毎日新聞が取り組む復興に向けた紙面 ―― マスメディアとソーシャルメディアの力を合わせて

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ジャーナリストと専門家の連携とは

 

荻上 会見について伺います。初期の原発関連会見については、科学者を中心に、質問のポイントがおかしい、原発や放射性物質について的を外した質問も多かったとの指摘も多くなされました。ならば、会見の場に専門家を動向し、その場で話を聞くという対応は難しかったのでしょうか。

 

小川 記者会見は基本的にジャーナリスト限定のため、許可の面での困難はあるかと思います。また、会見というのはひとつのサッカーゲームのようなもので、全員でチームプレーをしながらいい言葉を引き出すという技術が必要とされます。その点で不慣れな方や専門家が入った場合、自分の意見を滔々と演説してしまったり、余りにも専門的な質問に拘泥し、会見の流れを中断してしまうという事態も起こりえます。

 

しかし一方で、今回の原発問題では、ジャーナリストが専門知識と一般市民の間の伝達を担ったのですが、その領域にもっと科学者の方が入ってきてほしいという思いがあります。それこそソーシャルメディアを駆使し、おかしい点があれば直接指摘してもらえれば、ジャーナリストはそれをふまえて会見に臨めます。

 

たとえば先日亡くなられた弁護士でありジャーナリストの日隅一雄さんの東京電力の記者会見での応答などは、ひとりのジャーナリストがあれほど深い分析をした事実に私も感動を覚えました。あれほど深い話を一般市民に伝え、信頼を得るには、ソーシャルメディアが最適だったのでは推察します。

 

また役割分担という点で思い出すのは、新潟柏崎の原発事故の際の新潟日報の報道が素晴らしかったことです。あの記者はもの凄い知識量と強い看破力を兼ね備えていた。実際に事故現場を経験している記者は経験値が違う。願わくば、彼らに会見で質問をしてほしかった。既存メディアの底力を示すには、そうしたオールキャスト日本代表というようなチームをつくって、会見に臨めたらもっとよかったと思っています。

 

 

いかにプロセスを可視化していくか

 

荻上 今回の記者会見の模様は、ある程度は一般公開もされましたが、情報のフローが過密化しているときこそ、キャッシュ、アーカイブの機能が必要と感じます。新聞社では記事の時限設定が慣例としてありますが、震災のとき対応を変えた点はあったのでしょうか。

 

小川 毎日新聞社ではこれまで紙のPDFを無料で公開することは絶対になかったのですが、震災以降の1か月間は全ての紙面をPDFで閲覧できるよう公開しました。

 

荻上 新聞社にとって、録音データをそのまま公開するというのはタブーに近いと思うのですが、しかし会見にアクセスしがたい人にとっては、現地にいる人がすべての情報を公開してくれたら、記事そのものの検証もできるためありがたいとおもいます。一次ソースの確保が困難な中で、ソーシャルメディアの有効な使い方としても、記事になる前の情報を提供してほしいと思いますが、そうした意識はありますか。

 

小川 仰るとおり、それは今後の僕らの課題だと認識しています。これまでは完成品だけを見せていましたが、現在は、いかにプロセスを可視化していくかが重要と思っています。一次の発表資料や会見の録音をそのままアップし、記事を読んで概要を把握した読者がさらにソースを遡って知りたいことに辿り着ける。そうした仕組み作りを実現したいと思っています。

 

荻上 今回、原発事故による政府不信、東電不信が根強くあり、そこにメディアが加担しているのではないかという疑心が蔓延していたと思います。大本は、データを出す前に安全だという判断だけを示した政府に対する根強い不信であると思いますが、その意味でもプロセスの可視化は今後、メディアにとって平時も含めた大きな課題として残っていくと思います。

 

小川 全く同意です。ニュースソースはもちろん守りますが、たとえばガーディアンの記者やニューヨークタイムズのコラムニストなどは、取材予定を公開してツイートで要人への質問を公募したりしています。そうしたことを積み重ねることで信頼を得ていく。それが重要ではないかと思います。

 

 

既存メディアが情報を独占していた時代は終わった

 

荻上 全国からさまざまな反応があったと思いますが、どんな反応があり、課題があったのでしょうか。

 

小川 原発報道に関しては、リスク論をめぐって、何を書いても誰かから不信がられるという状況がありました。記者の中にも、この程度なら安全だという人から、危険を想定すべきだという人まで幅広い意見がある。この事象に対しては、社として一定の結論を出すのではなく、人に寄り添い、記者の良識の中で現状を伝えていく。その積み重ねしかないと感じています。

 

荻上 具体的に、課題解決のためのプロジェクトなどは画策していたりするのでしょうか。

 

小川 まだ構想の段階ですが、復興に関しては、福島をいかに手助けするのかということに重点をおいた取り組みをしたいと思っています。津田大介さんの「動員の革命」よろしく、ネットで課金をして農家へ寄付したり、あるいはその使い道をみんなで議論するといった展開です。記事を届ける以外の部分でも、何かできないかと考えています。

 

今朝(取材当日)の朝刊で、生活保護の不正受給問題に対し、ネットで資金を集めて新聞で意見広告を掲載するというチャレンジがありました。そうした試みの対象に、新聞という場所を選んでもらえたことは、本当に光栄に思っています。新聞社としても従来の広告単価を大きく下げて紙面を提供し、そうした支援を福島でも行えないかと考えています。

 

それから水面下での構想ですが、福島の農協の方々に話を聞くと、福島の農産物を買ってもよいという人はいるものの、それを他県で売るボランティア等が不足している。そうした課題に対し、全国紙の紙面で募ることはできないだろうかと。特にソーシャルメディアでの展開については、福島の救済を第一に何とかしていきたいと個人的には思っています。

 

荻上 社内で、震災を取材した記者のノウハウを今後に伝えるための取り組みは、行われているのでしょうか。

 

小川 既に朝日新聞社さんが全記録をまとめて発行していますが、毎日新聞社でもいま現在プロジェクトが進行しています。記者全員のアンケート、PTSDなども含めた体験記、反省文を含む全記録をまとめたものになる予定です。一般公開については、今後の判断になります。

 

荻上 最後に、小川さんのように、ソーシャルメディアに前のめりな方が編集局の局長職に就任されたことは、新聞業界でのひとつのサプライズ人事と言われていますが、そこにどのような期待がなされているとお感じになりますか。

 

小川 サプライズという声を私は聞いていませんが、既存メディアが発信手段を独占していた時代とは違い、みんなが発信者になる時代には、全く違う発想の新聞が必要だと思っています。以前、東京地検特捜部も経験した検事総長を取材した際には、従来は東京地検特捜部こそが犯人を逮捕するんだという意識が強過ぎて、失敗例も多々あったと言っていました。そうした失敗例を踏まえて、組織を変えていく必要があると。

 

我々新聞もまさに同じ状況にあります。みなさんが情報を発信できる時代であれば、その流れの中に入り、協力させていただいて、何かを成し遂げる。そうした時代の転換期にあると認識していますので、大事な情報へとアクセスしやすい環境づくりを、微力ながらも実現していきたいと思っています。

 

 

 

 

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vol.265 

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