2013.08.05

被ばくおよび被ばく検査に関するQ&A

坪倉正治

情報 #ホールボディーカウンター#内部被曝#Q&A

Q1.内部被ばく検査の結果、現在ではどのようなことがわかっていますか?

南相馬市では2011年7月からいままで、継続的に検査が行われ、順次結果が公表されています(*1)。

いま現在、子供から検出限界を超えた値のセシウムが検出されることはほとんど無くなりました。これは、ひらた中央病院や、いわき市、相馬市で行われている検査結果でも同様です。大人も検出限界を超える率は5%弱程度であり、慢性的な内部被ばく、言い換えると現在の福島県内での生活上で、体に取り込んでしまうかもしれないセシウムは低いレベルを維持できていることになります。

経験上わかってきた大事なことは、たとえば普通にスーパーで食品を買って日常生活を送っている方で、このような高値になる方はいない、ということです。

(1)出荷制限がすでにかかった
(2)値が高いと経験上あきらかにわかっているような食べ物を
(3)未検査で
(4)継続的に摂取している

方だけが高値になります。

大人からの検出率は5%程度と横ばいが続いているとはいえ、たとえば20Bq/kgを超える方はほとんどいません。

検出する方の多くも、器械の検出限界ぎりぎりのライン(Cs 137で250Bq/body)でいくらか検出するという方の割合が増えてきています。同一の方を計測しているわけではないので、安易に比較するのは微妙なのですが、時期による検出率もあきらかな上昇傾向はありません。

(*1)http://www.city.minamisoma.lg.jp/index.cfm/10,0,61,344,html

Q2.流通食品の安全性について、内部被ばくの検査結果からはどのようなことがわかっていますか?

同時に食品や水の摂取状況の聞き取りを行っています。

米、肉、魚、野菜、果物、キノコ、牛乳について、8割ぐらいの方がスーパーで購入し、その際には産地を選び、残りの2割ぐらいの方がスーパーで購入するけれども産地を選んでいない、という状況でした。年齢が低くなればなるほど、スーパーで産地を選んで購入している傾向があります。米と野菜は地元のものを使用されている割合が、他の食材に比べて高く、1〜2割でした。

「スーパーでの食材は安全なのか?」という問いをされることがありますが、前述の通り、内部被ばくの検査において、子供の99.9%、大人の95-97%程度が検出限界以下という状況ですから、食品に関してスーパーで産地を選ぶ、選ばない、どちらの購入行動をとったとしても、ほぼ全員が検出限界以下になるということがわかります。

もちろんいろいろなものを食べて、この器械の検出限界以下の被ばくであるとか、検出限界周辺の内部被ばくをしないということを保証することはできません。ただ、ホールボディーカウンターの検査結果から、流通品摂取のみの生活でセシウムが1000Bq/bodyクラスの被ばくをすることはほぼ無いといって大きな間違いはなさそうだと思います。

流通食品の検査結果からもある程度推定される値ではありますが、それが内部被ばく検査からも裏付けられる結果となっています。

Q3.地産の食品の安全性について、内部被ばく検査の結果からどのようなことがわかっていますか?

地元の食べ物に関しても、一定の傾向が見えてきています。

地元の食べ物を食べたとして、リスクが20+20+20+20+20=100(数種類の食べ物が均等に汚染されており、それぞれの食べ物に均等にリスクが存在する)となっているのではなく、0+1+2+2+95=100(多くの地元の食べ物にリスクがほぼ無く、その一方でいくつかの特定の食べ物にリスクが集約している)という構造になっているということです。

継続的な検査で体内セシウム量が上昇する方が一部にいらっしゃいますが、いわゆる流通していない、すでに出荷制限のかかっている食品(値がかなり高くなることが既知である食品)を、未検査で継続的に摂取している状況があきらかでした。

内部汚染は二極化してきています。一部の方が非常に高い値を出す一方で、ほとんどの方が検出しなくなっている。その高い値を出す方はほぼ全員、高汚染度の食材、つまり出荷制限がかかるかどうか、100Bq/kg前後というレベルではなく、その数倍から数十倍クラスの汚染度の食材を継続的に食べている方です。そこにリスクのかなりが集約しています。

