復興予算に見る被災者主権

霞ヶ関の論理

 

政府は、2011年7月29日、「東日本大震災からの復興の基本方針」を策定しました。そして「集中復興期間」と位置づけられる当初5年間に要する復興予算を約19兆円と見積もり、同年度1次ないし3次補正予算と2012年度当初予算で計18兆円を計上しました。いまこの復興予算の多くが、被災地の復興との関係が疑われるような事業に便乗的に支出されることが問題となっています。いわゆる復興予算の流用問題です。

 

ちなみに「流用」というと、霞ヶ関は「流用ではない。ちゃんと法律にのっとっている」というので、「転用ですか」と聞くと、「いや、転用でもない」とおっしゃる。というわけで、「便乗ですね」というのがいまのところの私の落としどころです(笑)

 

さて、問題はどの言葉を使用するかではなく、復興と関係ないと思われる事業に予算が投じられていることです。一例をあげると、被災地以外の地域の企業に対する国内立地推進事業費補助金(経産省)、被災地以外の国税庁舎の耐震改修費(財務省)、被災地外の公共事業や施設改修費(国交省)、反捕鯨団体シー・シェパードへの対策費(農水省)、海外の青少年交流事業費(外務省)、東京の国立競技場の補修費用(文科省)、もんじゅを運営する原子力機構の核融合エネルギー研究費(文科省)、武器車両等整備費(防衛省)、刑務所での職業訓練費(法務省)等々があります。

 

霞ヶ関には、その法律が悪法であろうが多くの不備が見られようが、法律にのっとっていればよいという独自の論理があります。今回の問題は、素直な市民感覚に照らしてみれば疑問視せざるを得ない事業が多くあります。また、復興予算の主な財源が今後25年間にわたる増税であることからすれば、国民が憤るのはもっともでしょう。

 

今年の10月に枝野経済産業大臣が、国会でグループ補助金が被災地に届いていないことを指摘された際、「熟度が足らないため」と答弁されました。「熟度とは何か」と追及されたものの、それ以上ははぐらかされ、答えられなかった。私は「熟度が足らない」とは、被災してめちゃくちゃになってしまった商店主は、復旧に手一杯で補助金の申請までたどり着いていないという意味かと最初は思ったのですが、しかし、いまは単純にグループ補助金の申請書の書き方がこなれていないという意味なのではないかと見ています。

 

たとえば立地補助金を申請する大企業の場合、申請書は経済産業省にダイレクトに提出できます。しかしグループ補助金の場合、地域の人が集まって話をし、なんとか合意したものを素人なりに書類にし、市町村に提出します。それを受け取った市町村は、書類を審査し、必要があれば再提出を求め、協議を繰り返したのちに県に送ります。やはり県でも協議をし、それを通過したものがようやく経産省に提出されるプロセスとなっています。

 

ここには現場を見ずに書類しか見ていないことなどいくつか問題がありますが、最大の問題は書類の書き方を知るはずのない人たちを助ける人手がないことです。民間の事業者を支える仕組みができていないんですね。ですからいくら予算がついても同じことが繰り返されてしまう。それを「熟度が足らない」という霞ヶ関の論理がおかしいのではないでしょうか。

 

 

被災者の目線をもった復興予算

 

現在、国会では、衆・参両議院の決算行政監視委員会や行政刷新会議等で、予算の仕分け等も含めた検討が行われつつあります。このような動きが出るのは当然のことですが、しかし議論の舞台が霞ヶ関や永田町ばかりで、そこに被災地や被災者の姿が見えないことがとても気にかかっています。

 

復興予算の検証を行うにしても、被災者不在のままでは正当性は担保されないでしょう。復興予算を語るとき、リアリティを持った被災者の目線が絶対条件です。監視委員会や行政刷新会議、マスコミではなく、むしろ被災地の市民代表等も含めた第三者機関を設置し、検証を行うほうが好ましいと私は考えます。

 

そしてすでに19兆円の大枠を突破することが確実な見通しである復興対策費について、たんなる検証にとどまらせず、疑問視される支出については予算の執行停止や一般予算への振替などを行い、本来の被災地向け予算をあらためて確保しなくてはいけないと思っています。

 

ちなみに今日の話のキーワードのひとつに、「予算の民主化」があげられると思います。いま行政刷新のウェブページには予算内容を国民自身がチェックできるように「霞が関を丸はだか」と称するサイトがあり、各事業のレビューシートを公開し、誰もが事業の点検を行える仕組みができています。しかしわれわれ国民はそれをやってこなかったし、知りもしなかった。そういう怠慢があったことも反省しなくてはいけないと思います。

 

 

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