福島の農業再生 ―― 今できること、できないこと 

福島原子力発電所事故から1年半、福島では未だ多くの地域で稲の作付けが制限され、復興の見通しがたたないまま時間が経過しています。石井秀樹先生はそのような地域の農業再生を目指し、土壌や水から農作物への放射性物質の移行とその吸収抑制対策について研究されています。またそれを踏まえて、作物の検査体制についても提言をされています。

 

わからないことが多かったこの放射能問題、1年半でどのようなことが分かってきたのか?

新たな知見を活かして今後福島ではどのような取り組みがなされようとしているのか?

また、その取り組みを消費地に住むわたしたちはどのように感じるのでしょうか?

 

安心できること、不安が残ることどちらもあるでしょう。今福島でできること、できないこと、それを受けてわたしたちが受け入れられること、受け入れられないことを考えていきたいと思います。(日本科学未来館HPより)(構成/出口優夏)

 

 

はじめに

2011年11月末のことですが、福島県伊達市や福島市で収穫された玄米の一部から、国の暫定基準値500ベクレルを超える放射性セシウムが検出された、というニュースが流れました。またその中には極めて稀なケースですが、1000ベクレルを超えるものも確認されました。

 

これは国や県、それから多くの科学者の間でも想定を超える結果だったと聞きます。放射性セシウムの土壌からの移行は本来少なく、また本検査をした後に、福島県知事がコメの安全宣言を出していたのですから。

 

なぜこのような高い吸収が生じたのか、そのメカニズムの解明にむけた研究を、現在、国の許可の下、伊達市が中心となって行っています。今日はそうした研究の話や今後の農業対策の話を、チェルノブイリ原発事故で被害を受けたベラルーシの話を交えながら紹介しようと思います。

 

 

福島のコメの汚染状況

 

現在の食品の放射性セシウムの基準値は、去年の500ベクレルから100ベクレルに変わりました。去年500ベクレル超えの玄米が確認された地域では、稲の作付制限がされています。また去年100~500ベクレルの玄米が確認された地域では、地権者毎の管理台帳を作成し、一定の低減対策と全量調査を条件とした上で稲の作付を認め、出荷制限としています。去年100ベクレルを超えなかった地域は、何も規制はかかっていませんが、風評被害を恐れてこれらのエリアに準ずる対策を行い、作付をしています。

 

全袋検査ですが、30kgの袋詰めをされたお米をベルトコンベアで流して、放射能濃度を測定するというものです。正確に測るには本来時間がかかりますが、検出限界値を25ベクレルとして数十秒で計測し、国の基準値100ベクレルを下回っているかが確認できる装置が開発されています。

 

福島のお米の全袋検査の結果を紹介しますと、11月5日時点で、743万5393袋の計測を行い、そのうち25ベクレル未満のものが99.8%、742万1190袋でした。もちろん25ベクレルを超えてしまったものもありますが、100ベクレルを超えたものは14袋でした。これが多いか少ないかは意見が分かれるでしょう。しかし福島のコメで放射性物質が非常に少ないということは、測ってみて初めて分かることなんですね。去年はこうした機器と測定体制がなく、測れなかったので風評被害が助長されたのだと思います。

 

また全袋検査をして、どこでセシウム吸収の高いコメがとれたのかという情報があれば、その栽培条件が分かるので、今後の研究にフィードバックすることができます。今後は、研究成果を踏まえた上での吸収抑制対策と、検査結果を踏まえた上での研究へのフィードバックを相互連動的に行い、検査と研究を車の両輪として進めることが大切だと思います。

 

 

科学や技術によってできること

 

それでははじめに「放射能とは何か?」について、簡単に振り返ってみたいと思います。 放射能や放射線を理解するには原子の構造を理解する必要があります。原子の中心には原子核があります。原子核は複数の陽子と中性子からできていますが、その数の組合せによって、原子核の安定性が変わってきます。不安定な原子核は、やがて他の元素に変わってしまいます。これを放射性壊変といいます。

 

その時に、余った粒子やエネルギーが放射線として出されるのです。放射線はエネルギーの高い電磁波であり、原子や分子を電離させたり、化学反応を引き起こしたりします。それが人体ならば、DNAや細胞がダメージを受ける場合もあります。

 

このように放射性物質には一定の危険性があるのですが、いずれにしろ放射性物質には実体があり、その実体に基づいて、しかるべき扱いや対策をするということが大切なのです。放射性セシウムならば、セシウムとしての物理的性質、化学的性質があり、それがどのような挙動をするのか、まだまだわからないことがあったとしても、そこには必ず法則があるはずです。

 

ただわたしは決して科学や技術が万能だとか言うつもりはありません。科学にも技術にも限界がある。でもその可能性と限界を議論することはできるのであって、それを拠り所としながら、「現状として一体何ができて、何ができないのか?」を、整理しなければなりません。

 

たとえば放射性物質は無くすことはできません。つまりその無毒化はできないんです。中性子線などを当てれば、他の原子に変えることはできるかもしれませんが、それには膨大なエネルギーが必要だし、福島に降り注いだ放射性物質を集めて、そのすべてを転換することなどできないわけです。

 

そうした制約の中で、いったい何ができるのか。人々に害が無いようにするにはどうしたら良いのか、と言えば、放射性物質を「隔離」して、それを「遮蔽」するという対策を取るしかないのです。今、最終処分場や中間処理施設をどこに置くのかが議論になっています。その置き場所をめぐって社会的制約があるわけですが、こうした物理的制約との調整がこれからの課題ですし、国土的に拡散してしまった放射性物質を除染することが本当にできるのか、それもまだまだ自明ではありません。

 

 

 

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