就学援助だけでは、負の世代間連鎖は断ち切れない

学習習慣を身に着けるには

 

筆者が、厚生労働省が2001年から収集している「21世紀出生児縦断調査」の個票データを利用して行った分析によると、親が「勉強を横についてみている」であるとか「勉強する時間を決めて守らせている」というような、子どもに学習習慣を身に着けさせるために、ある種自己犠牲的な関わり方をしているほうが、子どもの学習時間が長い傾向があることが示されている(Nakamuro, et al, 2013)。

 

この傾向は、親の所得や学歴が高いほど顕著であるが、親の所得や学歴の影響を統制してもなお成り立っている。すなわち、低所得家庭の子どもらは、学校に行くための経済的な資源が不足しているという以上に、学習習慣が身についていないのではないか。だとすれば、我々研究者が取り組むべきは、低所得家庭の子どもが学習習慣を身に着けるために、学校、自治体、政府は何ができるのかを明らかにすることではないか。

 

この観点から、筆者が最近注目している研究は、行動経済学者の田中知美氏と計量経済学者の萱場豊氏の研究だ。彼らは、小中高生向けオンライン学習教材「すららネット」と協働し、生徒の学習行動のビッグデータを分析し、成績が伸びる生徒と伸び悩む生徒の学習行動のパターンを把握した上で、伸び悩む生徒にどのような介入をすれば成績が上昇するのかを明らかにする研究を行っている。こうした研究蓄積は、学習習慣がついていない低所得家庭の子どもらの学力をどのように伸ばせるのかということをも明らかにしてくれるだろう。

 

筆者もまた、貧困世帯の子どもらに対して、タブレットPCなどICTツールとオンライン学習のコンテンツが有効なのではないか――すなわち、「勉強を横についてみている」とか「勉強する時間を決めて守らせている」というような親の関与を一部代行をしてくれるのではないか――という仮説を明らかにするための検証を始めている。最近のオンライン学習は、いわゆるゲーミフィケーション(ゲームデザインの技術やメカニズム)を活用して、「子どもを飽きさせない、やめさせない」工夫が施されている。人気のキャラクターを用いたり、友達と競争することができたり、学習が進めばレベルアップしたり、ボーナスポイントが加算されたりする。学習習慣をつける入り口として期待している。

 

 

科学的根拠のある施策を!

 

筆者は、上記の研究以外にも、全国の自治体や学校とともに、子どもの学力の決定要因を明らかにする調査を実施している。この中には、就学援助制度を利用する世帯の児童がかなり多い学校もあり、こうした学校では、子どもらの学力の低さに起因して、子どもらが自分の将来に希望を持てずにいることに心を痛める教員の姿を垣間見ることがある。

 

一介の研究者である筆者ですら、貧困家庭の子どもの教育や生活の現状、そしてそれを懸命にサポートする現場の教員の姿を見るたび、子どもの貧困の問題は、とにかく何とかしなければいけない、と強く思うのである。そのために最も有効な方法は、少なくとも就学援助の金額を増加させることではなく、貧困世帯の子どもらの学力を上昇させるために何が有効か――それを明らかにする科学的根拠を提示し、それを学校、自治体、政府における施策につなげていくことであると考える。

 

 

■参考文献

 

藤澤宏樹「就学援助制度の再検討(1)」『大阪経大論集』2007, 58(1)

藤澤宏樹「就学援助制度の再検討 (2・完)」『大阪経大論集』2008, 59(1)

藤澤宏樹「就学援助制度の現状―大阪府内の市町村へのヒアリング調査より」『大阪経大論集』、2008, 58(7)

Behrman, J. R., Sengupta, P. & Todd, P. (2005). Progressing through PROGRESA: An Impact Assessment of a School Subsidy Experiment in Rural Mexico. Economic Development and Cultural Change, 54(1): 237–75.

Nakamuro, M., Matsuoka, R., & Inui, T. (2013). More Time Spent on Television and Video Games, Less Time Spent Studying? RIETI Discussion Paper Series, 13-E-095

Rawlings, L. B. & Rubio, G. M. (2005). Evaluating the Impact of Conditional Cash Transfer Programs, World Bank Research Observers, 20 (1), 29-55.

Reimers, F., DeShano da Silva, C. & Trevino, E. (2006). Where is the “Education” in Conditional Cash Transfers in Education?” UIS Working Paper, No.4.

 

サムネイル「spiral staircase」Digo_Souza

http://www.flickr.com/photos/caochopp/6700888361

 

 

 

 

 

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