言い換えれば、地元の食材を食べるとしても、あきらかに出荷制限がかかっていて、高いことがわかっているような食べ物(たとえば、キノコ、イノシシの肉、柑橘類、柿、ため池などに住んでいる魚など)を避けるだけで、大部分のリスク回避が可能ということです。もちろん、上記で例をあげた食べ物であっても、検査をして低いことが確認されたものは、リスクは低いです。

たとえば、日本人の主食であるお米は、セシウム汚染しやすい食品には該当しません。福島県の放射性物質検査情報(*2)にもしめされているように、1000万件以上の玄米の全袋検査の結果、99%以上が検出限界25Bq/kg以下です。

このことからも十分に推測される結果であり、それらを食べてもセシウムの内部被ばくが爆発的に増える状況ではまったくありません。「福島県産」とか、「xxxで作られた」という「場所」「産地」が注目される傾向がありますが、より重要なのは「種類」です。土壌中のカリウムや、土壌の種類、水のpHなどいろいろな要素が複雑に絡みあってはいるものの、あきらかにセシウム汚染しやすい食品は偏っています。繰り返しになりますが、それらを避けることで大部分の内部被ばくを避けることができます。

ベラルーシやウクライナの場合も論文で報告されたことですが、キノコ類やベリー類が全体の内部被ばくの90%以上を占めていました。xxxという場所で作られた食べ物の汚染度が高いという話よりも、xxxという種類の食べ物は気をつけて検査をしながら進まなければならないという話です。値が高くなりやすい食べ物は、出荷制限がすでにかかっている食べ物とほぼイコールです。そうした食べ物を「未検査」で継続的に食べる。そのことがリスクになります。野菜や魚に関しても同様です。

(*2)https://fukumegu.org/ok/kome/

Q4.水の安全性はどうなっていますか?

泥やゴミを沈殿させ、そして消毒することで水道水は作られます。濁った水を振動させずにそっと置いておけば泥は下に溜まります。それを効率よく行うため、泥やゴミをお互いにくっつけ、大きな固まりにしてから沈殿させています。

この泥やゴミを、集めて大きな固まりにしてくれるのがPAC(パック)と言われる薬剤です。PACが汚れた水に加えられることで、大きなゴミの固まり(フロックと言います)が形成され、短時間で水に浮いている多くの泥やゴミを沈殿させ、除去することができます。これは今回の原発事故以前から使われている薬剤(とくに放射性物質を除去するために使われる薬剤ではない)です。

相馬地域の上水道から事故直後をのぞき、ゲルマニウム検出器ですらセシウムが検出されたことはありません(*3)。この上水道は現在、内部被ばくのリスクを考える必要はありません。セシウムなどの放射性物質が検出されるのは上水道ではなく、泥水です。

原因は泥であり、セシウムが強く接着している土です。ですので、山間部の家庭で大雨がふった後、近くの川から引っ張っている水道が濁り、その濁った泥水を検査すると数Bq/kgぐらいの検出をすることはあります。繰り返しますが、泥水の話であり、上水道の話ではありません。

「高線量地域のダムから水を引いているにもかかわらず、上水道から放射性物質が検出されないという結果はおかしい」という指摘を受けることがありますが、理由は簡単です。上で述べた、沈殿させた泥やゴミからは放射性物質は検出されます。沈殿した泥を集めて、干して乾燥させて計測すれば、 数千~万Bq/kg単位でセシウムを検出します。

逆説的ですが、この泥の汚染が高いということは、その分しっかり上水道から汚染を分離しているということの傍証でもあります。これらは、粘土とセシウムが強く結合しているから実現していることです。

農産物と同様です。しっかり耕し、粘土質にセシウムが十分吸着している状況で、たい肥にカリウムが多い状態を維持してすれば、その土地で作成した農産物の汚染を防ぐことができることにも通じるように思います。ストロンチウムも震災前の値と変わらないという結果でした(*4)。

(*3)http://www.suido-soma.jp/monitaringu/MANO-0614.pdf

(*4)http://wwwcms.pref.fukushima.jp/download/1/suidosui.pu.st.2013-0328.pdf

Q5.外部被ばくの検査には、ガラスバッジなどの積算線量計が使われますが、これからどのようなことがわかっているでしょうか?

