3・11から2年半 被災地仙台の復興は進んだか? ―― 現地の大学・NPOの共同調査から見る被災地の現状と課題

必要な政策とは

渡辺 被災者が貧困状態での生活を強いられていることを考えれば、支援メニューが貸付金中心になっていることは問題だなと思います。震災直後に、被災者への支援メニューを見ていて驚いたのは、義捐金や震災で亡くなられた方に対する弔慰金等を除けば、ことごとく貸付金だということです。もちろん、用途は様々で、これから生活再建していくためのものであったり、子どもに対してのもの、進学のための奨学金であったりするのですが、おしなべて貸付金なんです。しかも、被災者向けと謳われてはいるものの、震災前からあった貸付金制度を寄せ集めて被災者向けと看板を付け替えているだけです。利用の要件が緩和されて、被災者は受けやすいというぐらいで、既存のものと中身は変わりません。

なぜ問題かと言うと、貸付金が有効に機能するには条件が必要だと思うのですが、そうした条件が存在していないと思うからです。というのも、貸付金というのは借金ですから、あくまで一時的に生活の穴を埋めるためのものです。だから、就職する、生活を再建するなど、返済の見通しが立つ中で初めて有効に機能するものですが、現実に多くの人は、圧倒的貧困の状況の中に置かれてしまっている。そこでいくら貸付を進めたところで、いたずらに借金を負うだけの結果にしかならず、むしろ生活がますます苦しくなる。

実際、支援で関わっている方の中に、被災直後に貸付を受けた50万円で現在も生活をやりくりしている人がいます。65歳で求職中の方ですが、年金だけでは生活できないので何とかその不足分を補っていきたいと借りたそうです。返済が始まるのは70歳ですが、70歳になれば今以上に就労は難しくなるし、健康面でのリスクも増えてきます。そこに、追い討ちをかけるように貸付金の返済が始まってしまう。貸付金は被災した人の生活再建を支援するどころか、むしろ結果的には被災者の生活再建を妨害しているのではないかとすら思います。

 

佐藤 被災と貧困問題を切り離そうとするから、そういう発想が出てくわけです。被災というのはあくまで一時的な問題で当面貸付をすればそのうち復帰して返せるでしょうと。だけれども、先ほどから何回も言っているように被災問題と貧困問題は密接に関連しています。リスクというのは平等に降り掛からないので、弱いところにとりわけこういう問題が発生します。被災と貧困問題を切り分けた上で、貧困から切り離されたところだけを支援しようとする。だから、貸付制度のような発想が出てくるわけです。

貧困問題は被災関係なくずっと続いている問題ですから、復興対策とか一時的なものも重要だとは思いますが、普遍主義の原理にたって、社会保障や生活保障を基礎から立て直すようなもっと基本的なことが必要なんだと思います。

渡辺 一方、被災者への政策ということでは、既存の社会保障制度の要件が緩和され、一時的に拡充しました。先に述べた医療保険や介護保険の減免措置、さらに雇用保険の期間の延長などですが、これらは被災者の生活再建に資するものであったように思います。雇用保険の失業給付金の給付日数が、被災者にたいして30日から60日の延長措置がとられ、それでも仕事がみつからない人に対して特例で60日の再延長が認められました。こうした措置は大きな効果を発揮したのではないかと思います。ぼくたちの就労支援で関わっている方の中に、雇用保険を受給中でうつを患っている方がいましたが、少し余裕を持って治療に専念することができたようです。

 

佐藤 さきほど、普遍的な社会保障の必要性について言いましたよね。今、政府は一生懸命景気を引き上げようとしていますが、歴史に学べば、貧困が景気動向とは無関係に進行してきている事実に注目する必要があると思います。たとえば、2002年から08年までは「いざなみ景気」と言われ、戦後最長の好景気を記録しましたが、その中で貧困率はずっと拡大し続けたんです。「雇用なき景気回復」とも「賃金上昇なき景気回復」とも言われている。アベノミクスが奏効したとしても、それが貧困の削減につながるかどうかは未知数で、慎重に考える必要があると思います。震災後、政局が不安定だったために、社会保障と税の一体改革と震災問題とは切り離されて議論されてきた経緯がありますが、改めて両者の関係を問うことがあっても良いのではと思います。

 

 

雇用創出で生活再建できるのか?

渡辺 基礎的な生活保障が必要だということに関連しますが、生活再建の文脈で雇用創出が喧伝されることには違和感があります。雇用を創出していかないといけない、やっぱり働く仕事がないと生活再建できないんだというわけです。これは被災地でもよく強調されるし、今流行のアベノミクスでも言われていることでしょう。もちろん、就職することは必要でしょうし、実際ぼくたちは就労支援事業で被災者の方の就職活動のお手伝いもしています。

ただ、ぼくたちが被災者の就労支援をする中で分かってきたことは、仕事に就くことがただちに生活再建につながるわけではないということです。二つの事例を紹介しましょう。

一つは60代の半ばの男性の就労を支援した時のことです。一緒に仕事探しをしていたのですが、これぐらいの年齢になってくると、就職がすごく厳しい。なかなか雇用の仕事に就けず、この方は宅食を配達する個人請負の仕事に就職しました。契約時には月収8万円程度と言われていましたが、実際は個人請負のため、業務で使う車両の燃料費や保険代などの経費がかかり、むしろ赤字になってしまいました。1日1食しか食べられないような生活になってしまったんです。このケースでは、結局退職することを促して、別の会社への再就職をサポートしました。

もう一つは20代前半の男性のケースです。彼は、ぼくたちが就職支援を始めた際にはダブルジョブ状態でアルバイトを二つ掛け持ちしていました。正社員を希望されていたのですが、掛け持ち状態では就職活動の時間を確保するのも難しいので、話し合ってアルバイトを一つ辞めることになりました。その後、履歴書の書き方を指導したり、職業訓練の受講を勧めたりして、なんとか運送会社の正社員として就職できたんです。ところが、その後相談があり、給料が払われず、会社が今にも倒産しそうな状況に陥っている。生活に困っているから、金融機関から借金しようと思うと言うんです。返すあてがなく借金するのはまずいよと何とか説得してということが、最近ありました。この方は1年ぐらいかけてサポートしてきたのですが、結果としては潰れそうな会社に入り大変な目に遭ってしまった。

POSSEはもともと労働相談に取り組んできた団体でもあり、就職先の労働条件についてはかなり気をつけながら支援を進めてきましたが、それでも就職先の労働環境はこれだけ悪いものだった。こうしたケースから思うのは、就職することそれ自体は、必ずしもゴールではないということです。むしろ、どういう仕事に就くのかということこそが重要です。だから、雇用さえ増やせば上手くいくという意見は、あまりにナイーブすぎるし、疑問を持ちますね。

 

佐藤 同感です。雇用の質を問わずに、とにかく地域経済さえ活性化すればいい、雇用さえ生まれればいいという話になりがちです。

 

 

 

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無題

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.246 特集:「自己本位」で考える

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・山本貴光「「自己本位」という漱石のエンジン」
・寺本剛「高レベル放射性廃棄物と世代間倫理」
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・絵:齋藤直子、文:岸政彦「沼から出てきたスワンプマン」