3・11から2年半 被災地仙台の復興は進んだか? ―― 現地の大学・NPOの共同調査から見る被災地の現状と課題

「仙台に仕事はあふれている」は本当か?

渡辺 また、仙台には今仕事が溢れているのだから、選り好みせずにつけば生活再建できるという言説もよく耳にします。でも、そもそも本当に雇用は増えているのでしょうか?確かに、宮城県の有効求人倍率は1.25倍(2013年6月)ですが、その内実はどうでしょうか。ちなみに2011年2月だと0.51倍で、全国36位でした。だから、震災が起きる前は、宮城県は仕事探しがすごく難しい県だった。

それで、2013年6月の仙台の職種別の有効求人倍率(表1)を見てみると、職種にはかなり偏りがあります。保安は13.46倍で、建設・採掘は3.97倍、輸送・機械運転は3.48倍です。保安というのは警備の仕事ですが、建設・採掘や、輸送など、つまり復興需要の仕事がすごく増えていることがよく分かります。逆に人気のある事務職は0.3倍で、低い水準のまま推移しています。

もちろん、復興需要関連の仕事をすべて否定するわけではありませんが、全般的に見ると短期雇用や低賃金の仕事がすごく多い。たとえば、保安の仕事では、ハローワークに求人の出ているものでは、フルタイムの平均賃金が月15万円です。ここから社会保険料などを引くと、手取りで月12万円程度ですから、その仕事で食べていくのはかなり大変だろうなと思います。一見すると仙台市の求人の数自体は多いですが、生活していくに足りるものか、働き続けることが可能なのかと仕事の中身を精査したとき、果たして多いと言えるのか疑問符が付く求人状況だと思います。

そんななか、ぼくたちの就労支援では、働き続けられる仕事に就くためのサポートをしています。技能を身につけ、低賃金ではなく、なるべく長く働ける職に就く。「専門•技術職」の6月の有効求人倍率は、1.91倍なのですが、ぼくたちの支援としてはここへの就職を目指しています。そのために、職業訓練制度を積極的に活用して、利用者の方には資格を取得するようお勧めしています。

 

 

表1:仙台の職種別有効求人倍率(2013年6月、ハローワーク仙台管轄内)  出典:宮城労働局(http://miyagi-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/jirei_toukei.html)「求人・求職バランスシート」をもとに作成。

表1:仙台の職種別有効求人倍率(2013年6月、ハローワーク仙台管轄内) 
出典:宮城労働局(http://miyagi-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/jirei_toukei.html)「求人・求職バランスシート」をもとに作成。

 

 

佐藤 それと、長期的にみて問題だと思うのは、復興需要ということに関して言えば実はすでにピークアウトしているのではないかということです。有効求人倍率は、2013年3月、4月を頂点としていまは減少傾向にあります。われわれの聞き取り調査からも、仕事の減少を訴える方がいることが明らかになっています。もちろん、短期的には反転することもあるとは思いますが、有効求人倍率はおそらくこの先減っていき、震災前の平均であった0.6~0.7倍ぐらいまで下がっていくことも考えられます。もっと先には、先ほど渡辺さんが紹介していた0.51とかそういう数字になることもありえます。「雇用のミスマッチ」だけを問題にしていればよいような状況は長く続かないと思います。

 

渡辺 そうすると、復興需要の仕事はここ1年、2年でしぼんでいくわけですよね。やはり、どんどんしぼんでいく仕事に就くことが生活再建だとは言えないですよね。でも、被災地の政策として雇用創出ということが言われてしまう。そこでは、どういう暮らしをするのか、どのような働かせ方をするのかということ、つまり生活の中身や雇用の質という点は捨象され、量的な話になってしまっていて、すごく問題だと思うんです。

このように、職に就いた後の問題が見えてきた中で、ぼくたちの就労支援では、最近就労後のサポートに力を入れています。支援関係を継続して就労後のトラブルにも対応できる、そういった支援をしっかりやっていこうと思っています。一つは、就職後の労働相談です。6月末に発足した仙台のブラック企業被害対策弁護団との連携も考えています。とはいえ現実に司法を使うに至る人は多くはありません。そうした方に対しては先ほどの60代の男性のケースのように、離職を促して再就職を支援する。もう一つは、労働法教育です。これは、職場でトラブルに遭遇した時に自ら対処できる力を身につけることを目的とした支援です。

 

 

今求められる支援とは

 

