福島での農業復興、6次産業化など今後の課題についての報告・提案

2013年3月31日に開かれた、復興アリーナ(WEBRONZA×SYNODOS)主催シンポジウム「『安全・安心』を超える〈価値〉とはなにか――危機を転機に変えるために――」。福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任助教石井秀樹氏による講演をお送りする。福島第一の原発事故と比較されるチェルノブイリの原発事故から何を学ぶことができるのか。過去の経験と最新の研究を基にした安全安心を確保しつつ、産業再生を目指すための提言。(構成/小嶋直人)

 

 

はじめに

 

福島大学うつくしまふくしま未来支援センターの石井秀樹です。時間も限られていますので、早速ですがお話に入ります。

 

福島原発事故は、チェルノブイリ原発事故と同様に最高レベルの事故である「レベル7」の評価が下されました。しかしながら福島での農業対策をするには、チェルノブイリとの差異を踏まえた上で、福島の自然、社会、文化に即した適切な対策をする必要があります。結論から述べれば、チェルノブイリで得られた知見が福島でも有効な場合もあれば、当てはまらない場合もあり、福島で機能する対策というものは、福島で試行錯誤を重ねる中で、私たちが構築してゆかなければならないのです。

 

 

チェルノブイリと福島との違い

 

福島での対策を考える上で、まずチェルノブイリとの比較をしてみましょう。チェルノブイリ原発の4号炉には、放射性物質の漏洩を食い止める格納容器がありませんでした。

 

炉心自体が燃え、それが剥き出しになって大量の放射性物質が漏洩しました。放射性物質は世界中に拡散し、日本でも飛来が確認されましたが、1Ci/㎢(37000Bq/㎡)以上のセシウム汚染はウクライナやベラルーシといった旧ソビエト連邦国内にとどまらず、オーストリア、ギリシャ、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、イギリスなどチェルノブイリから2000㎞以上離れた地域にまで及んでいます。チェルノブイリはユーラシア大陸の内陸部にあることから、主に陸地を汚染した事故だったと言えます。

 

一方、福島では水素爆発により放射性物質が漏洩しました。格納容器が破損したとはいえ、核燃料の多くは原発敷地内に残っていますが、地下水を介した汚染の広がりが懸念されるところです。チェルノブイリに比べれば陸地の汚染面積が小さいと言われますが、福島第一原発は臨海部にあり、放射性物質の多くが東に拡散したため、陸地のみならず広大な海洋も汚染したと考えるべきかもしれません。

 

なお大気を通じたストロンチウム90の拡散量はチェルノブイリ原発事故に比べればかなり少ないです。チェルノブイリ原発周辺にはストロンチウム90が70万Bq/㎡を超える汚染地帯も確認されていますが、福島では文部科学省が公開したデータによれば、福島第一原発の外部で、ストロンチウム90が最高で5700Bq/㎡という値が確認されています。

 

サンプリング数を増やせば今後さらに高い値も確認されるかもしれませんが、福島市内では100Bq/㎡前後でした。一方、1960年代には原爆・水爆実験が盛んで1963年6月には東京中野にあった気象研究所で200Bq/㎡程度のストロンチウム90の降下が確認されました。

 

そもそも、原水爆実験や原発事故に由来するストロンチウム90を受け入れることができるのか? というご意見も当然あろうかと思いますが、ストロンチウム90による今回の汚染は、福島市に限って言えば、かつて経験したことのないレベルではないこともまた事実なのです。つまりチェルノブイリではストロンチウム汚染が顕著な場所があるのに対して、日本で農業対策をする上では、まずはセシウムの対策をすることが何より最優先課題となるのです。

 

 

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土壌から作物への移行について

 

放射性セシウムの作物への移行・吸収は、土壌の性質によって大きく変わります。ベラルーシやウクライナの土壌に比べて、日本の土壌は粘土鉱物や腐植質に富んでおり、セシウムの吸収能力が高く、作物へのセシウムの吸収が抑止されます。つまりベラルーシやウクライナの土壌と日本の土壌とが同じ濃度の放射性セシウムを保持していた場合、日本ではよりクリーンな農作物ができる可能性が高いのです。

 

土壌汚染は深刻な事態ですが、土壌の性質によってセシウムの移行が抑制される点は農業再開にとっては都合が良いです。このように福島とチェルノブイリでは、原発事故の性質も違えば、自然環境も異なっており、被害の様相は大きく異なること、また農業対策の方向性も大きく変わるということです。

 

日本では、土壌の性質に助けられ、園芸作物や果樹への放射性セシウムの移行・吸収はかなり低下してきており、福島県内でも多くの農産物が不検出(Not Detected:不検出)となっています。2011年に暫定基準値500Bq/kgを超える作物が確認されたのは、放射性セシウムが降下した際に作物に直接付着したケースや、樹皮や葉に付着していたセシウムが可食部に移動するという「表面吸収」が卓越したからです。2011年に静岡県産の一部の茶が500Bq/kgを超えたのも「表面吸収」があったからです。現在、作物が汚染される経路は主に根から放射性セシウムを取り込むもので「経根吸収」という現象によります。

 

 

 

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