毎日新聞が取り組む復興に向けた紙面 ―― マスメディアとソーシャルメディアの力を合わせて

震災時にメディアが果たす役割にはどのようなものがあるのか。東日本大震災において、メディアはどんな役割を果たしてきているのか。本記事では、毎日新聞社の小川一記者に、毎日新聞社あるいは小川一記者が、東日本大震災発生後、どのような対応・取材を行ってきたのか。そこで見えてきた成果と課題などを荻上チキが伺っている。地方紙と全国紙の役割、ソーシャルメディアとの役割の違いなど、これからのメディア・ジャーナリズムの可能性を考えるきっかけとなるインタビューとなっている。

 

 

原発事故報道におけるジレンマ

 

荻上 「復興アリーナ」では、東日本大震災での各メディアのさまざまな取材・活動などを検証したうえで、あれこれダメだったと叩くのではなく、「次の災害」の際に参照できる教訓を残していければと思っております。ウェブロンザとのコラボ企画ではありますが、新聞社の垣根は無視して、様々な記者の方にお話を伺っていきたいと思っております。

 

今回の震災では、毎日新聞社ももちろん、被災地ならびに原発事故の周辺区域などで取材を行い、発信をしてきました。そこで、小川一記者にお話を伺います。最初に伺いたいのは、今回の震災の際に、毎日新聞社、および小川記者ご自身が、どのような活動をどのようなタイミングで試み、その活動をどのように評価しているのかという点です。

 

小川 このような企画にお声がけいただき、嬉しく思います。まず全体的なことをお話しましょう。毎日新聞社は、震災後はすぐに対策本部を設置し、水や食料などの物流ロジスティックを立ち上げました。地元の記者たちはもちろんのこと、販売店などの関係施設も被災したため、現地の状況を確認し、ガソリンや物資をトラックに積んで届け、情報インフラを整備しました。報道の基盤確保に関しては、初期にやれるだけのことはやったという実感があります。

 

ただ注意すべき点があります。津波の被災地と原発事故の起きた福島では全く事情が違うということです。今回、我々は被ばく量の上限を事前に設定していたのですが、それでもなお記者をどこまで入れるかという判断は非常に難しいものでした。一部では「マスコミはみんな逃げた」という厳しい意見もありましたが、やはり記者・新聞社としては事実を報道したいと思う一方で、事故の全貌が見えない状態において記者たちの安全を確保する必要もある。だからこそこれは大変つらい批判で、これから議論をしなければいけない課題と思っています。

 

我々マスコミにとって大きなトラウマのひとつに、1991年の雲仙普賢岳の火砕流がありました。この時は死者行方不明者43名を出したわけですが、毎日新聞社も3名の記者を亡くしているのです。今回の福島でも、会社としては記者を守らなければならない。しかしジャーナリストとしては現場にいきたいし、いかなければならない。そのせめぎ合いの中で、どのような判断が最適だったのか、検証しきれていない。今でもそこが、最大の悩みではあります。

 

荻上 過去の災害から教訓として得られたものの中で、今回の震災に活かすことができたナレッジというものはあったのでしょうか。たとえば、阪神淡路大震災の経験から、震災直後、精神医学の分野からも、記者のPTSDにもケアが必要であるといった指摘がありました。後方支援としてメンタルケアを行うといった対策はあったのでしょうか。

 

小川 残念ながら具体的な対策はできていません。PTSDに関しては、私自身も、御巣鷹山の日航機墜落事故の取材の後に経験しており、今回もやはり危惧はしていました。幸い、今の時点では、社内からそのような話は出ていません。

 

 

地方紙と全国紙、それぞれの役割

 

荻上 全国メディアと地元メディアでは報道の内容も役割も大きく違っていたと思います。毎日新聞社は、そうした報道の役割をどのように意識されていましたか。

 

小川 地元紙と全国紙では目線が異なり、我々はそこに暮らす方々の実感を完全に共有することはできません。ただ、我々にできることは、福島で起きていることを福島の中にとどめず、全国に発信することだと認識しています。全国紙と地方紙の棲み分けについては、差異を意識するというよりは、地方紙にできないことを全国紙で補うという認識です。

 

地方紙の記者は彼ら自身が被災者でもあり、同じ目線で寄り添って取材ができます。そうした情感というのは、全国紙記者が到底かなわないものです。全ページを割いて地元のための発信ができるのも、地方紙ならではの特性です。

 

一方、地方の声だけでは、災害の風化とともに霞ヶ関や永田町では忘れられてしまう。我々全国紙の新聞は、毎朝毎夕、総理大臣や省庁事務次官の前に必ず置かれる媒体なので、地方の声をリレーして中央へ届け、中央を動かすという気構えで臨んでいます。

 

荻上 今回、各新聞社が避難所への救援物資として、自社の新聞を届けていました。実際の避難所での反応はどのようなものだったのでしょうか。

 

小川 避難所への新聞の提供は、販売店の被災状況により地域で異なりますが、基本的には被災の翌日、翌々日から開始しました。「情報も支援物資だ」と池上彰さんが指摘したとおり、新聞を持っていくと、皆さん、待ってましたといわんばかりに、次々と手にとっていかれます。そして読み終わると、きれいに畳んで次の人に渡す。スイッチがなくても届く一覧性のあるメディアとして、紙をあんなに大事にして頂き、評価してもらえたことが非常にうれしかったです。

 

荻上 被災地ではいつまで無料での配布を継続したのでしょうか。有料に切り替えたタイミングはありますか?

 

小川 まず、避難所に対しては、終始、無料配布を貫きました。復興に伴い有料にするかどうかの判断は非常に難しい問題です。神戸では阪神大震災の被災者が復興を遂げてもなお、ある日突然有料にするわけにはいかず、苦労した販売店もあったと聞きます。そこは新聞社それぞれ、極端にいえば販売店それぞれの判断です。

 

しばしば誤解されることですが、本社と販売店は、主従の関係にはなく、あくまで同等の立場です。販売店は自身も被災者ですから、現地でしかわからない独自の判断をそれぞれ行っています。なので、本社から「こうしろ」と一元化するものではなく、現場の判断を尊重すべきものだと考えます。

 

 

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