学校へは行かなくてもよいのか?――不登校をめぐる諸問題

不登校と発達障害

 

不登校となっている児童生徒の中には、発達的な偏りを持った子どももいます。不登校と発達障害の関係について、鈴木ら(2017)は、子どもの発達診療センターを訪れた80名の児童生徒にうち、57%に発達障害の特性が見られたことを明らかにしています。さらに、そのうち87%が、不登校になって初めて発達障害と診断を受けたということです。

 

もちろん、発達的な偏りが直接不登校の原因となることはありません。そうだとすれば、発達障害のある児童生徒はすべて不登校にならないといけないからです。しかし、その特性のため、周囲から誤解を受けてしまう、あるいは周囲を誤解してしまい学校へ行けない、さらには学校のルールに従えないことが、不登校の要因になる場合が多いと思います。

 

ADHD(Attention-Deficit / Hyperactivity Disorder:注意欠如多動症)の児童生徒は、その特性から叱責や指導を受けることが多くなってしまい、学校へ行く意欲がそがれてしまうケースが多いでしょう。あるいは、友人とのトラブルも多くなってしまう可能性もあります。ASD(Autism Spectrum Disorder:自閉スペクトラム症)の児童生徒はいわゆる「空気を読む」ことができず、他児とのコミュニケーションがうまく取れず、人間関係の中でパニックになってしまうこともあるでしょう。このようなことで学校への行きづらさが生じるのではないかと思います。

 

鈴木ら(2017)の研究でもっとも興味深いのは、1年後の不登校の割合が発達障害のない児童生徒は42%であったのに対し、発達障害と診断された児童生徒では17%であり、とくに特別支援学級へ転籍した児童生徒では1例もないことです。発達障害の診断がつくことで、周囲の理解が深まり、その児童生徒に合った支援を行えるようになったことが要因と考えられます。このように、発達障害があれば、不登校となってしまうリスクは高くなると考えられます。しかし、その発達特性を周囲が理解したうえで本人に適した環境を準備することで、問題を抱えて不登校となってしまうことの多くは防げる可能性があります。

 

 

不登校への支援(環境整備)

 

そもそも学校は学ぶための場所や手段であり、行くことが目的ではないはずなのです。しかし、ここで文科省があえて学校に行くことのみを目標としないと示したことは、国民の多くが学校は行かなければならないところと認識していることを修正しようとしているのだと考えられます。学校に行かないこと自体が大きな問題であり、いわゆるダメなこととの誤解を解くためでしょう。

 

今回の方向転換で不登校支援において学校に行くことのみを目標にしないと掲げることで、学校に行かないことを選択しても問題ないという考えが広まると思われます。しかし、これは、不登校を推奨したり、積極的に不登校を促すことではもちろんありません。

 

学校に行かなくて何を行うのでしょうか。鋭気を養う。学校に行きたくなるまで待つ。ゲームをする。これらもひとつの方法でしょう。これらの他にも、学校に行かないならば、学校にいては経験できないような機会を設けることができればとても重要な経験になると思います。つまり、学校に行かなくても良いんだよということよりも、学校の他にもこんなに学べるところがあるんだよと示せることが必要なのだと思います。

 

ただし、先ほど挙げたように、学校は多様なことを学べるカリキュラムを有しており、現在の日本において同様の機能をもった他機関はないと言ってもよいでしょう。学校と同程度さまざまなことを学べるか、あるいは学校とは異なって専門的なこと学べるような「学ぶ場」を整備することが先にあるべきだと考えます。

 

例えばフリースクールなどの不登校児童生徒を支援する民間施設は、平成27年の調査では全国に474箇所です。13万人程度不登校児童生徒がいるにもかかわらず、500箇所にも至っていません。また、小規模のものが多く、41%の施設で在籍者数は1~5名でした。個別性を考えると小規模のものも必要だと思われます。文科省の統計によれば、不登校生徒のうち不登校中にフリースクールなどの民間施設を利用した生徒は8.8%でした。これらを利用している児童生徒はまだまだ少数です。自治体で不登校児童生徒の支援を行っている適応指導教室(教育支援センター)も平成28年に1388箇所のみです。

