「棄民から帰民へ」 ―― 広域避難者にこそ社会的包摂の手立てを

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自主避難という概念

 

問題は「自主避難者」と呼ばれる人たちの処遇だ。被災者支援台帳(被災者カルテ)やふるさと県民カードなどのシステムは、元の自治体が広域避難者を把握し、漂流を防ぐ手段だが、避難者を受け入れた自治体にとっても避難者の把握はさまざまな支援行政を実施していくうえで必要だ。

 

ところが、現行法で地域外へ避難した人たちを被災者と識別する方法は、二種類の証明書しかない。住宅が全壊か大規模半壊した人に交付される「罹災証明書」と、災害対策基本法や原子力災害対策特別措置法に基づいて避難している人たちに出される「被災証明書」である。被災証明は、一般的には家屋以外の被害に対して用いられているが、今回の広域避難の場合は、行政の指示で避難を余儀なくされた地域の人たちに発行されている。

 

しかし、放射線の被曝線量が高くても、行政が避難を指示しなかった地域の人には被災証明が出ず、結果的に自主避難となってしまった。といいながら、一方で政府の原子力損害賠償紛争審査会は「自主的避難等対象区域」を設け、被災証明が出ていない地域についても賠償を行うとした。しかし、である。ここでも新たな線引きが行われ、福島県内でさえ、賠償が認められる自主避難地域と、賠償が認められない自主避難地域ができてしまった。

 

この複雑さは、全国で避難者の分断と混乱を招いている。

 

例えば、当初、公営住宅や「みなし仮設住宅(借り上げ民間賃貸住宅)」への入居受け入れに当たって罹災証明か、被災証明を所持していることを条件とした自治体も少なくなかった。ところが、大震災の発災直後は混乱状態にあり、多くの自治体は福島県からの避難者については、ほぼ無条件で公営住宅などで受け入れた。ところが、その後、被災証明が出ない地域の人たちを受け入れたことが判明。退居を要請するかどうか、避難者の線引きに頭を痛めるというケースが多々見られた。

 

自主避難の人たちの悩みもつきない。

 

「身内から、国が言っていることに逆らうのか。そういう風にも言われたんです」「非国民とすら言われることもあったんです」。さまざまな独白がブログに綴られ、支援団体の交流集会で語られる。

 

自主避難した人は、ある程度お金に余裕があるのではないかという陰口は、阪神・淡路大震災で兵庫県外へ避難した人たちについてもささやかれた。朝日新聞の記事に次のような記述がある。

 

 

「当時、広域避難者はただの転居者同然に見なされ、家賃補助などの支援策はもちろん、情報提供もないまま、事実上放置されていた」(1999年1月10日付朝刊日曜版)

 

「県外避難者とは、震災後に被災地を離れ、今もその地に住み続けている人たちのことだ。“生活に余裕がある人たちだったのではないか”と思う人がいるかもしれない」(2000年5月6日付夕刊第2総合面)。

 

 

世間的には、こんな誤解が一般的だった。当時、立ち上げられた阪神・淡路大震災の県外被災者支援団体、市外・県外避難者ネットワーク「りんりん」の会報には、こんな声が掲載されている。

 

 

「県外へ避難している者は、もはや被災者ではない扱い」(52歳女性、大阪此花)

 

(神戸市)東灘対策本部の職員から「避難所を出て自主独立した人は借金もかい性のうち」と言われた(52歳男性、門真)

 

被災地の職員「わたしどもは自力で市外、県外へ出ていかれた方は経済的にも恵まれた方だと認識しております」「勝手に出ておいて今更、めんどうは見られない」

 

相談所では「兵庫県以外の人まで面倒みられない」と言われた(1996年9月のフォーラム「帰りたい、帰れない」から)

 

 

政府は、阪神・淡路大震災から何も学んでいないのだろうか。とりわけ、今回の原発事故のように、実際の放射線量ではなく、人為的な線引きで法的な避難と自主避難とを区別したやり方は非人道的であり、稚拙であり、誤りである。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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