気象災害の犠牲者はなぜ減らないのか

住民の防災意識の問題

 

前述したように、現在の技術レベルでは激しい気象の発生を事前に予測することは困難である。したがって災害から逃れるためには、時には住民一人一人が自ら判断して行動することが必要である。

 

ところが、ある土地に激しい気象災害が起こるのは、数十年から数百年に一度であるため、住民が激しい気象の発生を全く想定していない場合が多い。「まさかこんなことが起こるとは」というのは、被災地で異口同音に聞かれる言葉である。

 

住民一人一人が、その土地で起こり得る災害について常に想定し、行動計画をもっていることが望ましい。そのために重要なことは、その土地で過去に起こった災害を知っておくことである。過去に起こった自然災害は、もう一度起こる可能性がある。

 

一方、気候変動に伴って、かつて経験したことの無い災害が発生する可能性もある。

 

首都圏では、内閣府によって大規模水害の発生について詳細なシナリオが作成されている[*12]。首都圏以外でも同様の災害シナリオを整備し、それに沿って住民がトレーニングしておく必要がある。そのためには、気候変動を考慮した可能降水量マップを国が整備し、それに基づいて各自治体が災害シナリオを作成して、住民の参加のもとで避難トレーニングをする必要がある。

 

[*12] 中央防災会議 大規模水害対策に関する専門調査会「大規模水害対策に関する専門調査会報告 首都圏水没~被害軽減のために取るべき対策とは~」平成22年4月。

 

 

さいごに

 

以上をまとめると、気象災害の犠牲者が減らない理由は、以下の4点にあると私は考えている。

 

 

1) 住民が余裕をもって避難できるタイミングで、災害を引き起こす激しい気象を予測する技術が、まだ確立していないこと

2) 気象災害が発生した時、時々刻々と変化する災害の状況を、防災担当者が充分に把握する手段がなく、現場が混乱しがちであること

3) 水害が起こったとき、避難する経路がなく、住民が「避難したくてもできない」という状況が発生していること

4) 気象災害は、ひとつの場所ではまれにしか発生しないため、住民が激しい気象の発生を想定しておらず、避難が遅れがちであること

 

 

最後に気象予測に関する最近の取り組みを紹介したい。現在、首都圏に稠密な気象観測網を展開し、激しい気象の予測精度を高めていく国際共同研究が進んでいる(TOMACSプロジェクト[*13])。首都圏には「XバンドMPレーダ」[*14](250メートルメッシュ、1分間隔で降水量を高精度で観測するレーダ)をはじめとする、世界にも例のない観測網があり、気象予測のためのテストフィールドとして世界の研究者の注目が集まっている。

 

[*13] Tokyo Metropolitan Area Convection Study for Extreme Weather Resilient Cities (TOMACS). 

 

[*14] 防災科学技術研究所「Xバンドマルチパラメータレーダ」。

 

図4.高感度雲レーダ、XバンドMPレーダを活用した積乱雲観測のイメージ

図4.高感度雲レーダ、XバンドMPレーダを活用した積乱雲観測のイメージ

 

 

一方、激しい気象のメカニズムについては未解明な点が多い。特に積乱雲の発生過程については、雨粒をターゲットとする従来の気象レーダでは観測することができないため、ほとんど何も分かっていない。防災科学技術研究所では、積乱雲を発生初期から観測できる「高感度雲レーダ」の整備を進めており、その活用によって、積乱雲の発生機構の解明と、その予測手法の高度化を計画している(図4)。

 

最先端の気象観測技術および予測技術が、気象災害の軽減に貢献できるよう、さらなる気象学者の努力が必要である。

 

 

 

気象災害を科学する (BERET SCIENCE)

著者/訳者:三隅 良平

出版社:ベレ出版( 2014-05-22 )

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単行本 ( 271 ページ )

ISBN-10 : 4860643941

ISBN-13 : 9784860643942


 

 

 

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