全国の桐材のおよそ4割が福島県産――今月10日は全国植樹祭

東日本大震災の津波により、福島、宮城、岩手県沿岸部は甚大な被害を受けました。福島では海岸防災林の約6割が流出し、さらに東京電力福島第一原発事故の影響で林業が大きなダメージを被り、昔から守られてきた里山と人との関わりが薄くなったとも言われています。

 

福島県は、広大な県土の約7割が森林に覆われ、森林面積は全国第4位の“森林県”です。中でも、下駄やタンスの材料となる桐の生産量は全国トップ。林野庁によると、2016年の国内の桐材生産量は491.7立方メートルで、そのうち196.5立方メートルは福島県で生産されています。つまり「全国の桐材のおよそ4割が福島県産」という圧倒的なシェアを誇っているのです。

 

福島県内で桐材生産が盛んなのは、主に、会津地方の三島町、柳津町、金山町です。歴史をひもとけば、会津藩初代藩主の保科正之が、産業振興策として桐の生産を奨励したことが、「会津桐」のルーツとされています。

 

会津地方には冬場に豪雪に見舞われる地域が少なくありません。「会津桐」生産地も冬は厳しい寒さとなります。この気候が、緻密で美しい年輪を備えた光沢のある桐を生み出しています。丈夫で軽いことから、大切な着物を保存するタンスや、カランコロンと小気味良い音を響かせる下駄が盛んに作られてきました。江戸幕府三代将軍徳川家光の愛用品のうち、桐製品はほとんど「会津桐」だったとも伝わります。

 

現在、桐製品は高級なものとのイメージが強いですが、もちろん、地域の人々の生活にも、大きな影響を与えました。かつては、娘が生まれると桐を植林するという習わしがありました。この桐を、娘とともに大切に育て、嫁入りの際にはその桐で箪笥を作り、嫁入り道具としたようです。

 

福島県内の林業現場を訪ねると、「撫育(ぶいく)」という言葉をよく耳にします。撫でるようにかわいがりながら木を育てる――という意味です。福島県が全国に誇る桐の生産地となった背景には、福島の人々と森林が長年築いてきたこの密接な関係があるでしょう。

 

 

じつは、日本の桐材生産は、海外産に押されて急激に減少しています。かつては、会津桐のほかにも桐生産が盛んな地域が多くありました。ところが、林野庁によると、現在まとまった量の桐材を生産するのは4県のみです。この背景を鑑みれば、「福島県の桐生産量全国トップ」は、多くが目指す競争を制したのではなく、厳しい環境になっても大切なものを守り次世代へ引き継ごうという、福島の矜持が育んだ成果なのではないでしょうか。

 

福島県三島町では、今も桐の植林を続けています。毎年5月頃に、同町のあちらこちらで紫色の桐の花を楽しむことができます。三島町などの会津地方は、福島県の西側に位置し、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の直接の被災地から少し離れていますが、福島の文化を守り受け継ぐ努力は相通ずるものが多いでしょう。

 

今月10日に福島県南相馬市で「全国植樹祭」が開かれます。福島の人々と森の関係をみつめなおす機会になることでしょう。福島県が開設した特設サイトでは植樹祭について紹介されています。南相馬市の式典は参加申し込みを締め切りましたが、県内各地のサテライト会場・PR会場で開催される様々なイベントには、誰でも参加できます。

 

 

 

 

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