渡辺 では、少し話題を移して、被災地で現れている問題は、貧困問題だという認識の下でどのように被災者の方々を支援していけばいいのかということを話します。被災者の方々を支援する際によく言われるのは、「民間との協働」です。行政は、NPOや市民活動と協働して、きめ細かい支援をしていく、ということですね。実際、ぼくたちも仙台市と協働で支援を行っていますが、一方で非常に限界を感じているのも事実です。というのも、たとえば仙台市宮城野区には8か所のプレハブ仮設住宅があるのですが、そのうちの6か所の仮設住宅でPOSSEは送迎事業をやっています。すごくニーズはあって、若林区など他の仮設住宅からも運行してほしいとの要望が来ています。でも、ぼくたちの力量ではどうしてもこれ以上拡大することは難しい。すべての仮設住宅を網羅することはできないんです。

あるいは、調査結果にも表れているように、年収100万円以下など、生活に困窮している方が仮設住宅にはたくさんいます。でも、そういった人たちの生活をぼくたちが直接に肩代わりすること、毎月何万円も援助するようなことはできません。だから、たとえば雇用保険や生活保護など既存の社会保障制度を活用していくしかない。

このように、NPOが直接にできることには限界がある以上、既存の制度を活用するという方向で支援をしていくことは重要です。でも、現実にはそうなっていないことが多い。ここでも、生活保障のそもそもの制度やシステムをどう機能させるのか、あるいは改善していくのかという観点が抜け落ちてしまっています。「NPOとの恊働」というのは耳に心地よい言葉ではあるけれど、制度やシステム改善の視点を欠いたままに進めてもなかなか有効に機能しないのではないかと思います。こうした点をどのように議論の中に入れ込んでいくかは今後の課題です。

佐藤 一方で、国や自治体の政策には改善が見られません。それどころか、どんどん劣化している部分もある。最近の社会保障改革の議論も、日本の高齢者の貧困率が高いという現状を受け止めたものになってはいない。仙台の場合も、復興対策を進めると言いながら一方では財政再建を進めているので、社会福祉を拡充するどころか、これまで通り維持していくような体力や余裕はなくなりつつあります。こうした状況のなかで、たとえば、最低保障年金をあっさりと議論の対象から外し、介護保険の要支援者を本体から切り離したうえで、自治体の独自事業に移管していく施策を行えばどういう問題が生じるのは明らかなように思います。

 

渡辺 そうした中で、支援者の側は、どのような目的を持って支援をするのかよく考える必要がありますよね。たんに支援をしていくだけでは不充分ではないかと思うんです。

震災直後、仙台には多くのボランティア団体や支援団体が訪れていました。それらを「いい」「悪い」と一括して語ることはできないのかもしれませんが、単発的、イベント的な支援が多かったように思います。あるときやってきて支援物資を配って帰っていく、あるときポッと現れて仮設住宅でお祭りをしてイベントをして去る。こうした支援は、被災者に瞬間的に元気を与えるという点では確かに意味があります。実際ぼくたちは、仮設住宅で花見や夏祭りのイベントも開催しています。住民の方から、仮設住宅の中でふさぎ込みがちなので、外に出る機会を作ってくれて本当に嬉しいとの感想をいただくこともあります。

しかし、留意すべきは被災者の生活はイベントの後も続くということです。被災した人々は、祭りが終わった次の日も生きていかねばならず、生活を再建する必要があるわけです。このことに対し、どれほどの支援団体やボランティアが自覚的だったでしょうか。それどころか、多くの団体は無関心であったと言っても過言ではありません。そうした支援が相次ぐなかで、被災した方の日常生活をどのように支えていくのかという問題意識のもとで、ぼくたちは一貫して支援してきたつもりです。

ところが、今ではこのような単発のイベント型の支援でさえ減っています。対照的に、被災者の生活はどんどん深刻さを増しているのが現状です。こうした状況を踏まえた上で、どのような被災者支援をすべきか、今一度考え直していくことが重要です。

 

佐藤 確かに、自治体も体力を失いつつある中で、現状でわれわれができることと言えばきちんとニーズを把握して、それを普遍的な政策につなげていくような調査をして社会に訴えていくということぐらいなのかもしれません。とりわけ、仙台を被災地としてみる視線、被災と貧困という問題を関連させて見る視点が決定的に欠落している中で、きちんと調査をする意義はすごく大きいと思います。

 

渡辺 おっしゃる通りで、調査から明らかになった貧困の課題をいかにして普遍的な生活保障の制度の議論へとつなげていくかが、ぼくたち支援者に問われています。2年間にわたる支援の中で、たんに送迎をしたり勉強を教えたりするだけでは、被災者の生活課題を解決できないという限界にぶちあたりました。だからこそ、現状を打破するために、被災地仙台の実相を社会に発信し、ここから議論を立てていくことが必要です。もちろん、状況を直ちに変えうるとは思いませんが、現場で被災者の日常に密着した支援を続け、様々な生活の課題が見えきたからこそ、取り組まなければならないと感じています。

 

 

 

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