山梨県の大雪災害を山梨日日新聞から読み解く

今回の大雪での課題

 

今回の大雪では、災害情報収集ツールとしてのTwitterの有効性について再確認した。大雪となった14日から15日にかけては、山梨県内の積雪被害について多くの既存メディアによる報道がない中、筆者の知りたい情報が流通していたのはTwitterのみであった。Twitterの即時性、速報性、拡散性を改めて実感した。テレビについては、速報性とともに報道態勢について課題が示されたと言えるだろう[*5]。

 

以下に、筆者が感じた課題を3点挙げてみたい。

 

 

(1) 普段積雪の少ない地域における記録的大雪の影響

 

今回の大雪により、甲府は120年間の統計で既往最大49cmを大幅に上回る114cmを記録した。地域の公助・共助・自助のあらゆるレベルにおいて、ハード・ソフトの備えが不足していた。除雪車からスコップに至る除雪のための機材が不足したし、スノーモービル等の移動手段も備えられていなかった。また、建築設計における構造計算上の積雪荷重は、甲府では50〜65cmであり、設計荷重を大きく上回る積雪であった。一方、県や市町村の多くは雪害の防災計画が準備されておらず、初動の情報収集に時間を要した。住民も除雪機材や雪用の長靴を持っていない人が少なくなかった。

 

24日の甲府市防災行政無線では,住民に対して「路上の凍結の恐れがあるため歩道の雪を道路に捨てないよう」注意のアナウンスがなされていた。地域に雪捨て場がほとんど無く、住民の多くが路上に捨てた結果、路面の凍結に加えて、側溝が雪で詰まったり、車線の半分が雪でふさがれ渋滞を引き起こすなど、大きな問題となった。豪雪地帯には当たり前にある、備えやノウハウがなかったことが、被害を拡大させたと言えるだろう。

 

改めて図1の積雪量のグラフを見てもらいたい。2月8日と15日の最大積雪量からの推移の形状が似通っている、すなわち相似形になっていることに気がつかれるだろう。一方、図2から一面の記事の比率は社会的影響を表しているとすると、8日の大雪の影響は3日後には収束しているにもかかわらず、14日の大雪の影響は25日80%と、依然として収束していないことが見えてくる。積雪量が既往最大を大きく超えたことが、社会的な影響を深刻にし、拡大、長期化させたと言えるだろう。

 

また、今回の記録的な大雪に対して、公的機関から一般住民やドライバーに対する情報提供については、多くの課題があった。実際にどのような社会的影響が発生し、どのような災害情報ニーズがあったのか、事実関係を明らかにすることが非常に重要である.その上で、防災関係機関がどういった対応が出来得たか、どのような災害情報の提供が可能かについて,議論する必要があるだろう。事態の収束後、調査を行う予定である。

 

 

(2)大雪特別警報

 

今回大雪特別警報は発表されなかったが、大雪特別警報に必要な3つの要件(府県程度の広がり、50年に1度と言える積雪深、その後も警報級の降雪が丸一日程度以上続く)の3つめの要件を満足しなかったためとされている。しかし、14日18時に既往最大を記録した時点が、1つのポイントだったのではないだろうか。複数の気象の専門家に尋ねたが、「1週間前の積雪も残っている中で、既往最大の積雪深を記録した。この段階で、2~3日程度では溶けないのは容易に予測できる」との回答だった。

 

もう1点気になっているのは、「今、危機が起こっている」というアラートを誰がだすべきだったのかという視点だ。正常性バイアスと呼ばれるように、人は危機に遭遇しても、危機を実感することが難しい。だからこそ、「今がそのときですよ」ということを宣言することは有効だ。防災機関の危機管理については、今後しっかりとした検証が求められる。

 

 

(3) 安全管理とコスト

 

物流の途絶から、コンビニやスーパーの陳列棚からは商品が消えた(写真4)が、流通業者の多くは在庫を持たないジャストインタイム方式を採用している。余剰在庫を持てば今回のようなケースにおいても、商品の供給に余裕があるかもしれないが、そのコストが価格に転嫁されることを消費者の多くは納得しないだろう。

 

 

写真4 商品が消えた商品棚(撮影:2014年2月16日14時)

写真4 商品が消えた商品棚(撮影:2014年2月16日14時)

 

 

一方で、自治体が食料の備蓄を行うことも、税金が使用されるという意味において本質的には何も変わらない。大雪で一番問題となる除雪業務についても課題が指摘されている。公共事業が削減される中で、地元建設業者に依頼されている除雪業務が、不安定な支払い条件や除雪機械の維持管理費の負担増[*6]から、除雪体制の維持は困難になることが予想されている。

 

やはり、今後求められるのは、「安全管理にはコストがかかる」というコンセンサスの形成ではなかろうか。対策の中には行政に任せるよりも、各個人が普段から備えを行った方が、効果的でコストも低い場合も少なくないだろう。大規模災害時には県全体が孤立する本県では、10日分の備蓄を目標に、各家庭における備えの推進が必要であろう。

 

[*5]情報デザインが専門の首都大学東京の渡邉英徳氏‏@hwtnv 2月16日「NHKのディレクターや記者のかたによると「画」が撮れなければニュースにできない、と。現地にカメラが入れない状況では報道できない。つまりはネットで補完するしかない」とツイートしている(https://twitter.com/hwtnv/status/435178725856919552)。

 

[*6]社団法人全国建設業協会除雪業務に関する検討WG:積雪地域の安定的・継続的な除雪体制の確保に向けて,2010

 

 

おわりに

 

雪に慣れていない筆者が一番驚いたことは、雪はなかなか解けないという事実だ。だからこそ、大雪の影響は長期化するということでもある。一方で、すでに公共交通機関は復旧し平常に戻りつつあるものの、旅館やホテルでは相次ぐキャンセルに悲鳴の声が上がっている。山梨は、新宿から特急あずさで甲府・石和温泉まで90分、大月まで60分の距離にある。こういう時だからこそ、雪かきボランティアはもとより、温泉や観光目的にお越しいただくことが、何よりの被災地貢献につながる。お越しいただければ大変幸いである。

 

本稿では一面記事に限定した分析を行ったが、社会面の分析も並行して進めている。こちらについては、別稿に譲りたい。

 

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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