変容し続ける「復興情報」をとらえ、災害の過去、現在、未来をつなぐ

災害復興法学――災害後を生き抜く知識と情報の収集

 

津久井 これまでの話を踏まえつつ、岡本さんご自身のお話も伺いたいと思います。

 

岡本さんは、日弁連の「東日本大震災無料法律相談事例集」というデータベースを構築する責任者として活動されてきました。なぜこのデータベースを作ろうと思ったのでしょうか?

 

岡本 東日本大震災の教訓を挙げるとすれば、もともと私たちは、どれだけの防災知識を持ち、またどれだけの支援の仕組みを理解していたのだろうかという問題にたどり着くように思います。わが国は、日ごろの防災教育によって、地震や津波から身を守るという意味では、おそらく世界で最も高い防災知識を持っていると思います。しかし、その上で、生き残った後になにができるのか、どんな仕組みで被災者支援が始まるのかは、なかなか知られていない。弁護士である私も、東日本大震災になってようやく、いろいろな制度を知りました。

 

難しい法律の知識を持っている必要もなければ、仕組みの技術的な部分を知る必要はありませんが、「こういうときにはどうすべきなのか」くらいの知識、あるいはわからないときはどこで調べればいいのか程度の、復興情報に関するリテラシーがあるべきです。

 

今回、弁護士はデータベース化されただけでも4万件以上の無料法律相談を受けました。この情報を眠らせてしまうのは、せっかく相談してくれた人たちの期待に応えていないのではないかと思いました。そこで被災地ごとに、どれだけの人数から、どういった相談があったのかデータベースを再構築してみたんですね。すると、たとえばある地域で津波に関する相談が多いということが分かる。そこで、津波に対する対策や新しい制度が必要かもしれないと考えられる。あるいは「こういう制度がありますよ」と紹介することができるようになります。

 

どんな制度があるかを知っているだけで、被災者の避難生活の心持ちは全然違います。避難所で絶望していた人の心も少しは軽くなると信じます。震災直後から東北沿岸部の被災地で無料法律相談を実施していた弁護士からはそういったお話を必ず聞きます。

 

津久井 はい、確かにそうでした。

 

岡本 それを有志の弁護士だけでなく、自治体の職員やNPO、民間企業ができるようになったらいいと思うんですね。

 

私はいま大学で災害復興法学という授業を開いています。被災者の生の声をもとに、どういった復興政策をつくることができるかを考えるものです。いまは復興という長いフェーズでの法制度知識は、一般教養化していません。教育という立場でそれを広めていきたいんです。

 

津久井 災害のあとの復興の過程でどのような課題が起きるかシミュレーションして復興訓練をすることも必要でしょう。近時は「事前復興」という概念も提唱されています。

 

日本災害復興学会で、東日本大震災の前年に災害復興基本法試案をまとめました。その中に「復興には,被災者及び被災地の自律的な意思決定の基礎となる情報が迅速かつ適切に提供されなければならない。」(第12条)という条項を設けました。パネリストの皆さんは、まず情報は正しくないといけないとおっしゃった。そして「適時」は、開沼さんの動的な概念にリンクするものだと思います。

 

岡本 今回の分科会で、様々な分野の方から意見を聞くことができました。それらは一見ばらばらに見えるかもしれませんが、復興という長いフェーズの中で、それぞれが必要な考え方であり、大切な取り組みだと思います。それらを上手に重ねあわせて「復興情報」をよりよい形で作り上げていきたいと思っています。

 

津久井 復興の課題はとくにかく山積していますが、それらを解くカギは「情報」にあると私たちは考えています。分科会のお話の中には解決のキーワードがいくつもちりばめられていました。引き続き深めていきたいと思います。

 

(2013年12月19日 日本弁護士連合会にて)

 

 

 

 

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岡本正(おかもと・ただし)

弁護士

弁護士。医療経営士。マンション管理士。防災士。防災介助士。中小企業庁認定経営革新等支援機関。中央大学大学院公共政策研究科客員教授。慶應義塾大学法科大学院・同法学部非常勤講師。1979年生。神奈川県鎌倉市出身。2001年慶應義塾大学卒業、司法試験合格。2003年弁護士登録。企業、個人、行政、政策など幅広い法律分野を扱う。2009年10月から2011年10月まで内閣府行政刷新会議事務局上席政策調査員。2011年4月から12月まで日弁連災害対策本部嘱託室長兼務。東日本大震災の4万件のリーガルニーズと復興政策の軌跡をとりまとめ、法学と政策学を融合した「災害復興法学」を大学に創設。講義などの取り組みは、『危機管理デザイン賞2013』『第6回若者力大賞ユースリーダー支援賞』などを受賞。公益財団法人東日本大震災復興支援財団理事、日本組織内弁護士協会理事、各大学非常勤講師ほか公職多数。関連書籍に『災害復興法学』(慶應義塾大学出版会)、『非常時対応の社会科学 法学と経済学の共同の試み』(有斐閣)、『公務員弁護士のすべて』(レクシスネクシス・ジャパン)、『自治体の個人情報保護と共有の実務 地域における災害対策・避難支援』(ぎょうせい)などがある。

無題

 

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