世界から無視される日本

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世界から無視される日本

 

 

 

次に、GEMによく引用されている著者のリストです。詳細はぜひ当該論文を読んでいただきたいのですが、その論文によると、GEMで10回以上引用されている影響力のある研究者の最終学歴はかなり偏りがあって、スタンフォード・ハーバード・サセックス・オックスフォード・MITで約半分を占めます。サルタックの理事陣を見ても、山田がサセックス卒で、代表の荒木がオックスフォードに在籍しているので、ミシガン州立大学に在籍する畠山とか言う異端を取り除けば、国際教育協力で影響力のある大学がどこなのかとてもよく理解できる現象です。

 

一つ気になるのが影響力のある研究者の学問分野的背景です。国際教育協力の旗艦レポートなので教育学者が多いのかなと思いきや、影響力のある研究者の過半数以上が経済学出身という結果になっていました。

 

たしかにリストの上の方から見ても教育経済学でもっとも著名な研究者であるハヌシェク・ヴォスマンのコンビ(この二人はよく共著を書いています)をはじめ、RCTを世界各地で沢山やっているJ-PALの研究者群、世銀の教育エコノミストなどが並んでおり、経済学こそが国際教育協力の潮流を決定づけている学問であり、国際比較教育学や教育学の影響力はかなり限られていることが読み取れます。これもあまり良いことだとは思いませんが。

 

余談になりますが、表の下の方を見ると、Chudgar, Aという名前がありますが、これが私のミシガン州立大学での指導教官です。まだテニュア取り立ての若い先生なので、この表に食い込んできたのは正直驚きでした。とは言え、RAとして一緒に研究させてもらっていますが、半端なく優秀ですし、教育経済学でスタンフォード大学出身という背景を併せて考えれば納得いくランクインではありますが。

 

大学名で先ほど出てきた畠山とかいう異端も、サルタックを起点にネパールをはじめとする南アジアの教育を教育経済学的に分析したいという野心を持っていることを考えれば、死ぬまで一緒に研究ができる若くて優秀なインド人の教育経済学者の下に行ったのはそこまで奇妙な選択ではない、のかもしれません。

 

そして、表を上から下まで眺めてみると気が付くかもしれませんが、日本人の研究者は一人もランクインしていません。当然ですが、日本で学位を取得した人もいません。二国間援助機関で見ても日本の存在感は希薄でしたが、研究者単位で見ても日本の存在感は皆無に等しいところがあります。

 

私はこの状況が良いことだとは思いません。なぜなら、日本は国際学力調査でも結果を残しているし、国際教育協力にも多額のお金を出しているので、本来なら国際教育協力の潮流を決定づけるぐらいのアクターであるべきだからです。

 

より具体的な話をすると、英・米が主導する国際教育協力には、国際学力調査のこれらの国々の結果に反映されているような、自国の教育システムの根本的な誤りに基づくものが見られます。それは例えば、教育システムの分権化度合いだったり、教員の専門職性だったり、教育での官民連携のあり方だったりします。つまり、根本的に間違っている土台の上で緻密な議論を繰り広げているのが、国際教育協力における米・英の教育経済学者の特徴だったりします。

 

教育経済学が弱いからなのか、英語が苦手なのか、そもそもアカデミアが脆弱なのか理由は知りませんが、この土台の部分で比較的正解を選んでいる日本が世界から無視されている状況は、途上国の教育開発に負の影響を与えていることは想像に難くないでしょう。国際社会における相対的な地位も、国際協力に対する資金も右肩下がりの日本ではありますが、途上国の子供たちに有意義な教育を届けるためにも、今一度の日本の奮起を促したいものです。

 

 

まとめ

 

国際教育協力の潮流に大きな影響力を与えているのは経済学で、日本はその潮流の中で無視されている、とまとめると、「分かっているなら、お前が何とかしろ」という声も出てくるかもしれませんが、指導教官と比べた時の自分の能力、そして博士課程の2年目なのにすでに34歳になったという年齢を考えると、やはり自分がこれから研修者になってもあの表に載るのはどうやっても無理なことが分からないほど頭が悪いわけではありません(苦笑)。しかし、近年の興味深い現象を考えると、自分がなすべきことはさすがに理解できます。

 

その現象とは、国際開発分野の研究全般に見られるHome country現象です(世界銀行のブログでも言及されているので参照してみてください)。これは国際教育協力にも見られる現象で、東海岸の某著名大学の某教授はスペイン語ができない学生をほとんど採らないし、別の某著名大学の某教授も中国語ができない学生はほとんど採っておらず、そういったPh.D. studentを使って自国を扱った研究を多く出しています。

 

公平を期すと、私の先生もインド人の学生を多く抱えていますし、インドを舞台にした有力な研究を多く書いています。もちろん、私の先生を含めてこれらの先生たちは自国以外を扱った論文も数多く書いていますが、サッカーや野球で言うホームアドバンテージを持っているところもあるというのは大変興味深い現象です。

 

私自身が有力な研究者になるのは不可能ですし、日本を扱った研究で国際教育協力に乗り込むのは至難の業ですが、日本人の将来の有力な研究者の卵たちにホームを作ってあげる、ということはできる気がします。具体的には、サルタックの研究能力の強化です。インターンや博士課程の学生がサルタックを踏み台&ホームとして羽ばたけるように、今年の夏さっそくネパールに飛んで現地スタッフ&ボランティアにトレーニングを施し、300の幼児教育施設のデータを収集しつつ、そのプロセスを通じて研究能力の強化を図ってくる予定です。

 

私と一緒にネパールに飛んで共同研究をする北村は、サルタックの元インターンで、まだまだ若いですが、こんな記事も書いていて、彼ならひょっとするとあの表に載るような研究者になれるのではないかと感じさせます。もちろん、理事の山田にも同様の期待をしています。

 

途上国の教育というと、圧倒的に先進国からの支援に頼っている印象を受けるかもしれませんが、平均すると途上国の教育の9割は途上国自身のお金で賄われて、残りの一割が先進国からのお金で賄われているにすぎません。こういった事実や持続可能性を考えると、一割の部分を拡大させるよりも、一割の部分で9割のお金がより効率的・効果的に使われるよう支援していく方が得策であろうことは容易に想像がつくはずです。

 

一朝一夕にはいきませんが、サルタックが日本人研究者のホーム足り得る組織になり、ここを起点に日本流のエビデンスに裏付けられた教育支援の拡大・途上国での研究キャパの拡大が進んでいくことが、一人でも多くの途上国の子供達に有意義な教育を届ける重要なステップになると考えています。そのためには、皆様のご支援が必須ですので、どうぞよろしくお願いします。

 

 

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