続・福島の甲状腺がんと放射線被ばくに関連なし――福島県「県民健康調査」検討委員会

福島県では、東京電力福島第一原発事故当時におおむね18歳以下だった県民に対して、甲状腺検査を実施しています。

 

検査は、「先行検査」と「本格検査」に分けられます。先行検査では、原発事故による放射線被ばくの影響がない状況での甲状腺がんの発見率を把握します。本格検査では、原発事故による放射線被ばくと甲状腺がんの発見率との関連を把握します。

 

福島県県民健康調査検討委員会は、2019年7月8日に本格検査1回目の結果に関するまとめを行いました。委員会は、前月の検討委員会の下部組織・甲状腺検査評価部会がまとめた、本格検査1回目で見つかった甲状腺がんに「放射線被ばくとの間の関連は認められない」(https://synodos.jp/fukushima_report/22744)とする内容を大筋で了承しました。

 

甲状腺検査評価部会は、UNSCEAR(原子放射線に関する国連科学委員会)の推計した甲状腺被ばく線量を用いて、市町村別の甲状腺がんの発見率と放射線被ばく線量との関連を解析しました。その結果、「現時点において、甲状腺検査本格検査1回目に発見された甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない」としています。

 

7月8日の検討委員会では、この日出た委員の意見を集約した上で、甲状腺検査評価部会のまとめを修文し、委員同士の確認を経た上で完成させることに決定しました。

 

なお、検討委員会では、委員からは以下のような意見が出ました。(要旨)

 

 

【稲葉俊哉委員(広島大学原爆放射線医科学研究所教授)】

 

(甲状腺検査評価部会のまとめ案について)細かいところまで気を配ってまとめられており、すばらしいと思う。内容的にも申し上げることはない。

 

放射線腫瘍学の立場からみると、福島第一原発事故による放射線の甲状腺被ばく線量は、非常に少なかった。もし「福島第一原発事故による甲状腺被ばく線量が高かった」と仮定すると、UNSCEARの、原発事故後の生態系への影響など他の分野の報告と矛盾する。このことからも、「福島第一原発事故による放射線の甲状腺被ばく線量は低かった」と考えられる。甲状腺被ばく線量がこれほど低い状況で、さらに線量を細かく区分していくのは強引だ。それを明らかにするためにも、「福島第一原発事故による放射線の甲状腺被ばく線量はそもそも低かった」ということには、どこかで触れたほうがよい。

 

「甲状腺がんの発見率と放射線被ばく線量との関連はみられない」という評価には賛成だ。また、そもそも甲状腺への放射線被ばくが少なかったことから、福島の甲状腺検査では「定常状態」(放射線被ばくが平常時と変わらない状態)をみているというコメントがあってもよいのではないか。放射線被ばくがなくても、これほど大規模な甲状腺検査を行えば、一定の確率で「甲状腺がん」と診断がつくようなものがみつかる。もし大規模な甲状腺検査を行った結果見つかった「甲状腺がん」と診断のつく小さな病変が、診断と治療をしなければすべて大きくなるようなことがあれば、これまでの疫学の知見と矛盾する。

 

 

【津金昌一郎委員(国立がん研究センター・社会と健康研究センター長)】

 

発見された多数の甲状腺がんが、もし「過剰診断」によるものならば、甲状腺検査の実施は許されないことだ。10~30年の「前倒し発見」(10~30年後に症状が出るような甲状腺がんを、早めに診断している状態)ならば、臨床がんを未成年期に見つけているということを明示すべきだ。たとえば、40代で見つかるがんを、10代で見つけることで、患者を未成年で「がんサバイバー」にすることが本当によいことか疑問だ。

 

放射線被ばく線量と甲状腺がんの発見率との関連についての調査としては、受診率の低下のほかにも、さまざまな交絡因子やバイアスがある。そもそも甲状腺被ばく線量が低かったために、それらの交絡因子やバイアスを取り除いて、福島第一原発事故による放射線の影響を検出することは難しい。福島の甲状腺検査は、疫学研究としては既に破綻している。どんなに優秀な疫学研究者でも、福島の甲状腺検査のデータから放射線の影響を検出することはできないと思う。

 

「甲状腺検査のお知らせ文改定案」について、デメリットの記述が、「過剰診断が全く起こらない」という誤解を招くのではないかと懸念する。たしかに、2016年に「日本は欧米に比べて過剰診断が少ない」という論文が出ている。日本のがん検診における過剰診断の割合は、アメリカや韓国に比べれば相対的に少ない。しかし、「日本では過剰診断が起こらない」ということではない。「過剰診断は起こる」ということを明示しなければならない。

 

具体的には、「一般的に、がん検診として甲状腺に超音波を用いた集団スクリーニングを行うことは、メリットとデメリットを考え、推奨されていません」と示すべきだ。さらに、国際的な専門家グループ(https://synodos.jp/fukushima_report/22298)が「原発事故後でもあっても、甲状腺への放射線被ばく線量が低いと推定された場合は、すべての住民を対象とするスクリーニング検査を行わないことを推奨している」と提言しているという情報を、住民に対して提供した方が良い。

 

 

 

 

リンク

・第35回「県民健康調査」検討委員会資料

https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kentoiinkai-35.html

・福島で見つかる甲状腺がんは放射線被ばくとの関連がない

https://synodos.jp/fukushima_report/22744

・「甲状腺スクリーニング検査を実施しないことを推奨する」――IARCの勧告

https://synodos.jp/fukushima_report/22298

 

福島の「いま」を伝える情報サイト「福島レポート」

1
 
 
シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

・外山文子「タイは民主化するのか?」
・中西啓喜「データサイエンスは教育を「良い方向」に導くのか?――学級規模の縮小を例として」
・笠木雅史「実験哲学と哲学の関係」
・穂鷹知美「求む、国外からの介護福祉士――ベトナムからの人材獲得にかけるドイツの夢と現実」
・久木田水生「ロボットと人間の関係を考えるための読書案内」
・吉野裕介「【知の巨人たち】ハイエク」
・内田真生「ヒュッゲ(Hygge)とは何か?――デンマークが幸せの国と言われる理由」