世界から無視される日本

こんにちは、畠山です。今回は国際教育協力と日本について話をしようと思います。国際教育協力分野の論文も掲載してくれる学術誌にはいくつか媒体がありますが、International Journal of Educational Development(IJED)は名称そのままに、全編国際教育開発を扱う稀有な学術誌です。そのIJEDの2019年1月号に、国際教育協力におけるアクターを分析した大変興味深い特集があったので、それをご紹介します。

 

 

どういった国が教育援助を受け取っているのか?

 

まずは国際教育協力における二国間援助の結びつきを分析した論文からご紹介しようと思います。この論文は、まずどういった特徴を持つ途上国に教育支援が集まっているのか重回帰で分析しています。指標の選択やモデルにかなりツッコミの余地があるので、結果をきっちり受け取るよりは、ざっくりとこういった傾向があるぐらいに取っておくとよいと思います。

 

 

 

 

上の表がその回帰分析の結果です。回帰分析の結果を見ることに慣れていない人のためにざっくり言うと、数値が大きい要因ほど教育援助を集める効果が大きくて、逆にマイナスが大きいものは教育援助を遠ざける効果を持ちます。星が付いていないものは数値の多寡にかかわらず恐らく教育援助を集める効果も遠ざける効果もない一方で、星が付いているものは数値が示すように実際に教育援助を集めたり遠ざけたりする効果を持つ、といった感じです。

 

まず意外だなと思ったのが、近年トランプ政権が米国を支持しない国に支援を出さないと言っているので、国連での票集めがそれほど教育支援と結びつきがないという点です。教育セクターへの支援ではなく、インフラセクターへの支援なんかだとより強い結びつきが見られるのかもしれませんね。

 

次に、先進国と途上国の経済的な結びつきです。ODAを実施する一つの理由として、将来の貿易相手を作るというのがありますが、それを裏付けるような結果になっています。先進国から見て、輸入額は教育支援とはあまり関係がないようですが、輸出額はどのモデルでも相関関係が見られます。つまり、自国に物を輸出してくれる人たちへの教育支援という視点は希薄である一方で、教育支援を通じて自分たちの国の製品を買ってくれる人たちを育成している、と考えると分かりやすいかと思います。

 

もう一つ、相関関係が存在しているのは旧宗主国・植民地の関係です。やはり援助をする側としては旧植民地の教育支援をしたいという思惑があるようです。たしかに、先進国にとっては、旧植民地の教育システム・言語はほぼほぼ自国と同じものなので、そうでない途上国と比べて支援がしやすいというのもあると思います。

 

しかし、フランスなんかは明確にフランス語教育&文化を広めて定着させるという野望のもと、旧植民地に集中的に教育支援をしているので、フォーマルには植民地はほぼほぼ消滅したものの、インフォーマルなかたちで植民地主義はまだまだ残っているんだな、というのは国際機関で働いたことがある人なら良く分かる話だと思います。

 

 

誰が教育援助をしているのか?

 

 

 

次に、先進国がどれぐらい教育支援を特定の国に集中させているのかについてです。上の図は横軸が教育支援の総額、縦軸が教育支援のバラツキ具合を示しています。日本と米国を比べると、米国の方が日本よりも少し教育支援にお金を使っていますが(横軸)、日本の方が米国よりも教育支援のばらつきが大きく、幅広い国をカバーしている(縦軸)、といった具合です。ちなみに、右上で被っているのはフランスとドイツです。

 

国際教育協力というと、図が示すように、ドイツ・フランス・イギリス・米国・日本が5大国になります。その中で英国と米国は特定の国に教育支援を集中させてしまっているのが読み取れます。それもそのはずで、米国の教育支援の14%はアフガニスタンに向かっているように、これらの国々は、自分たちが土足で踏み込んで行った国々に実施する多額の復興支援の一環として教育支援をしているからです。この二カ国は大学院で数多くの国際教育協力の専門家を生み出しているので、もうちょっと自国の利害が関係ない国でも教育支援をするように猛省を促したいところです。

 

この二カ国と対照的なのが日・独・仏です。これらの国々は途上国の教育支援に多くのお金を使っていますし、幅広い国々の支援をしています。ここで先ほどの植民地の議論を思い出すと、フランスが幅広い国々を支援しているというのに疑問を抱くのではないでしょうか?

