ビックパレット

つい先日、九月二十九日。福島大学の有志の先生方や、地元の弁護士さんやNPOの方々が呼んでくださって、郡山でお話をしました。電動車いすで郡山駅に降り立つと、新幹線の改札の前には変わらずドトールがあり、駅前のロータリーにはヤンキー風の中高生からビジネスマンまで変わらず人々が行き交っていました。変わったことといえば、ロータリーのど真ん中に、線量計があることでしょうか。

 

郡山駅の東口には、エレベーターがありません。地方都市にもれなく、バリアがたくさん。車で迎えに来てくれた福島大学の職員の人と、JRの職員のおじさんが、車いすを人力で抱え、階段を降りてくれました。

 

福島県は郡山市に、「ビックパレットふくしま」という大きな建物があります。東京の人にとっての幕張メッセのようなものでしょうか。幕張メッセの敷地面積は約21万平方メートルもあり超巨大ですが、「ビックパレットふくしま」は約5万平方メートル。

 

ここは、東日本大震災後に福島県内最大の避難所となりました。一時期、二五〇〇人の避難者の人たちがいました。床一面に、ひと、ひと、ひと。ビニールシートの上に段ボールをひいて、避難して数日は、配られたのは水とおにぎり一個だったと聞きました。行政の機能そのものがダウンしてしまっていたから、どこに誰がいるのか誰にもまったくわからなかったのです。深刻な慢性疾患を抱えている人や、怪我をしてトリアージ(災害時医療の治療優先度)が高いお年寄りもみな、ここに横たわっていました。

 

「あらゆる人がここさいただもの。富岡もいたし浪江もいた。原町から小高から」

 

「なんにも、仕切りもなかったよ。そこさ寝転んだり起きてたりして。若いお母さんなんかは、お乳あげる場所もなかった」

 

今はもう、そんな大変なことが起きていたという形跡はなく。きれいに片づけられていて、一見しただけではここが避難所だったこともわかりません。

 

郡山市のビックパレットの隣には、「南一丁目応急仮設住宅」という仮設住宅があります。福島市内の大学から、この日の講演会の運営ボランティアに来ていた学生さんに「一緒に行きませんか」とダメもとで声をかけました。「わたしたちも、仮設住宅って行ったことがないんです。行ってみたい」と答えてくれました。学生さん二人と一緒に、夕暮れの仮設住宅にお邪魔することに相成ったのです。

 

「南一丁目応急仮設住宅」には富岡町166世帯と、川内村150世帯が暮らしています。おばあちゃんたちが外に出て立ち話をしていたから、「おばんです(こんばんは)」と話しかけてみました。

 

福島第一原子力発電所と福島第二原子力発電所に、挟まれるようにして富岡町という町があります。富岡の東電の関連施設が立ち並ぶ小さな海岸を、土地の人は「小良ケ浜(おらがはま)」と呼びます。おらがはま、と声に出したら、懐かしさにあふれ、同時に、あそこへ行く術はもはや「ない」のだという厳然たる事実を前に、奇妙な感覚におそわれました。

 

おらがはまは、地球上に存在しているのに存在しない土地になってしまいました。帰れない、ということは家を失うということのみを意味するのではありません。何世代にもわたって、爪痕を残すようにしてそこで暮らしてきた人びとの生活の営みが、まるごとすべて消えるということを意味します。

 

「富岡だけで、1万5千人いたんだもの…。これが47都道府県にちらばってんだ、よういてねえ(容易でない)」

 

「逃げてきたうちに、いろんなとこさ行ったから。誰がどこさいるか。わかんねくなっちまったんだよ」

 

仮設住宅に暮らす人にも、「住所」があります。おらがはまに84年間暮らしたおばあちゃんに、文通を申し込みました。受け取った住所のメモには、「郡山市南1丁目94番地 応急仮設住宅●-●」と書かれていました。

 

(本記事は10月31日および11月28日付「福島民友」記事からの転載です)

 

 

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