 

今後は教育支援センターがフリースクールなどと学校との連携の整備を担い、学ぶ場を広げることが期待されています。また、現代はinformation technology(IT)を利用し、家庭内でも授業が受けられるようにもなっています。このように多様な支援方法を構築し、整備することで、学校内外での児童生徒の学びを保障していくことが重要であると考えます。文科省では、「不登校児童生徒による学校以外の場での学習等に対する支援の充実について」と通知し、学校以外の学びの場を広げる支援を展開していますが、まだまだ不十分な状態です。

 

 

不登校への支援(学校環境)

 

不登校について川島ら(2016)は、「多くの教育委員会は不登校対策の決め手がないため、最終的にカウンセラーや医師に行くことが大切だという落ちになることが多い」と指摘しています。確かに不登校に関しては個別対応が不可欠であるため、カウンセラーが個人的な対応を行うことは大切だと思います。また、病気が不登校の大きな要因となっていることも考えられるため、医師の診断を受けることは重要だと思います。

 

しかし、不登校となる児童生徒の中には自らの悩みや困ったことを、他者に伝えることが苦手な子どもが多くみられます。自ら学校に行かないことを選択している児童生徒でないならば、カウンセラーや医師のように、不登校となった児童生徒を支援するよりも、不登校になる前に積極的に、適切に児童生徒と関わり、児童生徒が安心できる場を提供することが大切だと思います。

 

小林(2010)は教師の意識と長期欠席との関連を示し、不登校の少ない学校作りをするために6つの「受容、配慮」が重要であることを示しています。とくに重要視しているのは、学校全体でかかわることです。学校全体、教師間の人間関係を大切にし、いざとなれば助け合う雰囲気が重要であると述べられています。

 

 

不登校への支援(個別)

 

かつて私は、精神科の思春期外来でカウンセリングを実施していました。来院される多くの子どもは不登校でした。保護者の方と話していると、毎回必ず出てくることばは「何で不登校になったのか」「私(保護者)の育て方が悪かったからか」といった質問を受けました。子どもはこの「何で」といったことに悩まされます。しかし、ことばにしにくい場合があります。あるいは自覚できていない場合もあります。

 

私は「何で」よりも「どうやったら」学校に行けるかを考えることが重要であることや、決して「育て方」の問題ではないことを家族にお伝えし、家族の不登校への理解と協力が本人の状態が良くなるためには不可欠であることをお伝えしています。本人たちとのかかわり方は、「何で」学校へ行かないのか原因探しをするのではなく、学校の担任の先生はどんな人か。校舎は古いのか、学友はどんな子がいるのか、給食はおいしいのか、学校外で友達と遊ぶことはあるのか、部活はしているのかなどなど多岐にわたり話を聞きます。

 

例えば、私が経験した事例について以下のようなことがありました。中学生の男子生徒が学校のランチの席で教員の近くに座ることになり、その時の教員の食べ方に嫌悪感を抱き、1週間学校を休んでいました。私は、男子生徒の嫌悪感について理解を示し、ランチの席を変えてもらうよう提案しました。男子生徒は、それは学校のルールとして行えない、と言っていましたが、私から保護者の方に伝え、保護者の方が学校に連絡することで、翌日から学校へ行けるようになりました。

 

これは、たまたま学校のスクールランチについて私が興味を持って生徒に話を聞いた際に偶然聞けた内容でした。児童生徒の中には、このようにルールだから変えられない、といった勝手な思い込みで苦しんでいる場合もあります。同様の例で部活は好きだけど、クラスでの人間関係に悩み学校へ行けなくなった女子生徒は、まず部活に行くことから始めました。女子生徒は、それはダメでしょ、と答えました。そうなると、じゃあ聞いてみよう、となり、保護者の方に連絡してもらいます。もちろん学校に断られませんでした。学校からの“お墨付き”をもらい、翌日から部活には行けるようになりました。その後、数ヶ月を経て教室にも登校できるようになりました。

