「日本の子どもは知識があるが、応用力がない」というのは本当なのか?

3.日本のPISAの成績は低いのか

 

それでは、日本の子どもたちのPISAの成績は他国と比べて劣るのでしょうか。表1は、これまでのPISAの日本の成績と、参加国中における順位を示したものです。

 

なお、PISAの得点には推定に伴う誤差が生じるため、順位は2~5位のように幅をつけて示しています。こうした誤差を省略する報道を見かけることがありますが、適切な情報の提示の仕方とは言えません。また、網掛け部分は、主たる調査領域になった時の成績です。得点は最初に主たる調査領域となった時のOECD加盟国の平均点を500として調整されています。

 

 

表1からわかるように、PISAの日本の成績は、決して低くありません。むしろ好成績と言ってよいくらいです。PISA2003やPISA2006の読解リテラシーの低下は、学力低下として大いに騒がれましたが、このときの読解リテラシーは主たる調査領域ではなかったこと、得点の推定に問題があった可能性が指摘されている(注10)ことを考慮すれば、そこまで気にする必要はないと考えます。

 

 

4.まずは現状を把握するために

 

PISAを見る限りは、日本の子どもたちの成績は決して低くありません。むしろ問題は、PISAから情報を十分に引き出せず、おかしな教育政策を実行する教育行政や、そのおかしさを批判的に検討できないメディアの側にあります。その典型的な例が、全国学力・学習状況調査です。

 

国立教育政策研究所の全国学力・学習状況調査の情報をまとめたサイト(注11)を見て不思議に思うのは、正答例の解説や授業アイディア例が豊富に掲載されている一方で、もっとも肝心な「テスト全体として、どのような能力を測るのか」に関する説明がないという点です。

 

このサイトには、教育測定や社会調査に基づいた、テストの質や調査設計に関する統計的な分析もほとんど掲載されていません。A問題は知識を問い、B問題は活用する力を問うと言いつつ、その裏付けがないのです。データも公開されていないので、第三者がテストの質を論じることもできません。

 

毎回数百ページに及ぶTechnical Reportが作成され、データも公開されるPISAと比べると、両者の差は明らかです(注12)。全体として何を測っているのかよくわからず、質も定かではない学力調査の結果をもとに、毎年メディアが都道府県の平均点を強調するのですから、学校や教育委員会が混乱するのも無理はありません。

 

以上を踏まえて、「『日本の子どもたちは知識があるが、応用力がない』というのは本当なのか」という問いに対する答えをまとめてみましょう。こうした問いは、30年以上議論されてきたテーマではありますが、使われている言葉が曖昧すぎて、根拠を見いだすことは困難です。PISAや全国学力・学習状況調査が引き合いに出されることもありますが、前者から日本の子どもの成績が低いとは言いがたいですし、後者はそもそも何を測っているのかよくわかりません。

 

むしろ、PISAや全国学力・学習状況調査を検討する中で見えてくるのは、問題があるのは日本の子どもではなく、いい加減に教育を論じる大人たちの方ではないかということです。闇雲に教育を変えようとするのではなく、まずは、PISAで利用されているような、日本の現状を把握するために必要となる、教育測定や社会調査を学ぶことから始めるべきだと思います。

 

(1)小針誠,2018,『アクティブラーニング』講談社現代新書,pp.177-179。

(2)たとえば、http://www.sankei.com/life/news/170828/lif1708280036-n1.html

(3)Reading Literacyは「読解力」と訳されるのですが、日本語の「読解力」と混同してしまう方が多いと感じます。そこで他の調査領域と揃えて、読解リテラシーと訳しています。

(4)国立教育政策研究所編,2017,『生きるための知識と技能6』明石書店,p.39。

(5)リンク先はpdfです。http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2015/04_example.pdf

(6)リンク先はpdfです。http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/pisa2012_examples.pdf

(7)https://berd.benesse.jp/berd/center/open/berd/backnumber/2006_06/fea_arimoto_01.html

(8)項目反応理論については、たとえば光永悠彦,2017,『テストは何を測るのか-項目反応理論の考え方-』ナカニシヤ出版を参照してください。

(9)https://www.oecd.org/pisa/data/ PISAのTechnical Reportもここからダウンロードできます。

(10)http://www.edmeasurement.com.au/_publications/margaret/Issues_in_large_scale_assessments.pdf

(11)http://www.nier.go.jp/kaihatsu/zenkokugakuryoku.html

(12)この点については、川口俊明,2017,「学力調査をとおした「統制」を論じるだけでなく」『教育』No.862,pp.36-45も参照してください。

 

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