あなたの思う福島はどんな福島ですか?――ニセ科学とデマの検証に向けて

海外に広がる偏見と風評被害

 

国内でさえ情報のアップデートが遅々として進まず、デマが蔓延している状況ですから、海外ではなおのことです。先月、2016年7月には、写真家を名乗るマレーシア人の方が、避難区域内の住宅や店舗などに無断で侵入して撮影した写真が波紋を拡げました。

 

彼はこの写真をレッドゾーン、「福島の立ち入り禁止区域の、今まで誰も見たことのない写真」と書きました。しかし、実際には周囲に復興に関わる人や車が毎日たくさん往来している騒がしい場所で、「誰も見たことないような」場所ではありません。しかも、この近辺で作業をしている人たちで、今も防護服や全面マスクを着用しているような人は誰もおりません。いちえふ(東京電力福島第一原子力発電所)敷地内ですら、そうした装備が不要のエリアは拡大しています。

 

彼は現場までの道中にその光景を必ず見ているはずですし、彼自身も半ズボンというラフな格好のまま侵入しています。つまり、彼は意図的に人や車が写らないようにして、「半ズボンにガスマスク」という放射線防護の意味すらなさない珍妙な出で立ちで、被災者の住居などに不法侵入した上に、自分に都合の良いシーンだけを切り取る演出で「ドラマ」を作り、それを世界に発信したのです。

 

 

画像11

 

 

彼が事実の断片を切り取って創作した「ドラマ」に対しての検証と反論は、福島県在住の外国人の方々が率先して行って下さいました。詳しくは以下の記事をご覧ください。

 

(参照;「マレーシアの写真家「福島の立入禁止区域を撮影」→地域の外国人たちが激怒「コスプレで風評流すのやめて」」)

 

しかし、この「写真家」が公開したフェイスブックには、7月14日までに世界中から43000件以上の賛意を示す「いいね!」が付きました。それだけでなく、CNNやガーディアンといった海外主要メディアが、実情を取材や検証することもなく、この「写真家」の創作ドラマをそのまま世界中に報道してしまいました。残念なことに、海外の主要メディアのレベルは今でもこの程度ですが、裏を返せば、このレベルが5年の間に日本国内で行われてきた議論や海外への情報発信の結果でもあるとも言えます。

 

経済的な悪影響も出ています。韓国が2013年から科学的根拠を明確しないまま、日本の水産物に禁輸措置を行った影響で、震災前に生産量の7割を韓国へと輸出していた宮城県の養殖ホヤは販路を失い、育て続けたホヤを最大1万トン規模で廃棄することになってしまいました。この数字は日本一のホヤ水揚げ量を誇る宮城県の、昨年の全水揚げ量約4100トンの倍以上にのぼります。

 

海外からの風評被害は、国内だけで通用する「フクシマ」の線引きの範疇にはまったく収まらず、日本全体に及びます。だからこそ日本全体が協力して、今福島で多くの方が必死で努力しているように、「実際の汚染状況や放射線による影響を、主観的な感覚やイメージに頼らず数値化させ、その数値に対してリスクを誰でも客観的かつ普遍的に判断出来る状況を作っていく」必要があるのです。

 

 

東京でのオリンピック開催が決定された際にフランスのアンシェネ誌に掲載された、奇形を揶揄した「風刺画」。内容を踏まえれば、差別的に侮辱している対象が福島だけではなく、「東京」とそのオリンピックも含まれていることに気付かされます

東京でのオリンピック開催が決定された際にフランスのアンシェネ誌に掲載された、奇形を揶揄した「風刺画」。内容を踏まえれば、差別的に侮辱している対象が福島だけではなく、「東京」とそのオリンピックも含まれていることに気付かされます

 

 

情報発信への動き

 

まだまだ充分なレベルだとは言えないものの、海外への情報発信もされはじめています。

 

福島の地元紙の1つ、福島民報新聞社は「Disaster and Nuclear Accident」(災害と原発事故)のタイトルで英文ページを作り、福島の地元紙として海外への記事発信をしています。

 

昨年は英国のウィリアム王子が「被災者と会わないのでは訪日の意味がない」と、ご本人の強い希望で福島県や宮城県などの被災地を訪問しました。海外の要人としては震災後初めて福島県内に宿泊した上、夕食はすべて福島県産品をお召し上がりになられました。ウィリアム王子、ひいては英国が福島県をどのように捉え考えているのか、それを行動として世界中に強く示すことで支援して下さったと言えるでしょう。

