どのように「ブラック校則」をなくせるか――ジャーナリズム×アカデミズムの可能性

データから示せること:毎年1万人が校則で不登校に

 

荻上 文科省の調査の中にいいものもあって、「不登校に関する実態調査」(2014年)です。この調査では、2006年に中学校3年生で不登校だった人を対象に追跡調査を行い、不登校になった理由などを調査しています。

 

内田 ええ、あれは優れた調査です。社会学者の森田洋司先生が専門家として調査設計に参加するなど、子ども目線で問題を明らかにしようという意図が盛り込まれています。

 

荻上 たとえば、不登校の原因を教師の側に聞くと、多くの調査では「個人的な理由」「家庭の理由」が挙げられます。しかし、上記の調査をみると、子どもの側からは2人に1人が、友達関係やいじめを理由に挙げているのです(複数回答)。こういった実態が明らかにされるのは貴重です。

 

今回の『ブラック校則』に関した項目を一つ取り上げると、不登校の原因として、「学校のきまりなどの問題(学校の校則が厳しいなど)」という回答が1割あります。ざっくりいうと、現在毎年10-12万人が不登校になっていますから、計算上、毎年1万人近くの子どもが、校則や学校のおかしな慣習のせいで排除されている、ということがわかります。

 

内田 毎年1万人が不登校、と数字で明示されると、説得力があります。子ども一人ひとりが校則に苦しむ状況を、「毎年1万人が苦しんでいる」という、社会全体の苦しみの問題として提示できる意義は大きい。

 

荻上 「校則が嫌なら学校を辞めろ」と無責任に主張する声もありますが、「毎年1万人が辞めている。そのうえでそんな軽率な主張ができるのか」という反論ができますよね。優れた既存の調査を用いることで、エビデンスに基づいた提言ができるのです。

 

 

大半が事前に校則の中身を周知していない

 

内田 「校則が嫌なら学校をやめろ」という声は、この問題を取り上げると必ず上がりますよね。

 

荻上 一つ問えるのが「だったら、事前にどういう校則か伝えていたのか」ということです。これも既存の調査から説明できます。

 

国立教育政策研究所が公立高校を対象に行った調査によると、6割の学校が入学段階で生徒や保護者に校則の内容を周知していません。「周知した」という学校の内訳も、生徒に文章で周知したのが2.2%。保護者に文章で周知したのが1.5%。保護者・生徒に文章で周知したのが15.8%。その他が17.3%。

 

「文書で周知」といっても、生徒手帳に書いてあるとか、プリントなどにまとめてあるものを配った、といったものです。全体に対して意識的に説明を行った学校となると、もっと比率は下がるでしょう。つまり、半分以上の学校が入学前に校則の内容を説明しておらず、入ってからもきちんと説明しているとは限らない

 

内田 校則がきちんと開示されないまま入学し、それに従うよう一方的に言われ、「嫌ならやめろ」といわれる。理不尽といわざるを得ませんね。

 

荻上 また、『ブラック校則』の教員の立場からの論稿にまとめられていますが、明文化された校則とは別に、教員の側だけで共有する指導基準も存在します。

 

例えば、靴下は白でワンポイントの柄まではOKだとする校則があったとして、教員の中で「日の丸はいいけど、アメリカ国旗は複雑だからNGにします」「○cmまではOK、それ以上はNGにします」といった、取り締まりのための基準です。これらは保護者や生徒に知らされません。子どもや保護者の側はよくわからないまま、都度指導される状態が続いているのです。

 

さらにいうと、オープンスクールでは「うちは寛容な学校ですよ」と言っておきながら、実際に入学したら理不尽に厳しい校則や指導が行われる学校も。

 

ここまで説明した通り、「生徒本人が校則に納得してその学校に入学したのか」という点が全く問題にされていないのです。校則の内実を示さないまま、入学したら一方的にルールを押し付け、髪型や服装などを制限する。そして、「校則が嫌ならやめろ」という、やめるかどうかだけを自己決定させている。本来、子どもの自己決定権を尊重しつつ、子どもたちの学校生活を、大人たちが適切な仕方でサポートするのが重要なはずです。

 

既存のデータからでも、こういった不条理がこれだけ明らかになるのです。そこから主張できることも多いはずです。

 

内田 荻上さんがおっしゃったように、子ども目線の調査をもっと国に行ってほしいと思います。しかし、文科省が行う調査は多くの場合、教師や管理職が回答対象とされています。

 

それに対して、子どもや保護者といった当事者の目線を大事にした、今回の「ブラック校則をなくそう! プロジェクト」の調査結果は衝撃的なものですし、その発表を通して世間に与えた影響は大きいと思います。

 

しかし、そこで終わってはならず、継続的な調査や主張が、変革のためには必要です。というのも、当事者に焦点をあてた調査がまだ少なく、現状を把握するためのデータが十分に出そろっているとはいえないからです。

 

 

調査開始から3か月で記者会見できた理由

 

内田 「ブラック校則をなくそう!プロジェクト」は12月の発足、翌3月には調査結果をまとめて公表するという、驚くべきスピード感でした。もともとは、クラウドファンディングで調査費用を募る予定だったとか。

 

荻上 初めはそのように考えていたのですが、縁があって村上財団にプロジェクトの理念に共感頂き、助力を得ることができました。おかげで、4タイプの調査を行うことができ、しっかりしたデータの収集と成果につながりました。スピードの速さについては、費用をすぐに動かすことができたという点も大きいです。大学の場合、科研費などの申請で時間がかかるのではないかと思いますが……。

 