相馬市の検査結果を用いて,傾向をお話しします(*5)。

市の配布するガラスバッジで2012年の7月から9月の間、4135人の中学生以下の小児、妊婦さんが検査を受けました。3カ月分の値を単純に4倍し、年間線量を推定し、1mSv/year以上だったのは125人(3.0%)でした。多くの方で、去年より値が下がり傾向であることが確認されました。

2648人が昨年度も検査をしていますが、95.7%にあたる2533人の値が低下傾向、平均0.3mSv/yearの減少でした。115名は去年より値が高くなりましたが、特定の地域に偏った結果ではありませんでした。これは、中通り、浜通りなど自治体によって状況は異なるようですので、今後の継続的な検査が必要です。空間の線量の値が比較的高い地域では、値が高くなる傾向があり、最高値は3.6mSv/yearでした。

また、同じ地域に住んでいる方々の中で、値が広範囲に分散することがわかっています。比較的線量の高い地域に住んでいる方の中に、かなり値が低い方がいること、逆に線量の低い地域に住んでいるにも関わらず、値が高めである方がいます。着用の問題かしれませんが、どこから気をつければ良いのかをあきらかにする必要があります。いまのところ、外部被ばくに影響を与えるトップ2つは、「就寝場所の線量」と「学校の校舎内の線量」だと思っています。子供の24時間の生活のうち、8時間は睡眠、8時間は学校だからです。

相馬での外部被ばく線量は上記の通り、そして内部被ばく検査の結果(*6)では、小児で99%が検出限界以下に抑えられています。年齢によって計算値は変わりますが、大多数の小児で外部内部被ばくを足し合わせた年間の追加被ばく線量が、あったとしてもいわゆる1mSv以下に抑えられてきています。これは多くの福島県内の検査結果でも同様です。

(*5)http://www.city.soma.fukushima.jp/housyasen/kenkou_taisaku/glass/h24/index.html

(*6)http://www.city.soma.fukushima.jp/housyasen/kenkou_taisaku/WBC/index.html

Q6.上述の、同じところに住んでいても、人によって外部被ばくが異なってくるのはなぜでしょうか?

ある地域の空間線量(1時間当たり)を単純に24倍し(24時間分)さらに、30倍(30日分)した値と、ガラスバッジを1カ月間もってもらい実測した値を比べたとき、多くの場合、実測値の方が低くなることが言われています。人は24時間ずっと野外に居るわけではなく、遮蔽された家の中や建物の中で生活している時間があるからです。

たとえば、農家のご家族さん全員にガラスバッジを持っていただくと、子供に比べて大人で値が高くなる傾向があります(もちろんご家族によります)。寝ている場所は同じ家の同じ部屋、その時間帯の被ばく量は同じであるにも関わらず、このような結果になるのは、昼間の被ばく量が違うからです。大人は昼間に農作業をするため、外で働いている時間が長いのに対し、子供は遮蔽の効いた建物であることの多い校舎で生活しているからです。

平均的な子供の生活を考えると、24時間のうち、8時間は睡眠、8時間は学校にいます。トータルの被ばく量を下げるためには、長時間生活する場所の空間線量を低く維持することが大事です。ホットスポットを避けることよりも優先順位が高くなります。言い換えると、高い線量の場所を一瞬~数十分程度通過することを避けるよりも、長時間生活する場所の空間線量が低いことが大事です。

xxμSv/hを指すホットスポットを見つけてどうこうするより、長時間生活している場所の線量を0.1でも0.2でも下げる努力をする方が、外部被ばくを下げるために効果的です。もちろん、そのホットスポットの存在が、長時間生活する場所の線量に影響する場合はその限りではありません。除染に関しても、理想的には長時間生活する場所の線量を下げるために、どの場所から行うかについて、議論がなされるべきだと考えています。

学校に登校して、授業中に鉄筋コンクリートの中で生活していることは、子供のトータルの外部被ばく量を下げる上で重要な役割を果たしています。子供達が鉄筋コンクリートなどでできた建物の中に集まることによって、集団で浴びる線量を野外の空間線量から大きく下げています。よって、早期に学校が再開され、除染なども行われてきたことは、事故直後の時期の子供の集団としての外部被ばくを下げるために大きな役割を果たした可能性があると思います。

