発達障害をめぐるQ&A

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発達障害という言葉が日本で広まり、発達障害のある人への支援の重要性が認識されつつあります。支援の第一歩として、発達障害について正しい知識を持つことも極めて重要です。そこで今回はQ&A形式で、発達障害について整理してみます。

 

 

Q1 発達障害の定義を教えてください。

 

 

立場や国によってさまざまですが、2005年に施行された日本の発達障害者支援法では、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害(*1)、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他のこれに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう」と発達障害は定義されています。

 

より具体的には文部科学省・厚生労働省次官通知では、「法の対象となる障害は、脳機能の障害であってその障害が通常低年齢において発現するもののうち、ICD-10(<筆者注>WHO作成の国際的診断基準)における「心理的発達の障害(F80-89)」及び「小児<児童>期及び青年期に通常発症する行動および情緒の障害(F90-98)」に含まれる障害であること」と示されています。

 

(*1)広汎性発達障害の中核症状は以下の3つにまとめられます。1)社会的相互作用の質的異常、2)コミュニケーションの質的異常、3)反復的行動パターンと関心の著しい限局です。自閉症やアスペルガー症候群は広汎性発達障害の一部です。

 

 

Q2 ICDって何ですか?

 

 

ICDは診断基準ですが、「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)の略で、第一版は1893年に作成されています。WHOが採択した第六版(ICD-6)から、精神障害が独立した章となっています。ちなみにDSMという診断基準も有名です。こちらは米国精神医学会が作成した「精神疾患に関する診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」の略で、1952年に初版が作成され、現在はDSM-IV(4)-TRまで作成されています。

 

2013年を目途にDSM-5が出版される予定です。1992年に出版されたICD-10と1994年に出版されたDSM-IVでは、前者が「アスペルガー症候群」、後者が「アスペルガー障害」の語句を用いるなど、用語面などで差異もありますが、原則的には、それぞれの作成者の意見交換がなされ、両システム間の用語の一致を図り、無意味な相違点を減らす努力がなされたようです(*2)。

 

(*2)「診断基準の変遷と現状」小野次朗、p17-26、別冊[発達]31 ADHDの理解と援助、2011、ミネルヴァ書房

 

 

Q3 発達障害の診断の仕方を教えてください。

 

 

ADHD(注意欠如(陥)多動性障害)を例にあげて説明しましょう。前述したDSM-IV-TR(*3)では、個々の事例について医師が問診や把握できている情報、診察所見を踏まえ、基準A~Eを満たすと判断した場合、ADHDの診断が下されます。

 

基準Aでは、主要症状として不注意に関する9項目、多動性に関する6項目、衝動性に関する3項目が記載されています(*4)。それぞれの項目について医師が「6か月間持続したこと」があり、程度が「不適応的」で「発達の水準に相応しない」か否かを判断します。

 

不注意項目で6項目以上もしくはかつ多動性と衝動性の項目で6項目以上該当する場合、基準Aを満たすと判断します。基準Bでは、基準Aでみられた症状のいくつかが、7歳以前に存在し、「障害」を引き起こしていること、基準Cでは、症状による障害が複数場面で存在すること、基準Dでは、社会的、学業的、または職業的機能において、臨床的に著しい障害が存在するという証拠があることの判断が求められます。最後の基準Eでは、広汎性発達障害や統合失調症などの他の精神障害が除外されることが規定されています。

 

基準Cの判断では、たとえば事例が小学生の場合であれば、保護者の問診だけでなく、学校教師や塾講師など周囲の大人からの情報が重要になります。その他に重要なこととして皆さんに認識してほしいのは、基準B、Dに表現されているように、単に症状があるだけでは診断がつかず、症状によって障害が存在し、かつ社会適応上の問題があることが診断にとって必須だということです。

 

(*3)「DSM-IV-TR 精神疾患の分類と診断の手引」高橋三郎・大野裕・染矢俊幸訳、2002、医学書院

 

(*4)不注意では「学業、仕事、またはその他の活動において、しばしば綿密に注意することができない、または不注意な間違いをおかす」など、多動性では「しばしば教室や、その他、座っていることを要求される状況で席を離れる」、衝動性では「しばしば質問が終わる前に出し抜けに答えてしまう」などと表現されています。

 

 

Q4 診断基準が変わると聞いたのですが。

 

 

DSM が2013年を目途にDSM-5という新しいバージョンに変わることですね。DSMは定期的に見直され、修正されています。今回、DSM-5の細部については検討中のようですが、臨床的有用性や改定の根拠としての研究エビデンスなどが重視された改訂になる見込みです。発達障害に関する部分としては、「広汎性発達障害」の下位分類を廃止し、さらには下位分類を集合する上位概念の「広汎性発達障害」という用語が「自閉症スペクトラム障害」に変更される可能性が高いとされます。アスペルガー障害という用語がDSMの診断基準からなくなることになります。

 

また、ADHDについては、DSM-IV-TRの診断基準Eでは広汎性発達障害を除外することが明記されていましたが、この除外規定が廃止される可能性が高いとされます。したがって、ADHDと広汎性発達障害(DSM-5では自閉症スペクトラム障害?)の重複診断が生じうることになります。両障害の重複を認めてきた専門家も多く、臨床的感覚と診断基準が合致するといえましょう。ちなみに、2003年の文部科学省の「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」では、通常学級に所属するADHDの疑われる子どもの6分の1に広汎性発達障害の合併が疑われると報告されています。

 

 

Q5 CTやMRI、脳波検査で診断できないのですか?

 

 

発達障害の代表である広汎性発達障害、ADHD、学習障害の診断において、現在CT、MRI、脳波などの生物学的指標は使用されていませんので、CT、MRI、脳波検査は診断に必要不可欠ではありません。実際、現状においてはCT、MRIといった脳の形態が把握できる画像検査、脳神経細胞の電気活動が分かる脳波検査、身体状況が把握できる血液検査や尿検査において、広汎性発達障害、ADHDや学習障害の臨床診断に直結する異常所見はみつかっていません。しかしながら、発達障害と同等の行動特性を示す他の神経疾患(てんかん、脳腫瘍など)もありますので、臨床所見によっては、これらの検査の実施が考慮されます。

 

 

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