「棄民から帰民へ」 ―― 広域避難者にこそ社会的包摂の手立てを

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原発避難

 

「帰民」、そして社会的包摂から、ほど遠いところに置かれているのが福島の避難者たちだ。東京電力福島第1原子力発電所の事故で、県外避難は6万人を超え、福島県の人口は30年後に半減するとの推計値さえ出ている。一方、「ふるさとへ戻る人vs戻らない人」「東電の賠償をもらっている人vsもらっていない人」「子どもの放射線被曝を心配する人vsふるさとの復興を第一と考える人」「強制避難の人vs自主避難の人」……。先が見通せないまま、県民間の離反は次第に修復困難となり、放射能汚染へのストレスは人々の心身を蝕む。

 

しかし、政府は早々と原発事故収束宣言を出し、除染地域への帰還と東電賠償という枠組みの中に「フクシマ問題」をすべて封じ込め、原発問題は全国民にとっての宿痾(しゅくあ:不治の病)という命題を消し去ろうとしているように見受けられる。

 

われわれは原発事故のメカニズムを徹底して解明するよう求めていくとともに、福島県にとどまる人、福島県に戻る人、福島県から去る人、それぞれの人権と未来が尊重される制度的・社会的枠組みを構築するため、さまざまな提案・働きかけを強めていく必要がある。

 

 

帰還政策のあやまち

 

まず、問題は、政府が進めようとしている除染―帰還論にある。当初、居住に適さないとして避難を命令、もしくは指示した警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域を再編成し、順次、帰ることが可能な地域を増やして行こうとの発想だ。

 

現在、「帰還困難区域」「居住制限区域」「避難指示解除準備区域」に線引きを改めつつあるが、事実上、原発事故が収束していないうえ、昨年の爆発事故以降、汚染地域では、決定的な対策は何もとられていない。

 

政府の考える手順はこうだ。まず、放射線量の低い地域に拠点をつくり、周囲を除染しながら、次第に居住可能な地域を増やしいくという。たとえは悪いかもしれないが、この方式は、落下傘部隊が敵地に降下し、周囲を制圧しながら、支配域を拡大していくようなものだ。しかし、一つ間違えれば、先発組が除染も済んでいない地域のまっただ中で立ち往生し、孤立してしまうこともあるだろう。

 

福島大学が2011年秋、福島県双葉郡8町村の協力を得て避難住民の悉皆調査をしたところ、「帰還の意思がない」と答えた人は全体の3割弱。年代が下がるに連れて、その割合は増え、34歳以下では50%を超えた。戻らない理由(複数回答)をみると、トップが「除染が困難」で83.1%、次いで「安全レベルが不安」65.7%、「原発収束に期待できない」61.3%だった。

 

野田佳彦首相は2011年12月16日夕方に開いた記者会見で、東京電力福島第1原子力発電所の1~3号機の原子炉が「冷温停止状態」を達成したとして、原発事故の収束を宣言した。しかし、政府の発表を信じている福島県民はほとんどいない。除染も放射能で汚染された土や葉っぱの場所を移すだけ、つまり、「移染に過ぎない」として、不信感をあらわにしている。

 

ただ、「すぐにでも戻りたい」と答えている階層もいる。おおむね年齢が高くなるほど、割合が多くなっており、80歳以上で1割強、65-79歳で1割弱となっている。これまで三宅島噴火災害(2000年)や新潟県中越地震(2004年)、能登半島地震(2007年)の被災地でも、災害前に比べ、帰還する階層は高齢化・単身化・病弱化・年金依存の割合が増えるという傾向をみせている。このままでは、高齢者だけが汚染地域のうち限られた除染地域で孤立するという、新たな「棄民政策」が進められることになりはしないか。

 

そもそも一年間も立ち入りが規制されてきた地域のインフラがそのまま使えるかどうか疑問だ。「埋め殺し」という物騒な行政隠語がある。インフラを修復するより、全部埋めたままにしておいて新しく一から作り直す方式だという。双葉地方では、この方式でインフラをやり直すしかないのではないかというのが、行政関係者の観測だ。

 

さらに、下水道に濃縮された放射性物質がたまっているのではないかという指摘がある。もし、そうであるならば、こちらの方がやっかいな問題だ。

 

さらに、帰れたにせよ、仕事として見込まれるのは除染と廃炉作業だ。必要で、大切な仕事ではあるが、危険なうえ、あすの希望を感じさせる仕事ではない。必然的に高齢者たちが取り組むことになるだろう。若者たちは積極的な雇用創出がなければ、やはりふるさとを見限ることになる。

 

つまり、政府の進めようとしている方式では、事態の改善にはつながらない。除染地域に「何としてでも帰る人たち」と「帰ろうとはしない人たち」との間にある溝は決して埋められることはなく、固定化され、分断化される恐れさえあるのだ。

 

では、どうすればよいのか?

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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