先日時間ごとの外部被ばく線量を記憶できる積算線量計を、何人かのスタッフにつけてもらうと、人によっては時間ごとの外部被ばく線量が、昼:0.1μSv/h → 夜:0.2μSv/h → 昼:0.1μSv/h → 夜:0.2μSv/hというように、規則正しく高くなったり、低くなったりする方が多いことがわかりました。寝ている場所の線量がだいたい0.2、昼間の仕事場の線量が0.1ということです。この方の場合は、昼の仕事場が屋内で遮蔽のより強い場所であり、さらに線量を下げようとするならば、寝るところの線量がより低くなるように場所を探すしかありません。

内部被ばくの原因の多くが、出荷制限のかかったような種類の食品を未検査で、継続的に食べることであるように、外部被ばくの原因にも優先順位があります。長時間生活する場所、つまり多くの場合、学校と寝る場所の線量を低くすることの優先順位が高いと思います。

ただ、こんな話をしていますが、さまざまな自治体で公表されているガラスバッジの結果からわかるように、現在の年間の追加外部被ばく線量は多くの子供で1mSvを切っています。事実として現在、日常生活での外部被ばくはかなり低く抑えられています。そうした中、私は優先順位については上で述べたようなことを考えています。

Q7.内部被ばくにはどのような検査方法があるのですか?小さい子供を計測する際の問題点も含めて教えてください。

主に体全身に含まれている放射性物質の量を計測するホールボディーカウンター検査と、尿検査が存在します。小さい子供達の検査については必要性が言われますが、それぞれの検査にはデメリットが存在します。

そもそもホールボディーカウンターは、原発で従事できるような大人を対象にしており、小さい子供用には作られていません。キャンベラ社製ファストスキャンでは、130cmぐらいを下回ると途端にカリウムの定量性が怪しくなります。体の大きい小学生や中学生ぐらいならまったく問題ありませんが、乳児などはとてもじゃないですが計測できません。小さい子供に関しては、かなり大雑把にしか検出できないというのが現状です。

尿検査にも問題点が2つあります。

1つ目は、朝の尿と夜の尿で濃さが違うということです。当然ですが、尿の濃さが倍になれば、たとえばセシウムは倍の濃度で検出されます。そのときの尿の濃さに結果が左右されすぎてしまうのです。体内の放射能量と、尿中の放射能濃度が明確な比例関係に無い。計測の意味がまったくない訳では決してありませんが、大雑把なスクリーニングの意味合いが強くなります。

2つ目は尿の量です。できれば細かく尿中のセシウム量を計測したい、と考える訳ですが、その場合ある程度の尿量(少なくとも数百cc)が必要になります。しかしながら、これは大きな矛盾を抱えてしまっています。

いま困っているのは、体の小さい小児をホールボディーカウンターで計測できないことです。その体の小さい小児から、より多くの尿をためなければならないのです。体が大きくて、尿が十分ためることができる方の場合、尿をためられるかどうかは問題になりません。そのままホールボディーカウンターで計測すれば良いだけになります。

しかし1歳では、20mlためるのも厳しく、実際に「20mlでもきつい、10mlしか採れないが、何とか計測してほしい」と頼まれたこともありますが、値は出すことはできるかもしれませんが、正確性に欠けます。それに加えて、そもそも小さい子供は、大人より代謝速度が早いため、体内の絶対量が大人に比べて少ない傾向があります。より少ない量を計測しなければならないのに、体が小さいため、計測自体が困難になってしまいます。

また、500mlのペットボトル一本分以上ぐらいの尿を貯め、ゲルマニウム半導体検出器を用いて一人当たり1時間とかそれ以上の時間をかけて検査を行えば、ホールボディーカウンターの性能を超えることができると考えられます。

ただし無尽蔵にゲルマニウム半導体検出器が存在し、時間も無限にあれば良いのですが、現実はそうではありません。ある特定の対象に絞れば、研究という形でゲルマニウム半導体検出器による尿検査を実現することは可能だと思いますが、多くの方々が大きな被ばくをしていないことを確かめるためのスクリーニングをすることはできません。