 

(参照;「新潮社フォーサイト2015年03月13日 06:00「外国要人初」ウィリアム王子「被災地1泊」の意味」西川恵)

 

先ほどお話したマレーシア人「写真家」による事件の際にも、多数の反論や事実の検証をして下さった方々のように、震災後にも福島に残り、あるいは留学やビジネスで滞在している外国人の方々も、福島の現状を発信して応援して下さっています。

 

福島大学のウィリアム・マクマイケル氏が語った「福島は死んでいないと伝えたかったんです。たくさんの課題がありますが、それでも復興に向けて人々が頑張っていることを伝えたかった」という言葉や、南相馬在住のクレア・レポード氏の「リスクを伴う予想外の状況に、感情的に反応してしまうことは理解できる。最悪の状況を想定し、噂を広めた方が楽なのかもしれない。だが、誤った情報がもたらす結果について、意識を持つことが何より重要だ。」という言葉は、実際に現地に暮らし、原発事故の被害に真摯に向き合ったからこそ出てきた言葉ではないかと私は感じます。

 

(参照;「ウィリアム・マクマイケル氏 「海外での風評被害を払拭する」新渡戸稲造を目指すカナダ人が福島にいた」)

(参照;「クレア・レポード氏 福島と、「知る」という技術」)

 

これらのような支援が意味するところや、福島に関する情報の実像が、海外でも日本国内でももっと大きく繰り返し報道され、沢山の方に伝わってほしいと私は強く願います。

 

厳しい状況の一方で、明るい兆しも出始めています。福島の日本酒は新酒観評会での金賞受賞数が4年連続で日本一となり、名醸造地として国内外での評価がますます高まってきています。海外への輸出量は、すでに震災前を上回りました。

 

さらには、震災直後から5人組の人気兼業農家グループTOKIOがずっとPRを続けて下さっている福島の桃のタイ向け輸出は今年、昨年の約15倍となる約20トンが出荷されることになりました。マレーシア向けも百貨店などでの好調な売れ行きを受けて、昨年の約2倍の13.5トンの輸出が予定されています。

 

こうした流れを本格的な軌道に乗せていくためにも、国内外に向けてさらなる情報の発信が不可欠です。

 

 

あなたの思う福島はどんな福島ですか?

 

2016年3月11日で、東日本大震災から5年となりました。その翌日となる3月12日、大手新聞各社の朝刊に掲載された福島県からのメッセージ広告を最後に添えて、この記事の終わりとさせていただきます。

 

悲しいことも、悔しいことも沢山ありました。しかし、それ以上の温かい応援の方がずっと多いこと、素晴らしいご縁を頂けたことを改めて思い出す、私にとってはそんなメッセージです。今回の文章で私がお伝えしたかった内容も、最終的にはここに集約されます。

 

一人でも多くの方に、これらの言葉に込められた想いが真っ直ぐに伝わることを願ってやみません。

 

 

あなたの思う福島はどんな福島ですか?

福島県という名前を変えないと、復興は難しいのではないかと言う人がいます。

海外のかたのなかには、日本人はみんな、防護服を着ていると思っている人もいるそうです。

あなたの思う福島はどんな福島ですか?

 

福島にも、様々な人が暮らしています。

括ることはできません。

うれしいこと。くるしいこと。

進むこと、まだまだ足りないこと。光の部分、影の部分。

避難区域以外のほとんどの地域は、日常を歩んでいます。

 

お時間があれば今度ぜひいらしてくださいね。

ふらっと、福島に。

いろいろな声によって誇張された福島はそこにはありません。

おいしいものが、きれいな景色が、知ってほしいことが、たくさんあります。

おもしろい人が、たくさんいます。

未来に向かう、こどもたちがいます。

 

あなたの思う福島は、どんな福島ですか?

あなたと話したい。

五年と、一日目の今日の朝。

 

福島の未来は、日本の未来。

昨日までの、あたたかなみなさんからの応援に感謝します。

原発の廃炉は、長い作業が続きます。

名前は変えません。

これからもどうぞよろしくお願いします。

 

ほんとにありがどない。(本当にありがとうございます)

 

福島県

 

 

福島

 

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