「棄民から帰民へ」 ―― 広域避難者にこそ社会的包摂の手立てを

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セカンドタウン

 

広域避難した人たちの支援と同時に、避難した人たちが故郷に戻れるような環境づくりも考えなければならない。政府が考えている二段階帰還論には不信感が強く、問題の解決にならないことはすでに述べた。福島大学が実施した福島県双葉8か町村の悉皆調査では、若い人ほど「戻らない」と答えた割合が多かったが、そもそも回答した絶対数が壮年層に比べて極端に少ないだけに、態度を決めかねている人たちも多いとみるべきだろう。

 

そこで、さまざまなところで議論されているのが、福島県内の被曝線量が低い地域に新しい居住地を設ける案だ。「セカンドタウン」「仮の町」「町外コミュニティ」などと呼ばれており、使う人によってイメージが異なるだけに、概念の整理と実現のための制度設計が必要だろう。

 

このうち「セカンドタウン」は、いわば領土割譲だ。新たな自治体の建設で、ほかの考え方とは法制度面でも町の運営面でも大きく立場を異にする。かつて19世紀末に奈良県十津川村の人たちが水害をきっかけに北海道空知地方に入植し、原野を切り拓いて「新十津川村」を建設した例はあるが、戦後、我が国では合併はあっても、すでに境界が確定している自治体の一部を割いて新たな自治体をつくった前例はない。

 

それだけに新たな立法が必要となる。例えば地方自治法に「分割自治区」という新たな特別地方公共団体の制度を設ける。もちろん、分割する自治体に迷惑をかけないよう山林原野を切り拓いてニュータウンをつくるか、すでに開発されてはいるが利用されていない遊休地を利用することになる。ニュータウンの建設には、津波防災地域づくり法を活用してインフラを整備し、住宅は災害復興公営住宅で建設する。

 

一方、国は、汚染され住めなくなっている元の町を借り上げ、その支払うべき賃料を分割自治区を受け入れた自治体に交付する。いわば分割される自治体への迷惑料である。また、元の町(ファーストタウン)へ帰られるようになっても、セカンドタウンが無人のデッドストックとならないよう半永久的に2地域居住とする。

 

次に「仮の町」だが、こちらはニュータウンを造成するものの、地方自治法上の自治体ではない。あくまで受入自治体の地域内に間借りをする格好である。したがって、ファーストタウンの除染が済めば、帰ることになる。ゴミ処理や上下水道などは、間借りしている自治体に使用料等を支払うことになる。一部事務組合をつくり、共同で処理する方法もあるだろうが、仮の町の一番の問題は、住民がファーストタウンに移住したあと、がら空きになった街の活用方法だ。

 

浪江町が復興計画の中で打ち出している「町外コミュニティ」は、実現の可能性がもっとも高い。現在、各地に分散している住民を、なるべく役場が避難している二本松市の中心部、数カ所に集め、顔の見えるコミュニティを形成しようとの考え方だ。三宅島噴火災害の折、東京都に分散避難した島民たちが、次第に口コミで島民が多く住むエリアに集まってきた方式を人為的に創出しようとの戦略である。この場合、既存の町並みを活用するから、おそらく復興公営住宅を限定的に集中建設するだけで実現可能だろう。

 

このほか、帰還困難区域については隣接の南相馬市やいわき市などと合併し、合併特例法に基づく「地域自治区」として旧町名を維持する。元の地域は当面住めないから、合併先の街に住居を構え、何十年先かに帰還可能となれば、合併を解消して、元の自治体に戻るという方法もあるだろう。この場合は、現行法を適用するので、比較的、実現が容易だが、分離のための制度が新たに必要となる。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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