「棄民から帰民へ」 ―― 広域避難者にこそ社会的包摂の手立てを

▶シノドスの電子メールマガジン「αシノドス」

https://synodos.jp/a-synodos

▶英語の「話し方」教えます!「シノドス英会話」

https://synodos.jp/article/23083

雇用対策と個人情報の共有

 

阪神・淡路大震災では、情報の途絶が、県外に避難した人たちとふるさととの絆を絶やす原因となった。現在、福島県では大型量販店に「ふるさと絆情報ステーション」を設置、避難を強いられている自治体からの情報などを掲出、展示することを計画している。

 

一方、東日本大震災における被災者支援活動に携わるNPO、NGO、企業、財団、社団、協議会、機構などのセクターをつなぐ災害支援のためのネットワーク組織として結成された「東日本大震災支援全国ネットワーク」(JCN)は、全国各ブロック単位にハブとなる支援団体を見つけ、ハブ団体を核にして、さらにブロック内のネットワークをつくる構想を練っている。また、「とみおか子ども未来ネットワーク」のように一つの町単位で、「子育て世代」を中心にメーリングリストなどによって、ゆるやかなつながりをつくる努力も始まっている。

 

とはいえ、ネットワークの基本は顔の見える関係を築くことだ。三宅島噴火災害でもパソコンを配って電脳三宅村をつくろうとした東京都に対し、あるボランティア団体はファクスを配った。それも、わざと約10世帯に1台の割合で配備した。情報が流れるたび、ファクスのある家にみんなが集まる。あるいは世話係がニュースを持って各世帯を訪ねる。その顔の見える関係こそが大切だという発想からだった。

 

そこで避難先ごとに福島県人会を組織し、このうち数人を福島県や避難元自治体とのリエゾンオフィサー(連絡官)として採用する。雇用対策にもなるうえ、将来、避難先で自立していく人たちの支えともなるはずだ。

 

ただ、その場合、障害となるのが避難住民の個人情報問題だ。避難先自治体と避難元自治体、受入自治体と支援団体、受入自治体と避難者間で、名簿を共有することがネットワークを形成するうえで必須だが、まだまだ情報の提供は一部の自治体にとどまっている。

 

災害弱者の救援にあたって個人情報の提供が検討されているが、社会的弱者と被災者は平時の法体系では別個の存在で、ひとくくりにする法律が見あたらない。しかも、主務官庁がどこになるかはっきりしないだけに、どの省庁もこの問題には消極的だ。各自治体が個人情報の審議会にかけ、個別に公開を認める方式もあるが、なにより情報の提供を求める支援団体の存在が前提となる。さらに、当該団体が的確に個人情報を管理できるという行政の信頼を得ていることも不可欠なだけに、にわかに結成された団体では難しい。

 

東京都渋谷区は、震災対策総合条例を設け、個人情報保護条例の除外規定を設けている。国法レベルでもこのような対策が必要だろう。

 

 

避難者援護会の設立を

 

今、議論されているのは、せいぜい災害救助法が適用されている期間の支援策だ。今後は、東電の賠償問題がクローズアップされてくるだろう。しかし、原発事故の補償で、この問題が終わるわけではない。賠償は過去の償いに過ぎない。賠償の次のステップとして、人生の軌道を狂わされた人たちの再出発、再起を支える仕組みをつくらなければならない。

 

昭和30年代の初め、大量の炭鉱離職者が出ることから、炭鉱離職者の再就職や生活の安定を図るため、炭鉱離職者臨時措置法が制定され、この法律のもと「炭鉱離職者援護会」が設置された。この法律を下敷きにした「原発避難者臨時措置法」の制定と、「炭鉱離職者援護会」や森永ヒ素ミルク事件での「ひかり協会」をモデルにした「原発避難者援護会」を、国や東電、電気事業連合会の出資で設立し、原発避難者の支援に当たらせる必要がある。

 

支援内容は以下の通りだ。

 

1.原発避難者が他の地域に移住する場合に、移住資金を支給すること。

2.原発避難者が職業訓練を受ける場合に、手当を支給すること。

3.事業主が原発避難者を雇用する場合に、当該労働者用の宿舎を貸与すること。

4.原発避難者に対し、再就職のために必要な知識や技能を習得するための講習を行うこと。

5.原発避難者の求職活動に協力すること。

6.原発避難者が独立して事業を行おうとする場合に、生業資金の借入の斡旋を行うこと。

7.原発避難者に対し、生活の支援を行うこと。

8.その他、上記の各業務に附帯する業務を行うこと。

 

援護会の設置は時限立法になるだろうが、最低でも10年は必要だ。生活支援の制度設計にあたっては「平成3年(1991年)雲仙岳噴火災害に係わる食事供与事業」や「平成12年度有珠山噴火災害生活支援事業」「三宅村災害保護特別事業」など、これまで実施された長期避難者に対する生活支援事業が参考になるだろう。

 

1 2 3 4 5 6 7 8 9
シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

・外山文子「タイは民主化するのか?」
・中西啓喜「データサイエンスは教育を「良い方向」に導くのか?――学級規模の縮小を例として」
・笠木雅史「実験哲学と哲学の関係」
・穂鷹知美「求む、国外からの介護福祉士――ベトナムからの人材獲得にかけるドイツの夢と現実」
・久木田水生「ロボットと人間の関係を考えるための読書案内」
・吉野裕介「【知の巨人たち】ハイエク」
・内田真生「ヒュッゲ(Hygge)とは何か?――デンマークが幸せの国と言われる理由」