間外労働のような形でしょうか。

 

岩重 規定があるわけではありません。学生支援機構では「推薦は学校長を通して行う」という規定があるのみで、先生方がやる根拠はない。しかし、実際のところ全部やらされています。

 

さらに、卒業生に滞納者が多い学校を公表するという話も出ています。これは「学校側がちゃんと説明していない」という立場です。本来これは運営側の責任ですから、おかしな話だと思います。こうしたことが続くと、学校現場の縛りつけが強くなり、序列もついてしまう。奨学金を受ける生徒を選別していくことにも繋がりかねない。

 

荻上 地域の所得格差などによる学校格差が、教員の能力の責任にされる流れにつながる気がします。

 

岩重 そうした流れはあると思います。日本学生機構が奨学金の説明会を行うとき「返済を怠ったら大変だよ」という説明はありますが、救済制度の説明はほとんどありません。ホームページに説明がある程度で、学校に任せっきりです。

 

救済制度は法律家である私が3年近く勉強しても未だにわからないほど複雑なものです。この説明を学校が行わなければならないというのは非常に問題だと思います。救済制度があるのであれば、その中身をきちんと説明するのは運営側の責任です。

 

荻上 リスナーから率直な質問です。

 

「今まで給付型奨学金制度が整備されてこなかったのはなぜですか?」

 

小林 財務省がそのような考え方をしなかったのです。特に今は公財政が逼迫しています。この状況で渡し切りのような奨学金は作れない、というのが財務省の主張です。

 

荻上 しっかりとした教育を施すことは人材育成にも繋がり、長期的にはより多くの税負担者を得ることが出来るという話もあります。そうした投資的側面はあまり議論されてこなかったのでしょうか。

 

小林 日本は元来そういう国でした。明治時代から「学問は身を立てる」と言われていたように、教育は将来自分のためにも、社会のためにもなるとされてきた。それが特に公財政が逼迫していった中で、国は教育に対する予算の比率を下げていった。今ではOECDの中で教育に対する出資が最も少ないのです。

 

対してフィンランドがよく例にされますね。フィンランドは小さな国なので、「生き残っていくには教育に投資するしかない」と考えて、積極的に投資を行いました。今では学力は世界1位となり、社会全体もうまく動いている。ひとつの成功モデルです。しかし日本では、それを推進するための合意が社会全体でなされていないのです。

 

荻上 今後少子化か進む中、国民ひとりひとりの質を高めることが重要になってきます。そうした観点からも教育投資は重要になっていくと思いますが。

 

小林 それは間違いないと思います。

 

 

小林氏

小林氏

 

 

救済制度の整備と情報周知の徹底が課題

 

荻上 現行の奨学金制度について「奨学金とは名ばかりで、もはや学生ローンではないか」という意見もあります。給付型奨学金となれば、立派に奨学金と名乗れそうですが、検討チームではどのような議論をしているんでしょうか。

 

小林 1番の議論は「誰に対して」「どのような基準で」出すのかという点です。公平性に関わる非常に重要な点です。全ての人に納得してもらうのは難しいですが、ひとりでも多くの方が納得できるよう話を詰めています。

 

もう1点は支給金額と人数のバランスのとり方です。給付型奨学金はひとりひとりへの支給金額が高くなります。財源が限られる以上、その分給付できる人数は限られますから、その調整が重要です。

 

荻上 「どういった人にどの程度の金額を渡すのか」という基準を作っている。

 

小林 児童養護施設の退所者や生活保護世帯は元々奨学金の対象として想定されていました。今はそれを、さらに課税対象所得がない人たちにも広げようとしています。こうした人たちは、給付がなければ進学はほぼ不可能です。

 

今大きな議論になっているのは成績の基準です。委員の中でも意見は割れている。厳格に成績を基準にするべきと考える人もいれば、所得と学力の関連を踏まえて、そうした人たちに優先的にチャンスを与えるべきだという人もいます。この辺りをどうするのかですね。

 

荻上 リスナーからのメールでは、大学院を考慮した奨学金についても質問がきています。給付型奨学金の議論は、高校や大学院を含めた話になっているのでしょうか。

 

小林 給付型に関しては、大学院は対象になっていません。ただ、既存の制度で所得連動型奨学金制度というものがあります。無利子ですが、将来の所得によって返済額が決まります。課税所得がゼロの場合は毎月2000円だけ返済し、所得が上がると、それに伴い返済額が上がっていく。所得の低い20代の返済額が少くなるので、返済の負担は小さくて済みます。こちらは大学院生も対象なので、こうしたものを利用できると思います。

 

荻上 岩重さんはこの制度に関してはどのようにお考えですか。

 

岩重 率直に申し上げて、現場としては所得連動返還制度はほとんど役に立ちません。所得連動制では非課税の人も2000円払わなければなりません。これは「多少なりとも支払いをしていないと返済の自覚が出来ない」ことからだそうですが、自覚させるための方法は他にもあるはずですし、そもそも収入がゼロの人に2000円払えというのは無理な話です。

 

現場からすれば、返済猶予制度にしろ所得連動制度にしろ、状況の改善には繋がっていない。制度に期待した側としては失望してしまう。むしろ「所得によって返還金額を設定したのだから、返せて当然だろう」という、返済できない人への請求や対応がより厳しくなるのではないかと懸念しています。

 

荻上 制度設計の時点で、猶予が権利であることをしっかり明記する必要があると。

 

岩重 そうです。所得連動制度が意味をなすためには、既存の救済制度をしっかり機能するように改善する必要があります。

 

荻上 給付型奨学金検討チームで、救済の話は取り上げられているのでしょうか。

 

小林 取り上げられ、徐々にですが実際に改善もされています。返済猶予も以前は5年でしたが、10年になりましたし、延滞のペナルティーも10%と高額なものから、5%に下げられました。少しずつは変わってきている。しかし財源上の問題でできないこともある。なかなか進まないのが現状です。

 

荻上 なるほど。岩重さんは今後の奨学金制度改革がどのように進んで欲しいと思っていますか。

 

岩重 まずは柔軟な返還体制を整備することです。困っている人がしっかり救済されるように、制度を変えていかなければなりません。ある一定期間返済が出来なかったら、免除することも検討すべきでしょう。でなければ死ぬまで返済を続けることになってしまいます。現場の実情にあわせた制度設計が第一に必要です。

 

荻上 小林さんは今後の制度に関してどうお考えですか。

 

小林 制度が複雑化したことで、情報を持っている人と、そうでない人で格差が出てきます。文部科学省でも予算つけて、情報の周知を徹底するようにしていますが、実際問題としては難しい。例えばホームページも見る人と見ない人がいます。そして多くの場合、問題が起こるのは見ない人たちです。

 

情報が蔓延する中で、間違った情報をつかんでしまう人もいる。正しい情報を如何に周知していくのか。その辺が難しいところです。

 

荻上 既存の制度の周知も含めて責任を持ち、奨学金の問題に取り組んでいきたいですね。小林さん、岩重さん、ありがとうございました。

 

 

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