現状のホールボディーカウンターの性能は検査あたり、200-300Bq/bodyぐらいが検出限界です。どこまで計測するかは、食物でも常に問題になることですが、ホールボディーカウンター検査は、スクリーニング検査として十分な意味を持つと考えています。

小さい子供を測る方法として、いまあり得る方法は、4つです。

1つ目は、尿検査またはホールボディーカウンターで、ある程度大雑把ではあるが計測を続けるという方法です。尿検査は体内の放射能量と関連性が無く、計測が大雑把だからといってまったく意味が無いとは思いません。何も計らないよりはましです。ホールボディーカウンターに台座を入れて、小さい子供でもある程度の性能で検査が可能であることもわかってきました。

2つ目は、子供の代わりに母親を計測するという方法です。母親から内部被ばくが検出されない場合、同じような生活をしている子供は、母親よりもさらに代謝が早く、食品摂取量も少ないので、放射能が検出されるとしてもさらに少ないだろうと考える方法です。一般的にはこの考え方が用いられていますが、実際の子供を計測していないという難点があります。ただし、現状では一番現実的だと考えています。

3つ目は、母親と一緒にホールボディーカウンターに入ってもらう方法です。メーカーはこれを推奨しています。母親と子供を一緒に計測したものから、母親の値を引き算するというものです。当院でも何度も試しましたが、正直なところ2人一緒に計ったカリウム量と、母親のみのカリウム量が体重に見合った値として検出されるかは微妙です。とりえる一つの方法だとは思いますが、小児の放射能量が正確に計れている印象もありません。やはりこれでも大雑把になります。

4つ目は、小児用の特別製ホールボディーカウンターを作る方法です。Babyscanという器械の作成が進んでいます。一台目は、ひらた中央病院に導入される予定であり、いままでのホールボディーカウンターの検査に比べて、検出限界が6分の1程度にできると推定されています。2013年中には稼働が開始される予定です。

Q8.現在、どのような検査体制で被ばく検査をおこなっているのですか?

内部被ばく検査は、市町村主導の住民検診として行っているもの、個人、グループまたは私立病院が独自にホールボディーカウンターを購入し検査しているもの、福島県、JAEA、放医研主導によるものなどさまざま場所で行われています。現在までにおおよそ30万人程度の検査が行われています。

しかしながら、継続的な検査に関しては自治体によってその対応がまちまちであるのが現状です。南相馬市では、2012年8月から(1回目がどのような値であっても)2回目の検査ができるようになりました。そして2013年5月から、学校検診としての内部被ばく検査が始まっています。南相馬市内のすべての小中学生を対象に、定期的にホールボディーカウンターによるチェックを行うというものです。

移動式の器械は無いので、学校の学年単位で小中学校からバスで病院まで来てもらって午前中まとめて一斉に検査をしています。この5月から3カ月ほどで全地域の検査を行い、それを年に2回繰り返すという形です。

継続的にチェックを行うことができること、検査漏れの確率が下がること、平日に親御さんが仕事を休んで連れてくる必要がなくなること、いつ検査を受けたのかなどを常に考える手間を省けることなどの利点があります。

いつまで続くのか等の課題も残っています。他の自治体もきっと、ある程度検査が進めば継続的な検査に移行すると思いますが、まだ福島県全体としての方向性はできていないと思います。

Q9.検査というのは、一回受ければ済むものなのでしょうか?

確かに、震災から2年以上が経過した現在、ホールボディーカウンターの検査を行っても、事故直後の被ばく量がどの程度かを計測することはできません。排泄されてしまっており、跡形が無いからです。

しかしながら、現状の生活での被ばく量がどの程度なのかを推定することはできます。実際に、南相馬市でも一回目の検査に比べて二回目の検査で放射性物質の値が高くなった方や、以前は検出しなかったのに、二回目ではある程度の値を検出した方がいらっしゃいます。ウクライナやベラルーシでも内部被ばくは事故から数年経過した後に最大値を迎えています。経済的、社会的な事情があったことも言われますが、現状の日本でも継続的な検査体制の構築が必要と考えています。