 

児童生徒とのカウンセリングで絶対に欠かさないのは児童生徒の趣味(好きなこと)の話です。私の分からないことだと必死になって児童生徒に教えてもらっています。例えば、中学3年から不登校となり、その後未就学、未就業、ひきこもりの青年とのカウンセリングは大好きなロボットアニメの話が大部分でした。それに関するイベントがあることを知り、イベントに参加するためのお金を得るためにアルバイトを一緒に探し、その方は働き始めました。

 

不登校児童生徒への個別支援の仕方として行動論的なアプローチによる改善例が多く研究されています(奥田,2005、青戸&松原,2006など)。私も、行動論的なアプローチをベースに児童生徒への支援を行っています。

 

 

学校へは行かなくてもよいのか?

 

いつ頃からでしょうか、学校へ行かなくてもいいと呼びかける声がメディアから広がったと感じています。確かに、学校へ行けない、あるいは行ってはいけない状況はあると筆者も認めます。例えば、いじめ、体罰などがある場合は学校へ行ってはいけません。学校がいじめ、体罰のない環境を準備してから学校に行く準備を始めることが重要です。

 

しかし、学校は多くのことを学べる場で、本邦において、学校以上にさまざまなことを学ぶことは現在のところ非常に困難であると考えられます。不登校その後のデータを見ても、個別の事情を精査しない中、学校へ行かなくてもよいというのは無責任な発言であると私は考えます。児童生徒がサポートを受けることで学校へ行けるなら、学校へは行ったほうがよいでしょう。

 

不登校は複雑な問題です。一人ひとり状況が異なります。だからこそ個別のケースを丁寧にアセスメントを行ったうえで不登校児童生徒の支援を実施することが大切です。現在はスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなど、学校には教師だけでなく児童生徒をサポートする専門職が増えています。また、公認心理師の資格もできたため、ますます児童生徒への心理的なサポートは充実していくことを期待しています。小林(2010)が示すよう教師だけではなく、このような専門職も含め、学校や地域、家族が協力し児童生徒を支えることで、不登校の児童生徒は必ず減らすことができると考えます。

 

 

【参考文献】

・青戸泰子・松原達哉(2006)自己プランニング・プログラムにおける「課題の設定と実行」の効果‐無気力から不登校に陥った中学生への援助事例‐,カウンセリング研究,39,346-356.

・小林正幸(2010)不登校の少ない学校‐学校ぐるみの不登校対策の在り方,児童心理,2011年6月号,臨時増刊No933,60-66.

・文部科学省(2016)不登校児童生徒への支援の在り方について(通知),http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1375981.htm.

・文部科学省(2016)不登校に関する実態調査‐平成18年度不登校生徒に関する追跡調査報告書,http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2014/08/04/1349956_02.pdf.

・文部科学省(2017) 不登校児童生徒による学校以外の場での学習等に対する支援の充実について(通知),http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/107/houkoku/attach/1388331.htm.

・文部科学省(2018)平成28年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(確定値)について,http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/30/02/__icsFiles/afieldfile/2018/02/23/1401595_002_1.pdf.

・奥田健次(2005)不登校を示した高機能広汎性発達障害児への登校支援のための行動コンサルテーションの効果‐トークン・エコノミー法と強化基準変更法を使った登校支援プログラム,行動分析学研究,20,1,2-12.

・鈴木菜生・岡山亜貴恵・大日向 純子・佐々木 彰・松本直也・黒田真実・荒木章子・高橋 悟・東 寛(2017)不登校と発達障害: 不登校児の背景と転帰に関する検討,脳と発達,49,4, 255-259.

 

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