デフレと金融政策に関する9つの論点  

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5.そもそも量的緩和の効果の検証はなされていない。

  

量的緩和の効果については実証分析がすでに行なわれております。現在では、量的緩和のはじまりから終わりまでのデータを対象に、量的緩和の効果を検証した研究として、本多佑三氏(関西大学教授)らの研究(本多・黒木・立花(2010)「量的緩和政策-2001年から2006年にかけての日本の経験に基づく実証分析-」、財務省財務総合研究所『フィナンシャル・レビュー』平成22年第1号所収)や、原田泰氏らの研究(原田・増島(2009)「金融の量的緩和はどの経路で経済を改善したのか」内閣府経済社会総合研究所(企画・監修)・吉川洋(編)『バブル/デフレ期の日本経済と経済政策2 デフレ経済と金融政策』所収)があります。

 

これらの実証研究では、量的緩和には(わが国の場合でも微弱ではあったが)効果はあった。そして量的緩和は、デフレ予想の深刻化に歯止めをかけ、資産価格の上昇をもたらすことで総需要の回復を後押ししたという結果が得られています。

 

 

6.すでに日銀は一年後の消費者物価の伸び率を1~2パーセントとする物価上昇を政府と連携し共有している。つまり事実上、インフレターゲットを実行している。

 

日銀が物価上昇率について公に公表しているのは、審議委員らによる「物価安定の理解」というものです。「物価安定の理解」には、拘束力はなく目標とはいえません。拘束力とは、物価上昇率についての目標を明示し、それが達成できなければ、たとえば日銀総裁が解任されるといったかたちで具体的に責任をとる行為がともなうことを指します。現行の日銀法では、政府による総裁の解任権は付与されていません。つまり、目標ではない理解の下での物価上昇率を明示し、それにもとづいた金融政策を行なった結果が「デフレの持続」であったとしても誰も責任をとることはないのです。これでは「事実上のインフレターゲット」とはいえず、日銀の行動を正当化している行為ととられてもおかしくないのではないでしょうか。

 

 

7.そもそも、川辺に馬を連れていくことはできても水を飲むかは馬次第ではないか。

 

しかしながら、日銀のバランスシートの変化率や当座預金残高の伸び、マネタリーベースの伸びをみるかぎり、川辺に馬を連れていっているとはとても考えられません。リーマンショック後に前年比数%レベルの緩和を行った日本の金融政策と、リーマンショック後の数ヶ月間でバランスシートを数十%、数百%まで増加させた米国、英国の金融政策とは、そもそも比較の対象が違うことに留意すべきかと思います。

図表2は、この点を確認するために日米英欧の中央銀行のバランスシートの推移をみたものです。図中の点線で囲った部分がリーマンショック時の各国中央銀行の金融緩和の動きですが、ほぼ横ばいで推移した日本銀行のバランスシートに対し、米英欧の中央銀行のバランスシートは短期間でかつ急激に増加したことがわかります。

 

図表2 日米英欧の中央銀行バランスシートの推移 (資料)各国中央銀行統計より筆者作成

図表2 日米英欧の中央銀行バランスシートの推移
(資料)各国中央銀行統計より筆者作成

 

 

なお、この中央銀行のバランスシートの動きと各国の為替レート(実質実効為替レート)とのあいだには関係があります。図表3は図表2と同じく2007年を100とした指数のかたちで実質実効為替レートの推移をみています。図表2で日本円がリーマンショックのタイミングで急騰していることがみてとれます。

 

 

図表3 実質実効為替レートの推移 (資料)BIS統計より筆者作成

図表3 実質実効為替レートの推移
(資料)BIS統計より筆者作成

 

 

8.日銀からの見せ金で、企業経営者が楽観視して設備投資への借入(市中への金の出回り)が起きるとは考えられない。

 

高橋是清が行なった日銀の国債引き受けによる財政・金融政策のポリシーミックスは、日銀が一旦国債を引き受け、その国債はほぼ全額市中消化されたため、見せ金の最たるものであると思いますが、それがデフレ下にあった日本経済を、高橋在任時の平均で2%程度のインフレ率をともなったかたちでの景気回復に導きました。「考えられない」のではなく、すでに実例はあるということではないでしょうか。

 

 

9.むしろ、政府の成長戦略タイアップ貸し出しのほうが、実績が上がっている。

 

成長戦略タイアップ貸し出し政策は、産業政策をともなった貸し出し政策といえますが、これは日本銀行の本来の役割ではありません。このような政策は特定の市場に介入することで資源配分を歪めるという弊害を生み出します。民間と比較して政府が成長分野を判断する知識はなく、実際にこのようなかたちでのターゲティング・ポリシーは標準的な経済学では愚策とされているものです。日本銀行においても同様でしょう。

 

政府・日本銀行に求められているのは、成長産業か否かの区別なく、潤沢に資金を供給することで将来デフレが続くという予想を覆し、そのことでマネーや安全資産(国債)への投資が集中するという現状を脱し、投資を進め、総需要を高めることではないでしょうか。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.267 

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