イスラーム過激派とは?Q&A

Q6.イスラーム過激派は世界中で監視され取り締まられているはずですが、どのようにして資金や人員を調達しているのですか?

 

たいていの場合、実際に非合法活動を行ったイスラーム過激派の個人や団体は、厳しい監視や弾圧にさらされます。ただし、実際に取り締まりの対象になるような団体に公然と加入して活動する人数は多数ではありません。イスラーム過激派による資金や人員などの資金調達は、さまざまな形態・名目で行われており、はた目から見てすぐにそれとわかるような形では行われてはいないのです。

 

1980年代にアフガニスタンで活動したイスラーム過激派の場合、当時のソ連と闘うため、西側諸国と親西側のアラブ・イスラーム諸国からアフガニスタンへの資源の流れは、事実上奨励・黙認されていました。

 

一方、1990年代以降のチェチェン、ボスニア、そして2000年代のアフガニスタンやイラクの場合、実際に戦闘員として現地におもむいた者は、1980年代にアフガニスタンで活動経験のある者との親族・友人関係といった直接的な人間関係に基づいて勧誘された例が多いようです。イラクや最近のシリアでの事例を分析しても、直接戦地に赴いて戦闘員・活動家となるためには、出発地であらかじめ潜入の経路や受け入れ団体を決めておかないと、潜入は成功しないことがあきらかになっています。

 

それでは、戦闘員や活動家として勧誘される人々は、どのような人々なのでしょうか? 一般には、そうした人々は貧しく、無学な人々であると考えられているかもしれませんが、少なくともイスラーム過激派で指導的な地位にある人々はそうではありません。アル=カーイダで著名なウサーマ・ビン・ラーディンはサウジアラビアの富豪の出身でしたし、アイマン・ザワーヒリーはエジプトの名望家出身で、元々は医師でした。

 

イスラーム過激派が何らかの政治的主張を掲げている以上、その構成員は自分の周辺や世界の政治・経済・社会情勢に関心を持ち、それなりに思考を巡らせなければ、「イスラーム過激派の一員となる」、という選択をすることができません。本当に貧しく無学な人々は、日々の暮らしに追われて周囲の政治・経済・社会状況に関心を持つことができませんし、仮に関心があったとしてもそれをどのように表現していいのかわからないため、本当の意味でイスラーム過激派の構成員になることはできません。

 

一部のイスラーム過激派により自爆攻撃の実行者として貧しく無学な者が勧誘される例がありますが、そのような者は文字通り「鉄砲玉」であり、組織の重要な構成員とはなりえません。となると、実はイスラーム過激派の人員の勧誘は、貧困や無教養よりも、政治的自由・表現の自由が無いところの方が容易だということができます。政治や表現活動の自由がある社会の場合、イスラーム過激派が行う非合法活動に加わる以外にも個人・団体が政治的主張をする選択肢はたくさんあります。非合法活動以外に政治的主張をすることができない社会に住む人々が、よりイスラーム過激派に惹きつけられやすいのです。

 

イラクに潜入したアル=カーイダの外国人のうち、約半数はサウジアラビア人でした。最近のシリアに潜入した外国人戦闘員の中では、チュニジア人とリビア人の割合が急速に伸びています。いわゆる「アラブの春」によって「独裁者」を放逐したはずの両国でイスラーム過激派戦闘員の志願者が伸びているのは、実に皮肉な現象です。両国ではイスラーム過激派の活動の自由さえもが認められるようになったのか、あるいは期待されたほど政治や表現の自由が確立されていないのか、いずれにせよ、いわゆる「アラブの春」の実態について批判的に考察する必要があります。

 

一方、イスラーム過激派による資金調達や広報活動は、宗教団体や慈善団体を通じて行われている場合があります。

 

「ジハード」とは、戦闘に参加することだけでなく、ムスリムとして正しく生きるためにさまざまな努力に励む、ということを意味する用語です。つまり、直接戦闘に参加しなくても、資金集めや広報活動で実績を挙げれば、イスラーム過激派として立派な活動家として評価されうるのです。紛争地には人道支援が必要となることが多いですが、イスラーム過激派もそうした需要に応じるよう装って紛争地に浸透したり、各地で資源を調達したりしている例があります。そうした活動を行うものとして、サウジアラビア、カタル、クウェイト、パキスタンなどで具体的な個人や団体名が挙げられています。

 

このようなイスラーム過激派の活動は、本来国家権力が一律に取り締まるべきものかもしれませんが、実態は異なります。個々の国毎に取り締まりのための体制や能力も異なりますが、政策的に一部の活動を黙認したり奨励したりする国もあるようです。そのような国は、本来自国の政府に向けられるイスラーム過激派の資源を、黙認や奨励によって自国の外の紛争地に誘導し、自国の国内でのイスラーム過激派の弱体化を図る、という手法が用いられているようです。

