地域の自然エネルギーを創り出す ―― case.2 静岡

試行錯誤のプロセス

 

環境省の支援プログラムでは、アースライフネットワークと静岡市の担当スタッフがコーディネーターとして体制づくりと事業計画の作成をおこないました。事業の検討プロセスでは数多くの課題が浮上しましたが、そのなかでも下記の3点が主要な挑戦となっていました。

 

第1に、事業規模とコンセプトが確定するまでに多大な試行錯誤をようしたことがあげられます。当初、プロジェクト検討チームは、固定価格買取制の導入を視野にいれ、公共施設の屋根に可能なかぎり太陽光発電を導入することを検討しました。固定価格買取制は、事業者が適正な利益を生み出すことが可能な水準で売電価格を設定しているものの、規模が大きいほどkWあたりの設置コストは下がり、事業が成立しやすくなります。そのため、売電事業としての太陽光発電は1,000kW=1MW(メガワット)を単位とするメガソーラー事業を検討する動きが一般的に多くなっています。

 

このプロジェクトでも、当初は公共施設の屋根を利用した大規模な事業の検討をおこないました。しかし、施設の構造上の問題や過去の防水工事、今後の補修計画などから設置可能な施設はかぎられてくることがわかりました。

 

そこで、コーディネーターたちはこの事業をなんのためにおこなうのか、この事業は市民にとってどういった意味があるのかを改めて考えることになりました。さまざまな議論を積み重ねた結果、固定価格買取制によって進みつつある多くのメガソーラー事業のように事業性を追求して規模を大きくするのではなく、この事業ではひとつひとつが小規模であっても、地域の多くのステークホルダーがかかわり、継続的に市民が自然エネルギーを発展させていくきっかけになることをめざす方針に決めました。

 

このような事業コンセプトにもとづいて、導入可能かつ事業性を確保できる施設に絞り、第1弾事業として先述の3ヶ所約150kWの事業へと規模と設置場所を確定させたという経緯がありました。

 

第2に、公共施設への設置にあたり、行政内部で各部署との連携に多くの議論を積み重ねてきたことがあげられます。長野県飯田市のおひさま進歩エネルギーをはじめとして、公共施設の屋根を利用して民間事業者が太陽光発電事業をおこなう先例はすでにあるものの、ある地域ですでに先例が存在するからといって、かならずしもすべての地域でそれがすぐに可能となるわけではありません。

 

公共施設の屋根の利用にあたっては、事業者の選定方法や使用料金、使用許可期間など、きわめて具体的に詳細項目を定め、行政手続きにのっとって進めていく必要があります。そして、そういった詳細項目や使用条件を具体的に確定させていく作業は、担当部署である環境総務課だけで決めることはできず、管財関係部署や建設関係部署など、多くの部署を横断した調整が必要となります。しかし、官僚制機構である自治体において、そういった部署横断的な調整はかならずしも簡単ではありません。

 

実際に、市行政のコーディネーターが関係部署に事業の相談をおこなったときは、当初はいずれも難色をしめされていました。それでも、コーディネーターがこの事業の目的や公共的な意義、検討の進捗状況を継続して関係部署と共有するなかで、それぞれの役割の必要性が明確になり、最終的には市の公共施設において、しずおか未来エネルギーが優先的かつ低額(原則無料)で利用できるよう、静岡市・アースライフネットワーク・しずおか未来エネルギーの3者で協定書を結ぶにいたりました。

 

なお、これらの調整にあたったコーディネーターは「いままで役所のなかでためてきた貯金(行政内部での信頼関係の蓄積)をすべて使い果たしました」とのコメントを残しています。

 

第3に、理念を追求すればコストが上がり、コストを追求すれば理念を妥協しなければならないというなかで、いかにして両者を統合してビジネスモデルとして成立させるのか、さまざまな知恵と工夫を積み重ねてきたことがあげられます。

 

プロジェクト検討チームは、地域に根差した取り組みを理念にすえて小規模太陽光発電のビジネスモデルを選択したものの、規模が小さいがゆえにメガソーラー事業のような大量一括発注によるスケールメリットが働かず、設備調達コストを下げることは非常に難しいことがあきらかになりました。それでもなんとか設備調達コストを下げるべく、さまざまな可能性を追求し、また、たんに設備そのものの価格だけでなく、長期的なO&M(オペレーション&メンテナンス)まで対応できるパートナーと組むことが重要であるということも考慮した結果、地元企業の鈴与商事による技術協力をえて、事業が成立する水準までコストを低下させることができました。

 

さらに、設備調達コストだけでなく、資金調達コストをいかにして抑えるかも重要な検討ポイントとなりました。プロジェクト検討チームでは、当初から資金調達については工夫する必要があることが念頭にあり、検討の早い段階から「事業評価にもとづく、担保なし・保証人なしの融資」という条件を設定したうえで、複数の金融機関と相談をはじめていました。そして、最終的に先述の静清信用金庫による融資が実現しました。

 

小口市民出資スキームによる資金調達については、まさに理念とコストのジレンマのなかで悩み抜いた末に実現しました。市民出資は、より多くの市民が直接自然エネルギーにかかわることができる「参加の手段」として大きな意義がある一方、ファンドを組成する側から見た場合、一口あたりの金額を大きくして、少ない口数で集めることができれば資金調達コストを下げることができます。しかし、「参加の手段」としての意義を重視すれば、一口あたりの金額を小さくして、より多くの人に出資してもらうことが望ましくなります。そして、その場合は募集口数が増えることとなり、募集口数が増えればその分だけ事務コストも増えるため、当然ながら資金調達コストは上がります。

 

そのようなジレンマのなかで、プロジェクト検討チームは再び事業コンセプトに立ち返り、「この事業ではより多くの市民の参加によってプロジェクトを実現させるべき」との方針を決め、実現可能な水準を見極めたうえで、一口5万円という小口市民出資スキームによる資金調達を実施しました。

 

これらは、あくまでも事業化検討プロセスで浮上した課題に対する挑戦のごく一部なのですが、それでもそこにはさまざまな人々の知恵と工夫を総動員した試行錯誤のプロセスがあったことが理解できます。

 

しかし、もしかしたら「約150kWの小規模太陽光発電事業にそれほど手間をかけてやる必要があるのか?」と考える人もいるかもしれません。では、これだけの手間をかけてきたこの取り組みからえられたものとはなんなのでしょうか。

 

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.2019.4.15 

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