福島レポート

2020.03.09

2019年産米の「食味ランキング」――福島県が全国最多・4銘柄で「特A」を獲得

遠藤乃亜 / ライター

基礎知識

2019年産米の「食味ランキング」で、福島県では全国最多・4銘柄が「特A」を獲得し、山形県と並んで全国最多となりました。4銘柄は「会津のコシヒカリ」「中通りのコシヒカリ」「浜通りのコシヒカリ」「中通りのひとめぼれ」でした。

このランキングの評価は毎年2月に「日本穀物検定協会」が行っています。主な産地品種の銘柄について食味の試験をします。2019年産米の対象は155銘柄で、「特A」を獲得したのは54銘柄でした。

ランキングでは、「食味評価エキスパートパネル」と呼ばれる委員20人が、「複数の産地でとれたコシヒカリをブレンドした米」を基準とし、これと試験対象の銘柄の食味を比較します。評価項目は「外観・香り・味・粘り・硬さ・総合評価」の6つで、各産地品種のレベルを知ることが目的です。

福島県のお米がおいしい理由のひとつに、「気候」があります。稲穂の発育から米の粒が育つ時期は7~9月です。福島県はこの時期、昼間は晴れて気温が高くなりますが、夜になると気温がぐんと下がります。そのため、昼に作ったでんぷんが、夜に消費されることなく残るため、おいしい米ができあがります。そして米づくりに欠かせないきれいな水や土の質、何よりも農家の皆さんが育み受け継いできた技術力が、福島のおいしいお米作りを支えています。

東京電力福島第一原子力発電所事故により、福島の食品の安全性確保が注目されました。お米以外の野菜や果物などの農産物に関しては、福島県が「サンプル検査」(生産物の一部の放射能濃度を検査する検査)を継続的に実施しています。ただしお米だけはサンプル検査ではなく、出荷前のすべてのお米を検査する「全量全袋検査」としています。古来からの日本人の主食であり、農業の根幹であるお米を絶対に守るという強い思いの表れなのかもしれません。

福島のお米の全量全袋検査では、2015年産から5年連続で国の基準値を超える検体は出ていません。それどころか、検査対象の99.99%以上からは放射性物質が検出されていません。原発事故から9年を経て放射性物質の自然減衰が進んだことが大きな要因ですが、原発事故直後から、農家の皆さんが、米づくりをあきらめずに対策(放射性セシウムが稲に吸収されることを防ぐために、土壌にカリウムなどを混ぜる)を続けた多大な努力の成果でもあります。

福島のお米について、ありもしない危険性をほのめかしたり、誤った情報を発信したりする例がこれまでにたくさんありました。根拠のない誹謗中傷にも負けず、日々の地道な農作業を続け、おいしいお米を作り続けた農家の方々がいます。「自分たちはお米をつくることしかできないから」という言葉も何度か耳にしました。彼らの静かな抵抗は何よりも強く、原発事故に伴う風評被害の払拭は着実に進んでいます。福島の農家の人たちは、我が子のように丁寧に稲を育てています。お米に対する確かな自信を抱く、農家の人たちの姿勢に触れると、福島のお米づくりの伝統は未来永劫続いていくのだと希望を感じます。

食味ランキングで「特A」を獲得した4銘柄のほかにも、福島県が開発した「天のつぶ」というお米があります。「天のつぶ」は15年の歳月をかけて開発され、「天に向かってまっすぐに伸びる稲の力強さと、天の恵みを受けて豊かに稔る一つぶ一つぶのお米」というイメージから命名されました。稲は台風などの雨や風によって倒されてしまうことがありますが、「天のつぶ」は強い嵐でも倒れにくいしなやかな強さを備えています。逆境にも折れず、たゆまず前進する福島の姿を象徴しているようです。(2020年3月9日更新)

参考リンク
「食味試験」(日本穀物検定協会)
http://www.kokken.or.jp/ranking_area.html