 

最近の具体例では、「イスラーム的マグリブのアル=カーイダ」が、チュニジアの若者たちに対し他国(=シリア)にジハードに赴くのではなく、チュニジアに留まって自派の下に結集するよう呼びかける声明を出すなど、マグリブ諸国の事例が注目されます。

 

イスラーム過激派の中での女性の役割も無視できません。イスラーム活動家諸派の間での女性役割についての意見は、イスラームの教えを厳格に解釈して家庭の経営や子女の教育に専念させるべき、というものから、自爆攻撃要員として用いることに躊躇しないものまで多様です。しかし、最近の展開で憂慮すべき事例として、「結婚ジハード」と称する行為があります。

 

これは、シリアで活動するイスラーム過激派の間で公然と行われるようになった行為で、さまざまな場所で女性を勧誘してシリアに送り込み、「婚姻」を通じて現地のイスラーム過激派戦闘員の性的欲求を充足させるという行為です。こうした行為は、ムスリム一般は無論のこと、イスラーム過激派の間でもほとんど認められない特異なイスラーム解釈・実践で、シリアでの反体制武装闘争やイスラーム過激派の活動の道徳的堕落の典型例として、彼らの活動史の汚点となるでしょう。

 

 

Q7.「アラブの春」と称されるアラブ諸国の政治変動は、イスラーム過激派にどのような影響を与えたのでしょうか? 今後イスラーム過激派はどのようになるのでしょうか?

 

2011年の春先は、いわゆる「アラブの春」がアラブ諸国の社会に好影響のみを与えるとの非常に楽観的な見通しが主流でした。イスラーム過激派については、各国での政治や言論の自由が拡大する結果、政治活動の選択肢が増え、イスラーム過激派が採用するような非合法の武装闘争によって政治的主張をしようとする人々が劇的に減少するとの見通しが立てられました。そして、2011年5月にビン・ラーディンが殺害されたことと併せて、イスラーム過激派の時代は終焉を迎えたとさえ言われました。

 

いわゆる「アラブの春」によって、イスラーム過激派の扇動や宣伝への関心が著しく低下したことは事実でしたが、実際の情勢は、上記のような憶測や期待とは異なる様相を見せました。例えば、いわゆる「アラブの春」の後にチュニジア、モロッコ、エジプトで行われた国政選挙では、イスラーム主義の政党が第一党の座を獲得し、政権与党となりました。

 

また、一部の国では、そうした政党よりもさらに厳格なイスラーム解釈をする、俗に「サラフィー主義政党」と呼ばれる政治勢力が勢力を伸ばしました。さらに、2012年9月には、アメリカで製作された預言者ムハンマドを冒涜する動画に対する抗議行動として、チュニジア、リビア、エジプトでアメリカ大使館・領事館がイスラーム主義者によって襲撃されました。

 

ただし、こうした動きをイスラーム過激派の伸長とみなすのは早計です。ここで言及したサラフィー主義政治勢力、イスラーム主義者は、いわゆる「アラブの春」によって政治活動やデモを行う自由を獲得しましたが、彼等は本質的には現存する国家と政治過程を所与のものとし、その中での勢力拡大・権益獲得を目指す人々です。この点は、既存の国家と政治過程を打倒しようとするイスラーム過激派の思考・行動様式と著しく異なります。このため、イスラーム過激派は、いわゆる「アラブの春」後のイスラーム世界において、宣伝・扇動の効果が見込めない苦しい状況に置かれていました。

 

イスラーム過激派の今後を予測する上では、2013年7月のエジプトでのクーデターのような、選挙で勝利したイスラーム主義者が違法な手段によって政権から放逐される事例が重要です。こうしたできごとは、イスラーム過激派の支持者になるかもしれない人々の間で、「選挙や政治過程に参加しても自分たちの政治的主張はかなわない」という機運を醸成しかねません。イスラーム過激派は、そうした人々に対し「現状打開の唯一の手段は武装闘争によって親米勢力や世俗主義者を打倒し、イスラーム法による統治を実現することだ」と宣伝する好機を得るわけです。こうした扇動が成功しやすい政治情勢が続けば、イスラーム過激派が資源を獲得し、積極的に活動する環境が整うでしょう。

 

サムネイル「Osama bin Laden portrait.jpg」English: Hamid Mir

http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Osama_bin_Laden_portrait.jpg?uselang=ja

 

 

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