また、現状では、検査結果が書類通知されるだけの場所がほとんどです。相談窓口などは存在しますが、ある程度の値以上となった検診者には、医者が人間ドックで行うような普通の診療として関わる形にならないだろうかと思っています。理想的には、どこの医者にかかっても、ある程度検出された方も検査結果を持って行けば、今後どう生活すべきか、アドバイス定期検査の必要性などを相談できる形になって欲しいと思っています。

ベラルーシでは、継続的な検査が26年たったいまでも行われていました。年に1回、無料の健康診断という形で、内部被ばくの検査、採血、甲状腺の超音波、心電図など必要な健診と、無駄な内部被ばくを合理的なレベル以下に抑えるための検査が行われていました。

採血の種類は特殊なものは無く、特別な症状が無ければ血算のみ。生化学検査は行われていませんでした。継続的に検査を行っていく必要性があることを、スタッフ全員が理解しており、当然のように淡々と検査が続いていることに感銘を受けました。ただ、このような軌道に乗るまでには10年近くの時間がかかったと言っていました。

日本もいまのままでは継続的に検査するのかどうかもはっきりしていません。内部被ばく測定やガラスバッジに関して言えば、そもそも誰がやるのかも、いまいちはっきりしません。この部分は、ある程度時間が経過したいまだからこそ、うやむやにせず、ちゃんと議論されるべき問題だと思います。

Q10.被ばく検査における今後の課題とはなんでしょうか?

上述の継続的な検査体制の維持、そして定期的な検査を受けていただけるよう情報提供を行い、関心を持ち続けてもらうことだと思います。検査を始めた2011年7月当初は、次の年の春まで検査待ちになるような状況でしたが、この年度末には1日に10人程度しかいらっしゃらない日も珍しくなくなりました。

検査数だけで言うと、2012年度の下半期は、上半期の1/3~半分程度でした。もう低いことはわかっているので(これ以上やらなくて)よいでしょうという意見や、足らないリソースやマンパワーをもう少し他のものに回すべきであるという話も出てきています。全体として検査に対する関心が薄れてきています。医療資源が枯渇し、実際に働くスタッフの疲弊も大きな課題である現在、そうした話も一理あります。しかし、継続的な検査は必要だと思っています。繰り返しになりますが、今後何かしらどこかで生物学的に濃縮してくる可能性はあると思いますし、内部被ばく自体、生活習慣や経済社会的影響も大きく受けます。

また、被ばくの影響を考える際、外部被ばくと内部被ばくの両方あわせて評価する必要がありますが、外部被ばくと内部被ばくを突合してトータルのリスクを評価しようとする試みは、本格的には行われていません。発表されているのはガラスバッジの結果、またはWBCの結果単独のみなのがほとんどです。

検査自体も相馬市や南相馬市は市の検診として行っていますが、私立病院に委託している自治体、そもそもやっていない自治体、県の主導、私立病院が独自にやっている場合とさまざまです。頻度や対象、継続検査の有無もバラバラです。よって、外部被ばくと内部被ばくの値、両方を各個人ごとに評価し、トータルの被ばく量を計算して地域の値を公表できるのは、ガラスバッジとWBC検査両方ともを市町村主導で行っている場合のみになってしまっています。

実施主体が異なることによる壁、個人情報保護の壁が立ちはだかっています。被ばくの話に限らず、医療の個人情報取り扱いや情報共有について、日本は驚くほど議論が成熟していません。内服薬情報、カルテ共有やクラウドによる電子カルテのバックアップなどもよく似た問題なのですが、まだまだ乗り越えて行くべきことがたくさんあります。放射線に関する情報だから共有しづらいのではなく、もともとITが急速に発達してきた現在、解決されないままになっている問題が明るみに出てきたという印象です。

プロフィール

坪倉正治

2006年3月東京大学医学部卒、亀田総合病院研修医、帝京大学ちば総合医療センター、がん感染症センター都立駒込病院を経て、2011年4月から東京大学医科学研究所研究員として勤務。南相馬市立総合病院、相馬中央病院非常勤医。東日本大震災発生以降、毎週月~水は福島に出向き、南相馬病院を拠点に医療支援に従事している。血液内科を専門、内部被ばく関連の医療にも従事している。

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