3・11から2年半 被災地仙台の復興は進んだか? ―― 現地の大学・NPOの共同調査から見る被災地の現状と課題

社会保障が逆進的に機能している

佐藤 プレハブ仮設住宅での貧困がどんどん進んでいることを示すデータもあります。確か、昨年の仙台市の世帯平均年収が540万円程度のはずです。先ほどのパーソナルサポートセンターの数字によれば、プレハブ仮設住宅に住む人の平均年収は、65歳以下で244万円。65歳以上は200万円を切っています。ただしこれは一年前の数字でこれなので、現在はもっと深刻さを増しています。調査の中からは世帯年収200万円に達しているというような数字はあまり出てきませんよね。これほど高い数字は出てこない。

 

渡辺 プレハブ仮設住宅での貧困が深刻化しているということですが、少し被災地から離れて、マクロなところに視点を移したとき、日本全体では貧困についてどのようなことが言えますか。

 

佐藤 年齢階級ごとの相対的貧困率の国際比較のグラフ(グラフ1)を見てみると、日本は高齢者の貧困率がずば抜けて高い。日本より高いのはアメリカです。アメリカというのは、世界でもっとも貧困が進んでいる国ですが、ほぼアメリカと同じようなカーブを描いているわけです。ここから、仮設住宅の状況が決して特殊な問題ではないことが分かりますね。

また、日本では若者の貧困率が近年急激に高まっています。1985年には18歳から25歳の貧困率10.5%でしたが、2009年になると18.7%に高まっている。

 

 

グラフ1:年齢階級ごとの相対的貧困率の国際比較(2009年、2010年) 出典:OECD貧困格差統計(http://stats.oecd.org/Index.aspx?DataSetCode=IDD) “Poverty rate after taxes and transfers”をもとに作成

グラフ1:年齢階級ごとの相対的貧困率の国際比較(2009年、2010年)
出典:OECD貧困格差統計(http://stats.oecd.org/Index.aspx?DataSetCode=IDD
“Poverty rate after taxes and transfers”をもとに作成

 

 

渡辺 高齢者の貧困率が高いという現象は、世界的に見られることなのでしょうか。

 

佐藤 高齢者の貧困が進行するのは、決して一般的な事ではありません。たとえばフランスは、若年層の相対的貧困率は高いのですが、高齢になるにつれだんだんと下がってきます。日本はアメリカとほぼ同じで、若いうちは貧困で、稼働年齢層のときに貧困ではなくなり―とはいえ国際比較的にみて高いことには変わりません―高齢になると一気に貧困が表面化する。

しかし、一方で、日本は年金をたくさん配っている国として知られています。対GDP比で国際比較をみたときに、日本の年金給付額は極めて高い。それなのに高齢者の貧困は深刻です。これはとても不思議なことですよね。なぜ高齢者の貧困が深刻かというと、社会保険の問題に行き着きます。社会保険料を払うことが貧しい人々に厳しく、逆進的に機能しているわけです。日本の場合、所得再分配機能の多くを社会保険制度に頼っていて、税による再分配はほとんどできていません。たとえば年金保険料は一律に徴収するので貧しい人々ほど負担が大きくなります。東京大学の大沢真理教授が指摘するように、各国政府の貧困率削減の度合いを比較したデータ(グラフ2)をみると、日本では、相対的に所得の低い一人親世帯や単身世帯のグループで、社会保障制度が存在することによって貧困がむしろ進んでいます。仮設住宅の調査からも、単身世帯や女性は凄まじい貧困に置かれていることが示されています。悲しい現実です。

 

 

グラフ2:世帯類型別にみた貧困削減率の国際比較(2000年代半ば)

グラフ2:世帯類型別にみた貧困削減率の国際比較(2000年代半ば)

 

 

渡辺 若者の貧困率が高まっているという話がありましたが、これに関しては他国と比べたときにどのような状況にありますか。

 

佐藤 若者の貧困率は世界でもかなり高い方ですが、これはよく言われるように、雇用政策が弱いことに原因があります。日本は、積極的労働市場政策のように雇用を支援するような支出は、OECD諸国のなかでも低いグループに位置します。

そして、雇用への支援がない事によってとりわけ問題になるのが、非正規雇用が増大していて、非正規に置かれることで失業のリスクが高まっていること。実際に、就労構造基本調査によれば、被災三県における震災の仕事への影響は、非正規雇用の人の方が正規雇用の人々よりも大きいんです。仕事への影響があった人のうち、離職した人がどれだけいるかというデータを見ると、非正規の職員、従業員の場合は6割くらいが失業している。対して、正規の職員で離職した人は4割くらいですから、2割ぐらい差があるわけですね。

 

 

 

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