 

データの大元であるOECDのデータベースを見てみたのですが、恐らくこれはフランス→ユネスコ→途上国というグラントが含まれている感じがします。ユネスコの本部がフランスのパリにあって現在のトップがフランスの政治家であるように、ユネスコとフランスは強い結びつきがあります。ユネスコは途上国の現場では存在感が皆無に等しい機関ですが、UISやIIEPを通じて薄く広い国と関係があるので、それが反映されたものではないかなと思いました。

 

日本を見ると、ドイツには劣りますが、それなりに途上国の教育支援にお金を出しているし、しかも幅広い国々を支援していることが分かります。初等教育がズダボロなのに中等教育の支援をしてしまったり、学びの共同体の基礎となる教員の専門職性や協働性がない途上国に、これに基づいたプロジェクトを輸出しちゃったり、ちょっとお茶目な所もありますが、途上国の教育支援における日本の立ち位置は、私のように日本国内どころか日本の機関で働いたことがない部外者から見ても、この図が示すようにしっかりと幅広くやっている印象があります。

 

しかし、ドイツと日本がツートップというのは、「戦後は続くよどこまでも」を想起させますね、まあ実際その通りなのですが。

 

 

どの機関が国際教育協力の流れを決定づけているのか?

 

次に紹介する論文は、国際教育協力の中で影響力の強いアクターを分析しています。影響力の強さの定義は色々できると思いますが、この論文は、ユネスコが毎年出版している国際教育協力分野の旗艦誌とも言えるGlobal Education Monitoring Report(GEM)で引用されている研究の著者・機関を分析しています。

 

 

 

 

上の図は、GEMでよく引用されている著者の間のネットワーク分析です。当然と言えば当然ですが、GEMレポートでは、よく過去のGEMレポートが引用されています。ただこれには危ない側面もあって、この間もUNDPが出版している人間開発報告書で、貧困者に占める女性の割合に関する数値が、過去の過去の過去の過去の…人間開発報告書の値を引いたものである一方で、初出時のデータが見つからないという背筋が凍る話があったので、データ系に関しては過去の報告書を引くのではなく、その都度きちんと検証した方が良さそうです。

 

やはり目を引くのは世界銀行です。レポートでもよく引用もされるし、影響力のある著者とのネットワークも太く、大きな存在感があります。ユネスコは現場での存在感がないにも拘らず、そこそこ感なのはどうなんでしょうか? ユニセフは、その二つの機関と違って職員の9割が現場にいるのに顔を出してくるのは興味深かったです。

 

あと、途上国の教育を扱っているレポートなのにILOやOECDが出てくるのは意外に思うかもしれませんが、低所得国から中所得国、中所得国から高所得国へと移行する国々が数多く見られること、近年のスキル分野への注目の高まり(教育分野と言えども労働経済学的なアプローチが必要になる)、を考えるとよく分かる位置付けだと思います。

 

あとは二国間で、イギリスが中心で大きくいるのが目を引きます。大分偏った教育援助をしつつ、国際学力調査でもつねに平均レベルに沈む国がこんなにも存在感がある一方で、そんなイギリスよりも多くの金額を途上国への教育支援へ当て、しかもそれが特定の国に偏っておらず、そして国際学力調査でもつねにトップクラスの日本はまったく存在感がない、というのがこの業界の状況です。

 

たしかに国際協力は植民地経営の延長線上にある学問なので、植民地を数多く持ったイギリスが強いのは分かるのですが、これに教育という軸が入った時にここまでイギリスの影響力ある一方で日本の影響力がないのは、私は決して良いことだとは思いません。【次ページにつづく】

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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