福島での農業復興、6次産業化など今後の課題についての報告・提案

イネの特殊性

 

一方、イネの場合は事情が特殊です。イネは圃場に水を引くことから、水がセシウムの供給源となる可能性があります。イネのセシウム吸収は土壌中の交換性カリウムの欠乏が主因です。カリウム肥料により交換性カリウムを25mg/100gとなるように維持すれば、放射性セシウムの吸収はかなり抑えられます。ただ例外もあり、交換性カリウムが15mg/100g前後と比較的保持されているにも関わらずセシウム吸収が高くなる「外れ値」タイプの水田も確認されており、そうしたケースは、圃場に引き込む水のセシウム濃度の高さや、カリウムイオン濃度の低さなどが影響していると考えられています。

 

2012年からは伊達市小国地区など水稲試験栽培が実施され、なぜイネがセシウムを吸収するのか、それを地域の水を介したセシウム循環や環境要因を視野に入れながらそのメカニズムの解明がなされました。その研究成果は「小国地区における稲の試験栽培」(http://www.a.u-tokyo.ac.jp/rpjt/event/2012120805-2.pdf)に譲りますが、稲のセシウム吸収は土壌中のセシウム濃度とは相関関係はなく、土壌中の交換性カリウムの含有量や、水源の種類や状態でかなりの説明が付くことが判明してきています。

 

また福島県で生産されるお米については、2012年度から全量全袋検査がなされ、コメの安全性が検証されています。30kgずつ袋詰めされた玄米の放射能を測定するわけですが、100Bq/kgを超えたのは約一千万袋のうち71袋、25Bq/kg超えは約22,000袋で、99.8%は検出限界値(25Bq/kg)未満でした。

 

福島のイネのセシウム対策は概ねコントロールできていますが、今後さらに追及するならば「外れ値」タイプの水田対策が今後の課題です。ただ福島の場合、全量全袋検査をやっているので、セシウム吸収が顕著な水田を特定することができます。25Bq/kgを超えたのも0.2%だけなので圃場数も限られます。その圃場で土壌診断を行えば、「外れ値」タイプの水田を特定することができるでしょう。こうした食品検査と生産段階からの対策とを結びつけることで、圃場毎にきめ細かな対策がさらにできると思います。

 

 

今後の課題

 

東日本大震災や福島の原子力災害から2年が経過しました。被災地では福島の復興は、未だ遠いと考える方が少なくないですが、それでも放射能汚染からの食と農の再生に向けて様々な取組みが実施されてきました。

 

この二年間は本当に試行錯誤の連続でしたが、原子力災害との付き合いは長期戦です。今後は中長期的視野を入れながら、現状の対策の中で本当に不可欠な対策を洗い出し、生産段階から検査段階までの体系だった対策を構築することが、福島の農業再生とその持続可能性にとって重要だと思います。

 

たとえばイネを栽培する時には、福島市や伊達市ではカリウム肥料やゼオライトなどの低減資材の投入が義務付けられています。その投入量は、圃場の汚染度や化学性、水源によらず行政毎に定められた分量だけ一律に散布することになっています。伊達市や福島市だけでもその費用はそれぞれ毎年数億円から10億円規模となり膨大です。現状は国の補助金があるので賄えていますが、生産者が負担するには非現実的な値です。

 

けれども先ほどお話ししたように、全量全袋検査の結果を活用して、リスクの高い圃場を絞り込むことで、カリウム肥料による低減対策を継続する必要がある圃場を特定することができます。また土壌診断と組み合わせることで、圃場毎に必要な施肥量を求めることも重要でしょう。生産段階からの対策と、検査段階での対策をばらばらに実施するのではなく、その相乗効果を引き出す形で体系だった仕組みをつくることが重要です。

 

逆に、現行のカリウム肥料による低減対策は、いつまで継続すればよいのか誰もわかりません。カリウム肥料という低減資材を薬として飲んでいるが、その薬の服用をいつ止めたらよいのか判断ができない。止めた途端に基準値を超えるお米が増えるおそれがあるのは事実です。また全量全袋検査を実施する費用も膨大です。こうした対策は<いつまで>、<どの規模で>実施すればよいのか、そうした検討も必要でしょう。これは圃場毎に、放射能の汚染濃度、土壌の化学性、水源に関する情報、耕作履歴、そして全袋検査の結果などを管理するデータベースを構築し、経過観察をしてゆくことが有効だと思います。

 

こうした対策は一種のトレーサビリティだと思いますが、土壌診断により、適正な施肥量を洗い出すことは、単に放射能対策となるだけでなく、圃場外への肥料分の溶脱を抑え環境負荷を低減することにもつながりますし、何より食味の向上などにもつながるという多面的な効果があります。放射能汚染からの食と農の再生を機会に、よりポジティブな観点から新しい福島の農業をデザインしてゆくことが、何よりの再生・復興につながると確信しています。

 

(2013年3月31日 「安全・安心」を超える〈価値〉とはなにか――危機を転機に変えるために――より)

 

 

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