気象災害の犠牲者はなぜ減らないのか

20年前のことを思い出してみてほしい。村山内閣が発足し、松本サリン事件が起こった頃である。当時はまだ、インターネットが現在ほど普及しておらず、このようなニュースも多くの人がテレビや新聞、ラジオで知った。気象情報についても同じように、当時はテレビやラジオを通じて知ることが一般的であった。

 

現在はインターネットを使って、観測されたばかりの気象データやレーダ画像を、誰もがリアルタイムで見られるようになっている。

 

一方、コンピューターの性能もこの20年で飛躍的に進歩した。スーパーコンピューターの演算速度は、20年間で約10万倍になったといわれている[*1]。コンピューターの進歩により、ドップラーレーダーをはじめとする新しい気象データをリアルタイムで処理し、予報に活用できるようになった。このことは、天気予報の適中率を着実に向上させている[*2]。

 

[*1] Top 500 super computer sites: “Performance Development”. 

 

[*2] 気象庁:「天気予報の精度検証結果」

 

その一方で、気象災害の現場では、相変わらず不意打ちの豪雨や強風によって多くの命が奪われている。図1を見ていただきたい。気象災害による死者・行方不明者の数は、少なくとも最近20年、減少傾向は見られない。つまり前述した科学技術の進展は、必ずしも気象災害の犠牲者の軽減にはつながっていないのである。

 

本稿では、科学技術の進歩が気象災害の軽減につながっていかない原因について考えてみたい。

 

 

図1.気象災害(風水害と雪害)による年間の死者・行方不明者数。データは平成26年版防災白書[*3]による。

図1.気象災害(風水害と雪害)による年間の死者・行方不明者数。データは平成26年版防災白書[*3]による。

 

[*3] 内閣府「平成26年版防災白書 付属資料」

 

 

激しい気象の予測は未だ困難

 

災害が起こる前にその発生が予測され、住民が安全に避難することができれば、気象災害を未然に防ぐことができる。現在の予報技術では、どの程度災害の発生を予測できているのであろうか。

 

図2は、2013年台風26号による伊豆大島付近の大雨について、予測値と実際の雨量を比較したものである。10月15日18時を初期値とした予測では、相模湾から房総半島にかけての広い範囲で150ミリを超える大雨が発生することが予測されている。しかし、予測された雨量は最大317ミリであり、実際に伊豆大島で解析された雨量(652ミリ)よりもはるかに少ない。また強い雨域は実際よりも北西側にずれている。

 

このように「激しい雨が降るかどうか」という予測はある程度可能になってきているが、「どの市町村に何ミリの雨が降るか」という量的な予報は、最先端のコンピューターを使ったとしても、現在の技術レベルでは未だ困難である。量的な予報が困難であるため、大雨・洪水警報の基準には数値予報の結果が明示的には使われてない[*4]。

 

[*4] 気象庁:「警報・注意報発表基準一覧表」

 

図2.2013年10月15日21時から16日9時までの総雨量の分布。(a)は実際の雨量(解析雨量)、(b)は気象庁メソスケールモデルによる予測値(初期値は10月15日18時)。

図2.2013年10月15日21時から16日9時までの総雨量の分布。(a)は実際の雨量(解析雨量)、(b)は気象庁メソスケールモデルによる予測値(初期値は10月15日18時)。

 

 

 

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