内田 おっしゃる通り! 大学ベースで調査をしようとすると、科研費を申請し、採択して支払われるのは1年後です。しかも、調べて発表しても、発表をする場は年に一度の学会、または年に数度の専門誌、といった形で、全般にサイクルがゆっくりしているのです。そうなると、研究成果を世に還元するタイミングも見失い、せっかくの知見が研究者内での共有のみになってしまうこともあります。

 

それを考えると、今回のように会見で注目を集めて、広く知らしめ、盛り上がっているタイミングで成果を発表できる迅速さは本当に素晴らしいと思いました。正直、大学の今の仕組みでは難しい。

 

荻上 逆に言うと、アカデミズムは科研費のチェックや調査設計まで時間をかけてしっかりやっており、手続きや内容の質が担保されています。また、査読など内容面の精査も厳格です。その結果、高い研究水準が維持できるわけですから、一長一短だと思います。

 

逆にジャーナリズムが調査報道を短期的に行う場合、内容面で心もとなく感じられる場合があります。費用も手間もかけてそれだけの調査をするなら、もう少し設計をうまくやってほしい、と思うこともある。だから、ジャーナリズムのスピード感と、アカデミズムのクオリティをミックスできると理想的ですよね。

 

 

応答ジャーナリズム×応答アカデミズムの可能性

 

荻上 実はこのことが、私が以前関わっていたシノドスの理念のひとつです。シノドスはジャーナリズム×アカデミズムとなるメディアであることを心がけています。こういう事件が起こった、こんな状況が存在する、という第一報や情報を伝えることを目的とするファストニュースに対して、追跡的に情報を追ったり、問題を包括的にとらえたりするようなスローニュースの役割を担うということですね。

 

たとえば、一時期中東情勢に注目が集まりましたが、現在はメディアの目が向けられているとは言いにくい状況です。それに対して、「今、中東はどうなっているのか」という問題提起を、丁寧な調査のもと行う。あるいは、アカデミズムが蓄積してきた知見をもとに、現在起こっている事件や事象を読み解く、といったものです。かつては、月刊誌がこの役割を担っていたのですが。

 

内田 なるほど。私の場合も、何か学校事故が起こってしまったとき、新聞やテレビの記者のように、第一報となる情報を取る取材はできません。

 

他方で、事件の要因や社会的背景などをもとに分析して深めることは、第一報を取ってくるメディアには難しい場合が多いと思っています。だから、事件が起こってしまったら、統計データや過去の動き、法令などを入手して、それらをまとめた分析を出すようにしています。

 

荻上 第一報のニュースに対して追跡的に調査し、ファクトチェックを行っているBuzzFeedのようなメディアもありますが、それに加えて、専門家に積極的に入ってもらい、「調査してみたらこうだった」ということを示せるメディアが必要だと思っています。私はこれを応答ジャーナリズムと呼んでいます。

 

「こういった出来事がありました」ということをニュースとして示すのではなく、世の中の疑問に対して、きっちり分析・調査をしたうえで応答する。こういったジャーナリズムが成立するためには、アカデミズムが持っている知見が必要ですし、積極的な協力が必要でしょう。

 

内田 その意味で研究者の側からすると、応答アカデミズムもありえます。私がウェブ上で行っている情報発信は、応答アカデミズムといえるかもしれませんね。

 

荻上 そう思います。自然科学であれば、科学の内実を市民に伝えたり、啓蒙を行うサイエンスコミュニケーターという役割が存在しています。社会科学においても、適切な仕方で、専門性を発揮して社会に問題を提起したり、解説できるようなアカデミシャンがもっと必要です。専門性を評価されてではなく、「若手だから」といった理由でテレビに出て、その学問への誤解を広げるような人もいますが(笑)。

 

内田 (笑)。今おっしゃった応答ジャーナリズムと応答アカデミズム、重なる面が多いように思います。そう考えると、今回のプロジェクトや本で、私たちが共同で取り組めたのは本当に良かったと思います。今後の発信のモデルケースにもなりますよね。

 

荻上 今回協力してできたような調査がほかにも続いて、蓄積されるようになることが望ましいですね。そして、ジャーナリズムとアカデミズムが、どんどん協力できるようになるといい。それは、協力体制を整備し整える、ということでは必ずしもなく、ある問題に対して、ジャーナリズムもアカデミズムも応答できるようになる。それが、ゆるくミックスされ、それぞれ発言したり、協力してプロジェクトで調査・発信できるようにしたいと思っています。

 

ブラック校則 理不尽な苦しみの現実

ブラック校則 理不尽な苦しみの現実書籍

作者荻上 チキ, 内田 良

クリエーター荻上 チキ, 内田 良

発行東洋館出版社

発売日2018年8月4日

カテゴリー単行本

ページ数264

ISBN4491035571

Supported by amazon Product Advertising API

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

シノドスをサポートしてくれませんか?

 

●シノドスはみなさまのサポートを必要としています。ぜひファンクラブ「SYNODOS SOCIAL」へのご参加をご検討ください。

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

 

●シノドスがお届けする電子メールマガジン「αシノドス」

⇒ https://synodos.jp/a-synodos

 

●少人数制セミナー&Facebookグループ交流「シノドス・サークル」

⇒ https://synodos.jp/article/20937

 

 

 

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.254 公共性と社会

1.長谷川陽子「知の巨人たち――ハンナ・アーレント」
2.岸本聡子「公共サービスを取り戻す」
3.斉藤賢爾「ブロックチェーンってなあに?」
4.山岸倫子「貪欲なまでに豊かさを追いかける」