Education at a Glanceから見る日本の女子教育の現状と課題 

まとめ

 

ここまで日本の女子教育の現状と課題を概観してきた。Education at a Glanceといくつかのデータを参照すると、日本の女子教育は義務教育段階まではOECD諸国と比べてもかなり良好なものであることが示唆されている一方で、高等教育段階においては大きな課題が存在していることも示されている。この課題は様々な要因が複雑に絡み合って発生していると考えられるので、データに基づく分析で女子教育の阻害要因をあぶり出し解決していく必要がある。ここでは、日本のデータ分析に基づかないものの、一般的に女子教育の阻害要因になると考えられているものの中で、日本に当てはまりそうなものをいくつか紹介しようと思う。

 

 

(1)女性教員不足の解消

 

女子教育の進展が見られない場合、まず女子に不利な教育環境の存在が疑われる。この中には、学校/通学路の安全性・カリキュラム・女性教員の不足など様々な要因が存在する。日本はこの中でも女性教員の不足が深刻な状況となっている。下記の図16・17は、Education at a GlanceのTableD5.3から持ってきたもので、それぞれ高校・大学/大学院段階での女性教員比率を表している。2つのグラフが示すように、日本の高校・大学/大学院段階での女性教員比率は、OECD諸国の他国をかなり引き離して最下位に位置している。

 

 

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女性教員の存在そのものが女子を学校に行き易くさせるメリットもあるのだが、女子学生にとって働く女性のロールモデルとなる点も見逃せない。特に労働市場と接続してくる後期中等教育(高校)及び高等教育段階(大学/大学院)では女性教員にこの役割も期待されるのだが、日本の少ない女性教員比率ではそれが難しい。ここでは示さなかったが、日本は前期中等教育(中学校)及び初等教育段階(小学校)でも女性教員比率がOECD諸国の中で最下位レベルであり、女性教員比率を高めるための教員養成・採用・教員保障制度を考えていくことが求められている。

 

 

(2)中長期の教育計画

 

前回の「高等教育の量的拡大はどのように行われるべきか? 」の記事の中で、過去20年間で大学生の数が約57万人も増加するという高等教育の量的拡大が行われてきたが、この量的拡大は賃金や雇用に結びつきづらい分野、つまり文系分野や私大を中心として推し進められてしまったという問題点を指摘した。

 

前回の記事中では触れなかったが、文部科学省の学校基本調査によれば、この約57万人の増えた大学生の性別の内訳は、男性が約5万人、女性が約52万人となっており、この20年間で行われた高等教育の量的拡大の対象者の90%以上は女性だったということになる。

 

つまり、前回の記事で指摘した問題点は、そのまま女子教育の問題点として存在していると言っても過言ではない。一度作ってしまったものの転換は難しいが、可能な限り既存・新設する学部を国立大学の理系を中心として推し進め、そこに女性をアファーマティブアクション的に取り込んでいくという選択肢がある。また、一般的に男子と女子では教育需要の制約条件が異なってくるため、詳細な調査を行ったうえでこれまでとは違う形の教育需要の喚起策(例えば、一人暮らしをせずとも大学に通学できるような大学立地計画、現状の教育ローン中心の生徒支援策の中から一部を女性向けの奨学金へと切り替え、補助金を理系学部に集中させて理系の授業料を抑制、といったことが考えられる。) を取るという選択肢もあるだろう。

 

(3)家庭教育

 

 

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上記の図18・19はそれぞれOECD諸国の女性の労働参加率と男女の賃金格差を表している。これらの図から分かるように、日本の女子教育が高等教育段階で大きな課題を抱えていることの裏返しでもあるが、日本の女性の労働参加は他のOECD諸国と比べて進んでいない。女子教育との絡みでいうと、他のOECD諸国と比べて、女子が育つ家庭の中に働く女性のロールモデルが少ない、ということを意味する。さらに、日本は他国以上にジェンダーに関するステレオタイプが強い、とも聞く。そうなのであれば、なおさら他のOECD諸国以上に積極的に家庭教育に介入していかなければ、女子教育の課題を解決することは難しい。

 

IMF・世銀総会で来日中のIMFラガルド専務理事が「日本経済に活力をもたらす上で、女性が果たす役割は極めて有効だ」と述べたことをはじめ、いくつかのレポートで日本経済の発展のためには女性労働力の活用が肝要であると言及されている。これまで、日本の女性の賃金も労働参加率も低い原因として、就職差別といった労働力の需要側の問題や、産休や労働時間、待機児童の問題等の労働環境の問題がよく取り上げられてきた。しかし、労働力の供給側の問題もまた、この原因となっているであろうことが考えられる。

 

他国と比べても立ち遅れている日本のジェンダー状況を改善するためにも、そして日本の経済発展のためにも、高等教育段階における女子教育の課題の克服は、日本にとって重要な政策課題の一つであると考えられる。

 

(本記事は日本で無所属の時期に書かれたもので、どの組織と関連するものでも、どの組織の意見を代表するものでもありません。本記事はチャリティとして書かれたものであり、謝金相当額の半分は東北の被災地の子どものために活動している「一般社団法人プロジェクト結」へ、残りの半分は途上国の子どものために活動している「特定非営利活動法人日本ネパール女性教育協会」へと、シノドスさんのほうから寄付して頂いております。)

 

参考文献

Martin, M.O., Mullis, I.V.S., & Foy, P. (with Olson, J.F., Erberber, E., Preuschoff, C., & Galia, J.). (2008). TIMSS 2007 International Science Report: Findings from IEA’s Trends in International Mathematics and Science Study at the Fourth and Eighth Grades. Chestnut Hill, MA: TIMSS & PIRLS International Study Center, Boston College.

Mullis, I.V.S., Martin, M.O., & Foy, P. (with Olson, J.F., Preuschoff, C., Erberber, E., Arora, A., & Galia, J.). (2008). TIMSS 2007 International Mathematics Report: Findings from IEA’s Trends in International Mathematics and Science Study at the Fourth and Eighth Grades. Chestnut Hill, MA: TIMSS & PIRLS International Study Center, Boston College.

OECD. (2012). Education at a Glance 2012: OECD Indicators, OECD Publishing. http://dx.doi.org/10.1787/eag-2012-en

OECD. (2010). PISA 2009 Results: What Students Know and Can Do-Student Performance in Reading, Mathematics and Science (Volume l) http://dx.doi.org/10.1787/9789264091450-en

 

 

 

 

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